“非歓迎ムード”なアンドレッティのF1参入計画……しかしキャデラックとのタッグで風向きは変わる?
アンドレッティとキャデラックが手を組んでのF1参戦計画が明らかとなったが、これはアンドレッティの参入に難色を示してきたF1の考えを改めさせる材料にはなり得るのか?
かねてよりF1への参入を目論んでいたアンドレッティはこの度、キャデラックとタッグを組んでF1参戦を目指す計画を明らかにした。アメリカでF1ブームが巻き起こっている中、アメリカの名門チームがアメリカの大手ブランドと共に、アメリカ人ドライバーを起用してF1に乗り込もうとしているというニュースは、参戦台数増加を望むファンからも好意的に受け止められていた。
しかしながら、F1側の反応は歓迎ムードとは程遠いものであった。F1はアンドレッティの発表の後に声明を出したが、そこにはアンドレッティやキャデラックの名前には一切触れられておらず、新規参入チームにはFIAだけでなくF1の承認も必要だということが強調されていた。
アンドレッティ・グローバルがF1参戦に関心を示した当初から、既存チームは特に分配金などが少なくなることを懸念しており、相当なビッグネームでない限りF1に新チームは必要ないという風潮であった。しかし、アンドレッティがアメリカ最大の自動車メーカーであるゼネラルモーターズ(GM)のサポートの下でF1参戦を計画していることが明らかになった今、パドックの空気感は変わっていくのだろうか?
GMは近年、レースへの関心を高めている。同社のブランドであるキャデラックやシボレーは、IMSAやインディカーといったアメリカのレースシーンで活躍してきたが、キャデラックがLMDh車両でのWEC(世界耐久選手権)参戦を決めたことからも、彼らが世界的な展開を目指していることがうかがえる。
そして、次に目指す先はF1、ということだろうか。GMのマーク・ロイス社長は、これまでは様々な理由によりF1参戦が「かなり難しい」状況にあったと語っている。実際、GMはバラク・オバマ政権下ではアメリカ政府による救済を必要としていた。しかし現在は状況が変わっており、2022年の第3四半期の収益は419億ドル(5597億円)と過去最高を記録した。
そしてGMにとっては、アンドレッティとの関わりがF1への関心を高めるにあたって非常に重要であった。この二者が組むことで交渉は加速し、F1参戦計画を発表するに至ったのだ。
LMDhでWEC,IMSAに参戦する予定のキャデラック
Photo by: Michael L. Levitt / Motorsport Images
チームは“アンドレッティ・キャデラック・レーシング”となる可能性もあるが、少なくとも参戦当初のパワーユニット(PU)はGMの自社製にはならないことに注意しなければならない。アンドレッティもロイスも計画の詳細については明らかにしていないが、アンドレッティはチームが「多くのコラボレーションをしていく」ことを示唆している。
そのため、F1の歴史にキャデラックの名前が刻まれることはあっても、GM製のPUが投入されるということはなさそうだ。つまり、現在のアルファロメオやアストンマーチンのような参戦形態となる可能性が濃厚だ。アルファロメオは基本的にタイトルスポンサーという形でF1に参画しており、アストンマーチンもワークスチームという立ち位置とはいえ、やはりメルセデス製のPUを搭載している。
ただ、そういった参戦形態も将来的には変わっていく可能性もある。ロイスはキャデラックとアンドレッティとのパートナーシップが「カラーリングだけにとどまらない」ものであると明言しており、アンドレッティがGMのあらゆるレース関連施設にアクセスできるようになると話していた。
「GMの膨大なエンジニアリングリソースは、このパートナーシップにおいて成功と価値ある貢献をもたらすだろう」
ロイスはそう語る。
「それには、ミシガン州ウォーレンにあるテクニカルセンターの設備、GMレーシングのスタッフの才能、バッテリー技術やターボ技術におけるエンジニアやデザイナーの知見など、あらゆるものが含まれている。希望する場合は、もっと多くの分野を内製して真のオール・アメリカンチームとする余地もあるだろう」
これらはGMがF1に本気であることの証明と言える。アルファロメオのCEOのジャン-フィリップ・インパラートは以前、motorsport.comのインタビューに対して、ザウバーとパートナーシップを組むことで、ワークスチームを運営するコストをかけずにF1の莫大なマーケティング効果を享受することができ、それは「地球上で最高の投資収益率」だと語っていた。しかし前述のようにGMとアンドレッティの提携は技術面にも及び、さらに深いものになると予想される。
Cadillac's involvement in the proposed Andretti team would run much deeper than Alfa Romeo's current Sauber tie-up
Photo by: Alfa Romeo
今回の発表が行なわれる前までは、アンドレッティの参入はF1関係者の心を躍らせるものではなかっただろう。2台のマシン、ドライバーが増えることでレースの盛り上がりは増すかもしれないが、アメリカのチームという点では既にハースがあり、既存のメーカーと組むだけでは何も生み出さないと考えられたからだ。
しかしキャデラック、GMの存在が状況を変えるかもしれない。F1は世界の自動車メーカーがこぞって参戦したがるシリーズを目指しており、現在はフェラーリ、メルセデス、ルノー、そしてホンダが関わっている。ホンダは2021年末でF1を撤退したとはいえ、HRCを通してレッドブルへの技術支援を続けており、2026年に向けたPUの製造者登録を済ませるなど、正式な復帰の噂が絶えない。そしてアウディは2026年からの参戦を発表済みで、ポルシェも未だそこに加わることを画策している。ここにアメリカを中心に世界で絶大な存在感を放つGMが仲間入りすれば、F1にとっても悪い話ではない。
キャデラックというと、スピードやラグジュアリーを連想されるようなブランドではないかもしれないが、GMはそういった見方を改めたいと考えている。ロイスは次のように語る。
「我々はこれまで長い間進出してこなかった分野に顔を出し、キャデラックをグローバルなブランドに拡大していく。(F1は)キャデラックの成長に繋がる露出を提供する。自動車メーカーにとって最高のマーケティングツールなのだ」
とはいえ、アンドレッティとキャデラックにはまだ多くのハードルが残されている。FIAのモハメド・ベン・スレイエム会長がいくら前向きでも、F1とその参戦チームからの支持を得られない限りはF1参入が実現しない。
マクラーレンとアルピーヌは、新規参入チームによってF1全体の収益が向上すると見込んでいるため、アンドレッティの計画に賛同していると言われる。そしてここにGMが加わったことで、他の8チームも収益面での懸念を表明しづらくなった可能性があるが……果たしてF1はどう動くのか? 今後の動向が注目される。
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