コラム

跳ね馬を背負う重圧も楽しめる男。フェラーリF1の再建託されたフレデリック・バスール新代表、その初会見で感じたコト

今季からフェラーリF1チームを率いるフレデリック・バスール。チーム代表就任からわずか数週間しか経っていないが、既にフェラーリをトップに返り咲かせる覚悟は決まっている。おそらくモータースポーツ界で最もプレッシャーのかかる仕事だが、彼はそれを楽しもうとしている。

Frédéric Vasseur, Ferrari

 モータースポーツで働く多くの人々にとって、フェラーリF1チームの首脳陣となってそのチームウエアに袖を通すことは、キャリアのピークとなる瞬間と言っていいだろう。それは今季からフェラーリのチーム代表に就任したフレデリック・バスールも同じ……かと思いきや、彼の価値観は異なっているようだ。ジュニアカテゴリー時代から一貫して勝ちにこだわってきた彼は、跳ね馬のロゴを身に付けただけで満足するつもりはさらさらない。

 先日、バスールは初めてマラネロのオフィスに足を踏み入れ、集まったメディアに対して自信が感じたことや期待感などを語った。彼のことを昔から知っている者にとっては、彼がこれまでと全く変わっていないと思わされることもあれば、いくつか変わったと感じられる点もあった。

 もちろん、彼を取り巻く環境で最も変わったと言えるのが周囲からの目だ。名門フェラーリでの仕事はどこよりもプレッシャーがかかるものであり、忍耐力や集中力が問われる。また社内政治に巻き込まれることもあるだろう。ただバスールはそれを理解しているし、そこに足を踏み入れることを恐れてはいない。

「“怖い”、というのは適切な言葉ではないだろう」

 バスールはそう語る。

2022年は速さのあるマシンがありながらレッドブルに惨敗したフェラーリ

2022年は速さのあるマシンがありながらレッドブルに惨敗したフェラーリ

Photo by: Ferrari

「このような大きな挑戦をする場合、自分自身、さらには家族までも危険にさらす可能性があることは承知している。しかし、テニスをするならウィンブルドンで勝ちたいものだし、レースをするならフェラーリで勝ちたいものだ」

 ただ、そういったプレッシャーが彼の人格に影響を与えているようにも思えない。いつものように陽気で、質問中に噛んだ記者やマイクの電源を入れ損ねた記者に笑いかける。同じフランス人でかつてフェラーリを率いていたジャン・トッドとの共通点を問われると「国籍の他には、体型かな!」とジョークを飛ばす。

 それだけでなく、バスールの仕事に対する強い意志も感じられた。彼は昨年のフェラーリの何が良くなかったのか、将来に向けて何をすべきかについて早合点するつもりはない。モータースポーツの世界では、外から見えていることと実際に起こっていることが大きく異なる場合が往往にしてある。バスールはそれをよく理解しているからこそ、結論を急ぎたくないと考えているのだ。

「自分が外部の人間だった時、チームに何が起きていたのかについて明確な意見を持つのは難しい」

「私は決して傲慢になるつもりもないし、過去に起こったことについて断言するほど傲慢ではない」

「この仕事で一番難しいのは、チームで何が起こったのかを理解し、明確な分析をして行動を起こすことだ。これが本当に大変なことで、私は今後それ以外のことをしなくなるだろう」

 チームの課題を明確にするために、バスールはまずイタリア語のレッスンを受けたという。そしてこの2週間、マラネロの人々とコミュニケーションを取ることで、その内情や潜んでいる落とし穴を探っていたのだ。

まずはチームスタッフとのコミュニケーションに尽力した

まずはチームスタッフとのコミュニケーションに尽力した

Photo by: Ferrari

「まず最初に目指したのは、出来るだけ多くの人と会って色んなことを理解するということだった。どのチームもやはり人間関係が第一になってくる。既に30人〜35人ほどと顔を突き合わせて話した。彼らと仲良くなりたいし、これが最初の2週間で一番時間をかけた仕事だ。今のところとても好感触で、ポジティブなムードだと言える」

 またバスールは前任者であるマッティア・ビノットともコミュニケーションをとったといい、ビノットが率直にアドバイスを送ってくれたことに感謝している。そして、アブダビGP後にビノットの辞任が発表された段階で、既にバスールの就任は決まっていたという噂も否定した。

「プロセスは明確だった。アブダビで色々噂が流れたようだが、我々はその前に話をしていた事実はない」

「最初に話し合いをしたのはアブダビの翌週で、プロセスとしてはとても迅速だった」

「それからマッティアと話をして、引き継ぎの際にも彼と会って、1対1で話し合いをした。私としては非常にありがたかった」

前任のビノット(右)からも助言を受けた

前任のビノット(右)からも助言を受けた

Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

 さらにバスールは、トッドとも話をする予定とのこと。そしてフェラーリ会長のジョン・エルカーンやCEOのベネデット・ヴィーニャなど、上層部との関係も既に強固なものだという。

「ベネデットとは非常に近い関係だ。週に2、3回は夕食を共にするし、電話も毎日する。これは良い方向に傾くと思う」

 バスールの中では今後数週間、数ヵ月でやることは固まっている。それはマラネロのファクトリーで暴れ回り、チームやファクトリーを抜本的に変えるということではない。

 実際、2023年仕様のマシンもパワーユニットもほぼ完成しており、バーレーンテスト開始まで1ヵ月を切っているということもあり、今すぐにスクラップ&ビルド的な改革をするのは間違っているだろう。ポテンシャルがありながら王座を逃した2022年のようなシーズンを繰り返さないためには、まずチームが一丸となって最高の状態を保つことが最善だとバスールは考えている。

「これはフェラーリに限らずどのF1チームにとっても複雑な課題になるのだが、チームを構成する全ての人々との間に良好な協力関係を期待できるようにしなければならない」

「私の最初の仕事は、みんなが同じ方向を向いて仕事ができるようにすることだ」

「外から見れば、F1はシンプルな構造だと思われているようだが、実際には違う。誰かと(新たに)仕事をしようとなった場合、18ヵ月〜24ヵ月かけてようやく動きだし、翌年のマシン開発に取り組むことになる」

「つまり、チームに入ったばかりの新入りが持つ影響力は小さい。だから今はチームの精神やモチベーションの話をしているんだ。そこに関してはもっと早く変えていくことができる。チームのモチベーションを高めていくことが私の最初の仕事だ」

 トップチームとして君臨しながらも、チャンピオンの座からは長年遠ざかっているフェラーリ。この先も決して平坦な道のりではないだろう。ただバスールは、それによって夜も眠れなくなるということはないと語る。

「よく眠れるとは思うが、プレッシャーは感じる必要がある」

「プレッシャーを感じないなら、それは仕事の仕方が間違っている。プレッシャーもこの世界の一部だ」

 
関連ニュース:

Be part of Motorsport community

Join the conversation
前の記事 マクラーレン、F1リザーブドライバーにミック・シューマッハーを起用。メルセデスと”ピンチヒッター”をシェアする形に
次の記事 新シーズンに向けて”ホンダ製”PUが鼓動する……アルファタウリ、角田裕毅駆るニューマシン『AT04』を始動!

Top Comments

Sign up for free

  • Get quick access to your favorite articles

  • Manage alerts on breaking news and favorite drivers

  • Make your voice heard with article commenting.

エディション

日本 日本