連載|ヒミツがたくさん! 理論派F1候補生、岩佐歩夢のFIA F2ステアリング解説:ダイヤル&パドル編
F1直下のFIA F2に参戦している岩佐歩夢に、どうマシンを操っているのかを知るべく、F2のステアリングの説明をしてもらおうという趣旨のこの企画。今回は「ダイヤルとステアリング裏側」についてだ。
連載4回目の今回も、岩佐歩夢選手にFIA F2で使用しているステアリングを解説してもらう。今回は前回触れられなかったステアリングの中央にあるダイヤルの解説と、普段あまり見ることができない裏側を解説してもらった。
表側に比べると裏側というのは、目立たない存在のように感じるが、裏側にはクラッチやギアチェンジを行なうシフトレバーなど、ドライビングを行なう上で非常に重要な機構がいくつもあり、表側よりも使用頻度は高い。それではさっそく解説に移ろう。
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- 連載3回目|FIA F2はこうやって走らせる! 理論派F1候補生、岩佐歩夢のステアリング解説:ボタン編
ステアリング表
FIA F2ステアリング解説
Photo by: Motorsport.com / Japan
▼11「左ダイヤル」
ステアリングの中央の液晶画面の下に3つのダイヤル式のスイッチがある。左側の青いシールが貼られているのがスロットルダイヤルだ。
「F2のエンジンはいくつかのマップを設定でき、スロットルの開度によってエンジンのパワーの出方を変えられるんです。ただし、チームによってそのセットアップの仕方が全然違うので、このダイヤルをどう回せば、どうなるかというのは詳しくは言えないんです」
「基本的にF2では、レギュレーションでスタート時にしか使用しない”スタートマップ”というのを全車統一で設定されていますが、それ以外のスロットルマップはチームごとに自由に設定できます。さらに言えば、ドライバーによっても違います」
▼12「中央ダイヤル」
中央にある緑色のシールが貼られているのが、クラッチマップダイヤルだ。クラッチマップとは、スタート時にクラッチをつなぐ際のバイティングポイントを調整するマップだ。
「これもチームによって全然設定の仕方が違います。ダイヤルをひとつ変えると、一段階ずつバイティングポイントが変わるように設定されています。通常、フォーメーションラップ前のグリッド上では、エンジニアがターゲットとなるバイティングポイントを設定しています」
「それでもフォーメーションラップのスタート時に少しバイトが足りないと感じたり、ホイールスピンした時には、フォーメーションラップ中に僕は『クラッチマップ何個移動するよ』と無線で伝えて、自分でアジャストしています。ドライバーによっては、どう感じたかだけをエンジニアに伝えて、あとはエンジニアがダイヤルをどこに合わせるのかをドライバーに伝えるケースもあります」
▼13「右ダイヤル」
右端のオレンジ色のダイヤルは、F2では誰も使っていないという。また、ダイヤルの周囲には時計の文字盤のように数字が書いているシールが貼られているが、その数字を見れば、このチームがどんな設定を行なっているかがわかられてしまうため、今回の取材では剥がしているという。
Ayumu Iwasa, Dams
Photo by: Red Bull Content Pool
スロットルとクラッチは何段階設定している?
絶対値は秘密だとしても、スロットルとクラッチはだいたい何段階設定しているものだろうか?
「設定に関しては一番上と下があって、その間に1、2、3、4ですね。だから上と下で1個ずつと、真ん中に4段階ある感じなので1周トータルすると10段階です。それはスロットルマップもクラッチマップも一緒です」
それらはすべて使っているのだろうか?
「スロットルマップに関しては、全部使うことはほとんどないです。スタートする時にスタートマップに設定し、スタートしたあとは、自分の好みのスロットルマップに移して、そのままレースをしています。変えるとしたら、雨が降ってきたときやレース中に合わないなと思ったときぐらいですが、ほとんど変えることはないです」
バーチャル・セーフティカー(VSC)やセーフティカー(SC)のときのスロットルマップ
VSCやSCのときでもスロットルマップは変えないのだろうか?
「F2に関しては変えないですね。一度、変えたことはあるんですが、何も変化はなかったので、今ではスロットルマップは変えていません」
VSCやSCのときのブレーキバランス
VSCやSCにときに気をつけないといけないのは、スロットルマップよりも、ブレーキバランスだと岩佐は言う。
「F2はカーボンブレーキなので、温度管理が難しいんです。VSCではスピードが落ちるのでブレーキングもほとんど強く行なうことがなく、ブレーキはどんどん冷えていきます」
「フォーミュラカーの場合、ブレーキバランスは前寄り……つまりフロントが強めで、リアが少なめなので、(低速走行では)どんどんリヤが冷えていきます。リヤがどんどん冷えていって、ある一定の温度を下回るともうグレージングするんです。もうそうなると、それからどれだけウォームアップしても、温まらないんです」
「それを防ぐために、VSCやSCにときにはブレーキバランスを後ろに持っていきます。もちろん、リスタートに向けてはブレーキバランスを元に戻すことも忘れてはなりません。それからブレーキの温度管理はタイヤの温度管理としても使っていて、タイヤの温度管理をブレーキバランスでしっかり確認してアジャストするようにしています」
ただし、このブレーキバランスを変えるスイッチはステアリング上ではなく、モノコックの脇にある。
「モノコック脇にもうひとつ別のダイヤルが付いています。そのダイヤルは1回転の間に4ヵ所止まるようになっていたり、2ヵ所あるいは半回転ずつ回るようになっていたりと、チームによって違います」
Ayumu Iwasa, Dams
Photo by: Red Bull Content Pool
▼14「液晶パネルの上のランプ」
ステアリング中央の液晶画面の上に小さなランプが10個横一列に並んでいる。これはエンジンの回転数を表示するインジケーターとなっている。
「このランプの点灯の方法もチームによって設定が違うので、1速のときの上がり方のスピードも変えているチームもありますし。シフトアップするタイミングをこのランプのいくつ目が光ったら変えるように設定しているチームもあります」
「ランプの色も変えられるようになっていて、黄色から赤色になったらシフトアップしたり。それはドライバー、チームの好みになっています。例えば青色が最初光って、4つ目まで青色でそこから黄色になって、次に赤色とか。あるいは全部赤色だったりとか、ドライバーによって全然違うと聞いています」
「僕は、基本的に青色と赤色を使い分けているような感じです。青にはこだわりはなくて、白色でもいいんですが、シフトアップするタイミングに関しては赤色を点けるようにして、シフトアップのタイミングを合わせるようにしています」
「またランプの光らせ方も、必ずしも1個ずつというわけではないんです。例えば、シフトアップするまでは1個ずつ光って、シフトアップするタイミングで2個いっぺんに光らせたりとか、最初から2個ずつ光らせたりとか、その光らせ方もドライバーによって違います」
▼15「左右の3つの小さなランプ」
「中央の10個のランプの両端にある三角形状の3つの小さなランプは、VSCやSCになった瞬間に黄色に光るランプです。VSCやSCでなくても、黄旗区間に入った瞬間にもこれが黄色に光ります。もちろん、赤旗のときにはこれが赤に変わります。それと同時に無線からもビープ音が『ピー』と入るようになっているので、そのビープ音と警告ランプで瞬時に何かが起きていると知ることができます」
ステアリング裏
FIA F2ステアリング解説
Photo by: Motorsport.com / Japan
ステアリング表側に続いて、裏側の解説に移ろう。ステアリングの裏側にはスイッチはなく、左右一対のパドルが上段、中段、下段の3対ある。
▼16「上段パドル/DRS」
一番上のパドルがDRSを操作するパドルになっており、左右あるパドルの片方だけでもDRSが開くようになっている。というのは、DRS使用中にシフトアップしなければならないからだ。
「シフトアップが右手側にあるので、ドライバーは全員左のパドルを使っていると思います。DRSパドルは、DSRゾーンに入っているときであれば、パドル手前に引き続けている間、DRSが開いている状態になり、パドルを離せばDRS閉じます」
「パドル以外にもアクセルを100%から少し戻したり、ブレーキを少しでも踏むことによってもDRSが閉じるようになっています。基本的には全員左のパドルを使っていると思います。なんでかって言うとDRSを開けるときは、加速しながら右手でシフトアップしていくので、左手でDRSを握っているような状態になっているからです」
▼17「中段パドル/シフトチェンジ」
DRSパドル中段の左右のパドルがシフトチェンジの際に使用するパドルだ。表面から見て右手側がシフトアップで、左手側がシフトダウンになっている。
「シフトアップは、ステアリング面のランプに合わせて行なっています。シフトダウンに関しては少し複雑です」
「というのも現在のF2のマシンはオーバーレブしないようにコンピューター制御されているので、回転数が下がらない状態でシフトダウンしても、シフトダウンできないようになっているんです。シフトダウンしても回転が普通に落ちないと、マシンがうんともすんとも言わないような感じになるので、瞬時に身体でシフトダウンできていないことを感じることができます。そうなるとドライビングのリズムが崩れるので、F2では確実に落ちるタイミングでギアを落としています」
シフトチェンジの感覚
F2のトランスミッションはシーケンシャルなので、ギヤはシフトアップもシフトダウンも1つずつしか上下しない。しかし、あるコーナーでは5速から2速にシフトダウンしたり、次のコーナーまでに2速から4速にシフトアップする。いま何速で走っているのか、ドライバーはどのように感じているのか。
「ステアリングの液晶画面にギヤの数字が出ています。でも、僕はそれはほとんど見ません。このスピードならこの回転数で何速で走るというのを感覚として把握しているからです」
「ドライバーのスタイルによって違うと思いますが、僕は本当に感覚派で、エンジン音、回転数、エンジンパワーの出方を感じながら、シフトチェンジしています。そのタイミングでも、シフトショック(シフトチェンジする際の振動)でクルマの動きも変わってくるので、それを利用して『このタイミングでこのギヤに落としたら、このコーナーはここでターンインできる』という風な感じでコーナーリングしています。ドライバーによっては事前に『このコーナーはこのギヤで入っていく』と決めて走っている人もいます」
「シフトダウンするリズムもドライバーによって異なっていて、僕が予選などの一発のタイムを出すようなときは、できる限り高回転数でシフトダウンしていってエンジンブレーキを使うような形で、『ブンブンブンブン』と一定のリズムでシフトダウンしますが、ドライバーによっては『ブンブン、ブンブン』のように2段階で落としていくドライバーもいます。ドライバーの癖もあると思います」
「またコース上に出たらコンディションは違うので、それに合わせなければならないときもあります。『大体このコーナーは2速だろうな』って思って入って行ったけど、それだと回転が高すぎたと感じた場合には次のラップでは3速で行ってみたりします」
▼18「下段パドル/クラッチ」
ステアリング裏側の一番下にあるのが、クラッチを操作するパドルだ。
「上のふたつのパドルとこのクラッチはまったく違うフィーリングです。例えば、ギヤはカチンカチン、DRSはパコンパコンというような感じでオンかオフしかないような動きをするんですが、クラッチに関しては本当にスムースに動くようになっています」
では、F2マシンはどのようにしてクラッチをつないでいる?
「基本的にはどちらかのパドルをオンにして、そこからパドルでゆっくり離していくことによってつながります。普通車の足で操作するクラッチと一緒です。クラッチのバイティングポイントに持っていくことでクルマが進みだして、そこから徐々にクラッチをリリースすることでクラッチを完全につなぎます」
「レーススタートに関しては、このクラッチパドルを両方使います。最高のスタートを行なうために、右と左で違う設定にして、その両方を使うことでクラッチのつなぎ度合いを細かく調整します。ただ、その使い方はクラッチマップの設定によって違うので、これ以上は企業秘密です」
一般車のように半クラッチというのがあるか?
「はい、基本的には普通の車と同じで、半クラのところに持って行くことによってクルマが進みだして、もちろん離していけばどんどんクラッチは繋がりますし、もう一回戻せばクラッチが切れる状態になるので、そこに関しては別に難しくないですね。指の繊細な動きは必要ですけども、足のクラッチと全く同じ原理でクラッチは繋がります」
このように現在のステアリングは、フロントタイヤの舵角を変えるだけでなく、レーシングマシンを走行させる多くの操作を行なう重要なアイテムとなっている。したがって、それはドライバーが使いやすいようにカスタムされており、そこには個性も垣間見える。もし車載カメラの映像でステアリングを見る機会があったら、次からはその違いを楽しんでみてはいかがだろうか。
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