F1ドライバーの『引退後』第二の人生、4度王者のセバスチャン・ベッテルでも”怖さ”拭えない?
セバスチャン・ベッテルはF1引退後の人生について、”穴”にハマってしまうことを恐れているという。4度のF1王者は第二の人生をどのように進んでいくつもりなのだろうか?
写真:: Zak Mauger / Motorsport Images
2022年シーズン限りで、F1からの引退を表明したセバスチャン・ベッテル。彼は第二の人生へと歩みだそうとしているが、『F1以外』の人生に向けては4度の王者と言えども不安はあるようだ。
F1ドライバーの引退後の人生というのは、多くのドライバーにとって直面する課題となっている。一部は別カテゴリーへ移ったり、また一部は解説者の役割を担ったり、また別の一部では将来の世界チャンピオンを目指す息子への指導へ力をいれたりする。
一般的にほとんどのドライバーはモータースポーツに没頭し、サーキットで多くの時間を過ごしてきている。そのため、自身の良く知っている世界から離れることは難しいと彼らは感じている。
もちろん政治家へ転身したカルロス・ロイテマンやビジネスの世界に飛び出したジョディ・シェクターなど例外も存在する。そして、ベッテルが”カウチポテト”(ソファーでダラダラと過ごすこと)に身を委ねたり、道を迷ったようにサーキットをぶらぶらしないだろうことは明らかだ。彼の環境問題や社会問題への関心は、レースから離れた様々な種類の扉を開くはずだ。
当然、彼がこのスポーツとのつながりを維持したいと思った場合、オファーが不足することもまずないだろう。しかし、彼は単純な広告塔などの役にはあまり興味を惹かれないはずだ。
なお引退を明かしたベッテルは、ハンガリーGPの木曜日時点では、今後に関するしっかりとした計画は無いと語っていた。
「次に何が起こるのかをいつも楽しみにしているんだ。それが僕の仕事のやり方でね」と、ベッテルは言う。
「今日、僕はまだ最高のレースはこれからだと話したけど、確かにこれは”でたらめ”かもしれない。引退するんだから、これ以上レースがどこにあるんだ、とね」
「でも僕は人生として、もっと大きな観点からそう話しているんだ。スポーツに打ち込む男性も女性も、おそらく最大のチャレンジは他のことをやろうと決めた時に待っていると思う。だから、僕もそれに直面しているんだ」
Daniel Ricciardo, McLaren, hugs Sebastian Vettel, Aston Martin
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
ベッテルは家族との時間やコース外で過ごす人生が重要なことだと、引退理由について語った際に言及していた。ただベッテルとしても、引退したF1ドライバーが残された空白を埋めることが容易ではないということは、認識しているようだ。
「正直、これからどうなるかは僕も怖いんだ。”穴”があるかもしれないからね。それがどれだけ深いかも、抜け出せるかどうかも分からないんだ」
「でも僕は多くの支援を受けていて、これまでに助けてくれたたくさんの人もいる。この先も助けてくれるだろうし、僕に方向性や道筋を与えてくれるだろう」
「そして、10年後により良い自分になっているためにも、将来に向けて正しい決定を下せればいいなと思う」
またベッテルは”性根”の部分では他のドライバーと同じようにレーサーであり、レースを最も恋しく思うだろうことは否定していない。
「ああ、マシンを走らせるときの唸りやトラックで戦って得られるアドレナリンは、もちろん僕も考えているし、本当にそれに代わるモノはないのかもしれない」
「そして、そうしたアドレナリンを得られる別の何かを見つけようとしたり他の人たちがそれにどう対処してきたのかを見てきた。まだ10レースも残っているから、また来年は違ってくるだろう」
「もちろん、これは僕の準備しなくてはならないコトだ。今日の段階では僕にできる限りの準備をしていると思う……まだ先の話だけどね」
「何かレースをしたいと思ったら、子どもたちが毎日僕に何でもレースをさせようとするんだ。楽しいのも、楽しくないのもあるけどね!」
「実際、何かレースをしたければ、僕も考えることはできるだろう。でもまたレースを何かしたいと分かっていながら離れるのは、間違ったステップだろうと思うんだ」
Sebastian Vettel, Aston Martin
Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images
そう語るベッテルだが、他カテゴリーでのレースの可能性を完全に排除しているわけではない。当然、すぐに新たなカテゴリーに行く予定は無いが、WECやツーリングカー選手権ならば、F1に比べ転戦の負荷も少なくなる。
最終戦アブダビGP後に何が起こるかを訊かれた時、ベッテルは「F1でのラストレースになるだろう」と答えた。
「(どうなるかは)分からない。僕は年齢的には、F1でもっとやるにしろ他で何かをするにしろ、問題にはならないと思う。年齢が僕の限界じゃないんだ」
「肉体的にも絶好調だし、クルマを走らせるのに問題はゼロだ。だからその点で僕を縛るものは無い。でもイエスもノーも答えられるものじゃないんだ。僕は”今の章”を終わらせるという決定を下したんだ」
「今の章が終わるというのは、すぐに別の章が始まって、来年別のクルマを走らせているから、ということではない。僕の決断はそうしたものじゃないんだ」
「大きな変化を目の当たりにして、それにどう対処するかは、さっきも言ったようにまだ分からない。時間が解決してくれるだろう。それが今の最も誠実な答えだと思う」
Sebastian Vettel, Aston Martin
Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images
いずれにせよ、ベッテルはこれまで行なってきたように環境保護に関する活動を続けることは確かだろう。F1ドライバーとしての地位にあれば、より大きな発言力を持てることは彼も認めるところだが、その点については折り合いをつけたという。
「何かのトピックに対して自分の意見を表明したり、自論を語るためだけに、レースを続けたり、競争力を保とうとするのは間違ったモチベーションだと思うんだ」
「もちろん、僕もそれ(F1ドライバーとしての影響力)については考えたし、声の届く範囲も失うことになるかもしれない。でも僕にとって、声や手の届く範囲が一番大事なことは決してなかった」
「僕らは人類がこれまで直面したことのない、最大の試練に直面していると思う。もし、僕らがレースで勝つことができなくとも、世界は回り続けるんだ。僕らがいなくともね」
「僕はこのテーマに興味を持っている。一度興味を持つと、気づいたら習慣になったり、成長していくのかもしれない。そうすることでより多くのことを考え、次につながっていくんだと思う」
「そして問題の大きさを理解するにつれ、ネガティブな方に考えたり、将来に大きな不安を抱いてしまったりもする」
「でも同時に、僕は多くの本を読んだり、色々な話を聞いて、将来をより良い場所にするために奮闘して、命さえも犠牲にしている人に出会った」
「やらなければならないことはたくさんある。でも、前面に立つのは僕の信念であり、アジェンダやキャンペーンじゃないと思う」
ベッテルは引退以降は家族との時間や他に興味のあることを優先すると明らかにしているが、将来は開かれた状態にあり、物語がどう展開していくかは分からないと繰り返した。
「僕がそれで十分に満足しているのかと言われれば、答えは出ないし、時間が解決してくれるだろうと話すことになる。何か別の方向に向かおうと決めたなら、その先に何が待っているかは分からないモノだ」
「でもそれを知りたいと思うし、今に固執するよりも次に何があるのかを知りたいんだ」
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