いよいよ始まる新時代F1のプレシーズンテスト……しかしその初回、バルセロナでの5日間が完全非公開で行なわれる理由
2026年のF1プレシーズンテストが、本日26日から始まる。しかしここから5日間は非公開……これについては、F1側がPR面における大惨事を懸念したからという指摘もあるが、これは的外れであろう。
Sergio Perez, Cadillac
写真:: Cadillac Communications
人間の脳は、変化や予期せぬ状況にストレスを感じるように出来ている。逃走・闘争本能を司る扁桃体は、変化を脅威と認識するものだ。
F1に2026年レギュレーションが導入されることに対する様々な否定的意見は、この扁桃体の働きによるものかもしれない。ドライバーたちが2026年マシンをシミュレータで初めて体験した時に抱いた不満、そして最初のテストが非公開で行なわれることに対する批判的な意見などだ。
1月26日から5日間にわたって、バルセロナ-カタルニア・サーキットで、新レギュレーション下で初となるプレシーズンテストが行なわれる。しかしこれは完全非公開での開催だ。
このことについてはファンの一部に不快感を与えた。F1のあらゆる言動がSNSを介して発信される時代だということを考えれば、当然の批判と言えるかもしれない。メディアの中にも、新レギュレーション下で生み出されたマシンがうまく走らないことを懸念して、”恥”をかくことを避けるために意図的に非公開とされたと論じる記事を配信しているところもある。
しかしこの意見は、F1がモータースポーツの1カテゴリーであると同時に、ビジネスであるという側面を考慮していない。新レギュレーションが確実に機能していることを、F1は確認することに注力している。ネガティブな報道が流布するのを避けたいのは当然であろうが、テストがPR面における大惨事を避けるためだけに無観客で行なわれるという見方は、メディアという金魚鉢の中で、長きにわたって活動してきたことの産物である。
公式発表では、このバルセロナでの5日間のテストは、シェイクダウンテストという位置付けだ。しかしこれは、説得力のない言語的策略と解釈されかねない。
シェイクダウンは、すでにいくつかのチームがフィルミングデーを活用して完了している。しかしフィルミングデーで走れるのは、1日あたり200kmまで、ほとんどのチームは、もっと長い距離を走りたかったとしている。ガレージにとどまることが多かったチームもあったようだが、これは予期せぬ技術的トラブルのためではなく、悪天候のためだったことがほとんどだ。
Lewis Hamilton, Ferrari SF-26
Photo by: Federico Basile | AG Photo
2014年にF1にV6ターボエンジン+熱&運動エネルギー回生のいわゆる”パワーユニット”が導入された当時、多くの関心が寄せられた。そして、一部のチームやドライバーは困惑した。当時のハイブリッド技術は今のようには成熟しておらず、ある意味新技術という存在だった。そんな中でサプライヤーによって理解度の違いがあり、得にルノーは準備不足で、後れを取った。
今ではハイブリッド技術は成熟し、F1はもちろん様々なレースで使われるようになっている。市販車でも随分と浸透した。今年はレギュレーションが変更されるとはいえ、エンジンの技術は実証済み。ハイブリッドシステムに関しては、複雑かつ高価であり、F1で使う上では厄介であった熱エネルギー回生システム(MGU-H)が廃止されたため、技術面ではシンプルなモノになった。そのため、2014年のように”トラブルだらけで満足に走れない”というような状況とはならないだろう。
ただその一方で、マシンのパッケージとして見た時には、新しい要素が多数存在する。アクティブエアロ、そしてパワーユニットで扱う電力量が増えることは、これまでシミュレーションで徹底的に検証されてきたとはいえ、効果的な使用法、信頼性の観点から、実際にサーキットを走って、実証していくことが必要だ。
新PUは、テストベンチでは確認できなかった信頼性の問題に直面する可能性がある。新しい燃料流量センサーなど、新たに搭載された機器も、サーキット走行という過酷な環境で、問題が起きないことを実証する必要がある。
チームとFIAが細かく調査するもうひとつの領域は、回生とデプロイが、シミュレーション通りであるかということだ。FIAのシングルシーター・ディレクターのニコラス・トンバジスは先週、英国・ロンドンで開催されたオートスポーツ・ビジネス・エクスチェンジの際に、電気エネルギーの取り扱いには「かなりの柔軟性」があり、どう調整すべきかと判断するには実走行データを確認する必要があるとしている。
ドライバーが、その扱いに慣れることも重要だろう。電気エネルギーの使用量が増えるということは、ブレーキング時にリフト&コーストを多用して、たくさんの電気エネルギーを回生しなければいけないということになるからだ。これは、F1マシンのコントロール方法が、これまでとは大きく変わる可能性が高いということを意味する。ドライバーたちはファクトリーのシミュレータでこのドライビング方法を試しているはずだが、実際のマシンを走らせ、それを身をもって体験していかなければいけない。
またドライバーたちは、アクティブエアロの挙動にも慣れなければいけない。このアクティブエアロが導入されたことで、ドライバーはマシンを最も速く走らせるために、「オン」と「オフ」をどう切り替えるべきかを学ぶ必要がある。また、それを切り替えた時の挙動やバランスの変化についても、実際に走ることでより深く理解したいと考えているはずだ。
George Russell, Mercedes W17
Photo by: Mercedes AMG
2022年にグラウンド・エフェクト・カーが導入された時には、複数のマシンが激しいポーパシング(ダウンフォース量の変化により、マシンが上下に激しく揺れてしまう現象)に悩まされることになった。その時のような深刻な問題となる可能性は低いものの、何らかの予期せぬ問題に遭遇してしまう可能性もゼロではない。
今年最初の合同テストは、そういう様々な変更点があるため、注目度が高まるのは当然である。ファンやメディアが、マシンの外観だったり挙動、そして新しいPUのサウンドを知りたがるのも当然だ。
通常のシーズンならば、最初のテストで各車のパフォーマンスや勢力図がある程度見えてくる。しかし今年のバルセロナでのシェイクダウンテストは、例年とは異なる。走行の大部分は、車両に大きな問題がないことを確認するだけということになるだろう。またテストは5日間設けられているものの、各チームはそのうち3日間しか走ることができない。そのため、マシンが全く走らない日がある可能性も十分に考えられる。
この走行スケジュールは、各チームの考え方によっても大きく左右される。例えば昨年王者のマクラーレンは、実際に走行を始める前にできる限り車両を成熟させたいと考えている。そのため、最終的なマシンの組み立てはギリギリまで遅らされ、少なくとも初日は走らないことがすでに決まっている。一方でアルピーヌは、既にシェイクダウンを済ませているだけでなく、シーズン序盤に投入するアップデート計画も策定……そのため月曜日から走行する予定だ。
そういう意味で、サーキットに行ったとしても、観客にとっては通常のテストよりもはるかの退屈なモノになる可能性が高いだろう。おそらくほとんどのチームは、バーレーンでのテストまで、パフォーマンスを向上させることには注力しないと見られるからだ。そしてできるだけ多くの距離を走るため、バルセロナでの5日間のうち、どの3日が最もコンディションが適しているか、それを見極めた上で、のんびりと走行することになるだろう。
F1 TVでは、限られた量のドライバーやチーム関係者へのインタビューを行なう予定だ。ただこれは、これまでと比べると限定的なモノである。
これは関係者が、発信される情報をコントロールしていることの証左だという声もあるが、それは違う。噂は必ず広まるし、期待値は高まる。
しかし全編テレビ中継されることとなれば、走行しない時間も多くなるはずであり、実況・解説陣はその空白を埋めるために苦労することになるだろう。ライブテキストを打つ編集者も同様だ。
ここからの5日間は、まずはみなさんゆっくりと、発信される情報をお待ちになるのがよろしかろう。
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