連載|DRSって何だろう? 理論派F1候補生、岩佐歩夢が使い方や感覚を詳しく解説!
F1直下のFIA F2に参戦している岩佐歩夢に、マシンを操るドライバーだからこそ理解し得る”感覚的な部分”について質問を投げかけてみた。第2回は「DRS」についてだ。
前回のこの企画では、現在FIA F2にDAMSから参戦している岩佐歩夢選手に、スリップストリーム状態に入ったときの「感覚的な部分」を言葉にして表現してもらった。今回はそのスリップストリームに入った後などに、定められた区間で使用が許されるDRS(空気抵抗軽減システム)について、様々な疑問をぶつけてみた。
DRSは2011年にF1で初めて使用され、以降F2やFIA F3など様々なフォーミュラで採用されている機能だ。しかし、フォーミュラ以外のマシンや私たち一般の人々が乗る市販車には基本的に搭載されていない(一部の高級スーパーカーなどには可変ウイングが搭載されている例もある)ため、その機能をどのように作動させるのかについてや、またそれを機能させたときの感覚、DRSを使用しているときのドライビングの変化については、あまり語られてこなかった。
そこで今回はDRSについて、基本的なことから使用しているドライバーでなければわからない実際の感覚まで、岩佐選手に答えてもらった。
▼Q1 :DRSをどうやって作動させている?
DRSはレース中に使用する場合、検知地点で前車の1秒以内に接近したドライバーに使用が許可される機能だ。それでは、前車の1秒以内に入ったかどうかはどのようにしてドライバーは知るのだろうか。
「F2とF3に関しては全く一緒で、ステアリングの中央の液晶画面に表示されるDRSという文字の色でわかります。レースがスタートして2周はDRSが使えないので、このDRSという文字は3周目から表示され、もし検知地点で前車の1秒以内に入ると、そのDRSという文字が緑色に光ります」
「接近していても1秒以内に入っていなければ、DRSという文字が緑色に変わらず、DRSを機能させようとしても使えません。3周目以降でも、セーフティカーが出動したり、赤旗が出るとDRSは使用できないので、DRSという文字も消滅します」
Ayumu Iwasa, Dams
Photo by: Red Bull Content Pool
▼Q2:DRSはどんな合図によって作動させるのか?
以前、小林可夢偉選手はF1でDRSを作動させる時、アクティベーションゾーンに入った瞬間、「ピッ」という音が鳴り、その音を合図にステアリング上にあるDRSのボタンを押すと言っていた。現在のF2ではどんな合図になっているのか。
「F3、F2に関しては音はないです。では、どうやって作動させているのかというと、F2、F3にはDRSを作動させるためのパドルがあって、それをDRSの文字が緑色になってから握って(手前に引いて)おけば、アクティベーションゾーンに入った瞬間に自動的にDRSが開きます」
▼Q3:DRSが作動しているとき、マシンはどのような感覚?
前回の「スリップストリーム」の回で、岩佐選手は「スリップストリームに入ると暑さを感じ、またマシンは前方からの空気抵抗が4輪全体で減り、主にフロントタイヤの荷重が減っているような感覚になる」と説明していた。DRSを使用したときはどんな感覚なのだろうか。
「F3で初めて使った時に感じたのは、『フォーミュラカーって空気で抑えつけられているんだ』ということでした。スーパーFJみたいな本当にリヤウイングがあるかないかぐらいのマシンでも、ダウンフォースは結構感じるところはありましたが、F3で初めてDRSを使用して直線であれほどのダウンフォースの違いを感じたのは初めてだったので、あれは驚きました」
「リヤウイングが開いた瞬間の僕の感覚は、リヤがまず軽くなって、クルマがふっと浮くんです。浮いた瞬間にエンジンも軽くなって、回転数が上っていくような感覚でした。ただ、同時にリヤが軽くなり、相対的にフロントのダウンフォースが増えてオーバーステア気味になるので、ちょっとでもハンドル切ればすごく危ない動きになって危険だなっていう感覚を持ちました」
Ayumu Iwasa, Dams
Photo by: Red Bull Content Pool
▼Q4:ステアリングを切りながらDRSを使用するのは危険?
モナコのトンネルやメルボルンの高速S字など、全開区間でも少しステアリングを切りながら走る区間では、国際自動車連盟(FIA)はDRSを使用しないようにしている。ドライバー側の観点から言っても、ステアリングを切りながらDRSを使用するのは危険なのだろうか。
「僕の感覚としては、乱気流のない状態で単独で走っている分に関しては、多少のGがかかる状態でDRSを開いても問題ないと思います」
「でも、DRSというのは基本1秒以内にいるので(前車の)スリップストリームに入った状態で使用することになるわけですが、そのような状態でスリップストリームに入ると、コーナーリングなので、完璧にスリップストリームに入った状態から、若干スリップストリームから出て空気が当たる瞬間があります。その時に、DRSを開いたままハンドルを切ると、風が当たった時にクルマがもう一瞬でオーバーステアになって、バランスの変化に対応できなくなってスピンしたりすると思います。FIAはそのことを考えてDRSの使用可能な区間を判断していると思います」
▼Q5:DRSの使用を終了させる時は、どうするのか?
DRSはレース中であれば、検知地点で前車の1秒以内に入っていれば、パドルを引いておくことで自動的に稼働するが、終了させるには、どのような方法があるのだろうか。
「DRSを終了してリヤウイングのフラップを閉じる時は、ブレーキを踏むか、もしくはアクセルを緩めると、パドルを握っていてもDRSは勝手に終了してフラップが閉じるようになっています。だから、アクティベーションゾーンで使用開始から終了まであまりロスなく使うことができるよう、DRSゾーンの前後ではパドルは基本的に握りっぱなしにしておきます」
▼Q6:DRSで注意しなければならないことは?
DRSはオーバーテイクを促進させるために導入されたシステムで、それを使用することで空気抵抗を減らして前車を抜きやすくなる。ただし、空気抵抗が減ることで注意しなければならないこともあると岩佐選手は語る。
「例えば、ロシアGPが行われていたソチ・オートドロームのバックストレートは、アクティベーションゾーンが緩やかに曲がっているため、普通のコースと違ってアクティベーションゾーンの終了区間が手前に設置されていました。パドルを握りっぱなしでも勝手にDRSが閉じてしまいます。DRSを開けたまま全開でコーナーに進入すると危険だから、DRSの終了地点をコーナーの手前に設定していました」
「バーレーンも別の理由ですが、ちょっと変わっています。僕が知ったのは2020年のF2を観ていた時のことです。角田(裕毅)選手が出ていたレースで車載映像を見ていたら、6速全開でメインストレートを走行していたら、途中でレブリミッターに当たって、エンジンの回転がそれ以上上がらなくなっていました。F2やF3は、ギヤは基本的に固定されているので、そこでリミッターに当たるという問題が発生していました。それで昨年のバーレーンからDRSは、ストレートの途中、6速でレブリミッターに当たる手前で強制的に終了するよう改善されています」
「また、バトル中にストレートで相手をオーバーステアする際に、相手がオーバーテイク阻止しようとして進路を変更したり危ない動きをしたりした時には、いきなりステアリングを切るのではなく、DRSを閉じてクルマを安定させた状態にしてからステアリングを切るようにしています」
Ayumu Iwasa, Dams
Photo by: Red Bull Content Pool
▼Q7:DRSを使用した直後のブレーキングで注意することは?
前回、スリップストリームを使用した直後のブレーキングは、通常のブレーキングで異なると語っていた岩佐選手。それでは、DRSを使った時もブレーキングポイントは異なるのだろうか。
「はい、全然違います。僕のドライビングスタイルに関しては、DRSを閉じてからのブレーキングにはあまり違和感はないです。僕は基本的に『アクセル戻してからブレーキ』なので、アクセルを戻してDRSが閉じ、ダウンフォースも全体的に増えてクルマがすごく安定した状態になってからブレーキングに入ります。したがって、タイヤに荷重をしっかりとかけられるのでブレーキでロックするということもありません」
「それが、DRSを開いた状態から、いきなりブレーキングを行なうと、DRSが閉じてリヤタイヤに荷重がかかるまでの時間が少ないので、マシン全体のダウンフォース(主にリヤ)が通常時に比べてかなり少ないので、ブレーキングパフォーマンスは低下してしまいます。したがって、DRS区間直後のコーナーのキャラクターやその時のマシンのバランス、挙動、セットアップを考慮して、DRSを閉じる方法も、いきなりブレーキを踏むだけでなく、アクセルペダルを早めに緩めたり、パドルを解除しておいたり色々工夫して調整しています」
DRSは空気抵抗を軽減するシステムであるということは、マシンの空力に大きな影響を与える。したがって、DRSはオーバーテイクを仕掛けるためだけの道具ではなく、使い方によってはマシンに空力的な変更を与えることも可能だ。
ドライビングスタイルの違い、特にブレーキングスタイルによって、DRSの終了方法はドライバーによって色々と異なるのではないかと岩佐選手は語る。これからはDRSは、オーバーテイクする瞬間だけでなく、その直後のブレーキングまでしっかりと見届けたい。
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