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連載|レーシングドライバーは「スリップストリーム」をどう感じてる? 理論派F1候補生、岩佐歩夢の”感覚”

F1直下のFIA F2に参戦している岩佐歩夢に、マシンを操るドライバーだからこそ理解し得る”感覚的な部分”について質問を投げかけてみた。第1回は「スリップストリーム」についてだ。

Racing driver Ayumu Iwasa describes the feeling of slipstreaming

Racing driver Ayumu Iwasa describes the feeling of slipstreaming

Motorsport.com / Japan

 この企画は、現在FIA F2にDAMSから参戦している岩佐歩夢に、マシンを操るドライバーだからこそ理解し得る「感覚的な部分」を、一般のファンに表現してもらおうというのが主旨である。

 この企画を岩佐にお願いした理由は、岩佐がヨーロッパに来てFIA F3を戦うようになった昨年から取材している間に、彼はレーシングマシンを操るというスポーツ選手としてだけでなく、レーシングマシンの走行に関する物理的な領域を上手く言語化していると気付かされたからだ。実際、岩佐は高校時代に数学や物理などの理系科目が得意だった。

「高校時代はずっと理系を勉強していました」

 岩佐はそう語る。

「勉強自体は自分としてそんなにまじめにやるほうではなかったんですが、数学とか物理とか理系に関しては勉強しようと思わなくても自然と身に入ってきて、テストでも自然に点数が取れていた教科でした」

「すると物理には特にレースに生きる部分がすごくあるということがわかって、そこからは興味が出てきて、一層勉強していきました」

 モータースポーツはレーシングドライバーがレーシングマシンをいかに正確に速く走らせるかというスポーツであり、レーシングドライバーが皆理系科目に必ずしも長けているわけではない。

 ただし、そのレーシングマシンを速く走らせるためのエンジニアの作業には物理の法則が使われる。したがって、ドライバーが物理の法則を理解しているかどうかは、マシンの状況を理解するうえでエンジニアとより深い部分で共通の認識を共有することにつながり、コミュニケーションをスムースにする。

Ayumu Iwasa, Dams

Ayumu Iwasa, Dams

Photo by: Red Bull Content Pool

 今年DAMSに移籍し、ルーキーとしてF2への挑戦を開始した岩佐が、バルセロナ戦のレース1で早くも2位表彰台を獲得したのも高校時代に培った理系の知識が生きているという。

「DAMSはドライバーの意見にしっかりと耳を傾けるチームで、サーキットだけでなくファクトリーに帰ってからのミーティングでもお互い意見を積極的に言い合えるので、自分としてもとてもいい勉強になっているし、良い方向へ進んでいます」

 そう岩佐は語っている。

 そんな理系出身のレーシングドライバーである岩佐への最初の質問は、スリップストリームだ。これは主に直線区間で前車の背後に迫って、テール・トゥ・ノーズの状態になったことを指す。しかし、これは私たち一般の人間が公道で経験することはほとんどなく、かつそれが実際どのような感覚なのかということに関して、レーシングドライバーが詳細に語ることはこれまでほとんどなかった。そこで今回は、このスリップストリームに関する様々な疑問を岩佐にぶつけてみた。


▼Q1:スリップストリームに入ったときの感覚は?

 そもそもスリップストリームに入る前と入った瞬間の感覚はどう違うのだろうか。

「やはり前の車両が風よけになるので、自分に当たる風が少なくなるわけですが、スリップストリームに入ったという感覚は、前車との距離によって変わってきます」

 確かに、前車との間隔は突然縮まるわけではないから、空気抵抗も一気になくなるわけではなく、徐々に減少していく。岩佐はスリップストリームに入っている感覚というのは、入ったときよりも、むしろそこから出た瞬間のほうが感じるという。

「基本的に入るときよりも、出たときのほうが身体で感じやすいです。DRSを閉じた状況でスリップストリームから出ると、エンジンの回転数が上がらないです。だから、抜こうと思って、スリップストリームから出ると、エンジンがすごく重たくなって、伸びていかないということがよくあります」

 そこで重要になるのがリアウイングのフラップを開けるドラッグ・リダクション・システム(DRS)だ。

「F3やF2ではDRSがあるので、スリップストリームから出ても、空気抵抗が少なく、前に出切ることができるケースが多いんです」

▼Q2:スリップストリームに入ると吸い込まれるというのは本当か?

 一般にスリップストリームは前方からの空気抵抗が減るだけでなく、空気の流れによって前車に吸い込まれると表現する人もいる。そういう感覚は岩佐も持っているのだろうか。

「僕の感覚では吸い込まれるというよりは、エンジンが軽くなる。クルマの荷重が減る。風の抵抗が減るという3つが主な感覚です。もし、吸い込まれているとしたら、前車を抜こうとスリップストリームから出ようとラインを変えるとき、横に出にくくなるわけですが、そういうことはないので吸い込まれるという感覚はないですね」

Ayumu Iwasa, DAMS

Ayumu Iwasa, DAMS

Photo by: Red Bull Content Pool

▼Q3:普通の人でもスリップストリームを実感できるのか?

 レーシングドライバーには、マシンの状態を感じ取れる繊細なセンサーが備わっている。私たち一般の人がもし、レーシングマシンでスリップストリームに入っても、スリップストリームに入ったと感じることはできるのだろうか。

「間違いなく感じるのは、暑さです。スリップストリームに入って、前車の背後にピッタリ付くと、本当に暑くなります。それは前車の排気熱というより、風が当たらないことで、まるでサウナに入ったかのような感じになります。その瞬間、いま自分は風が当たっていなくて抵抗がなく、速いんだなって感じることができます」

▼Q4:スリップストリームとDRSは似たような感覚なのか?

 前方からの空気抵抗(ドラッグ)が軽減されるという意味では、スリップストリームもDRSも似たような状況となるわけだが、ドライバーとしての感覚はどうなのだろうか。

「まったく同じではありません。まずスリップストリームは、前方からの空気抵抗が4輪全体……主にフロントタイヤの荷重が減っているような感覚になります。だから、前の車を抜けずにそのままコーナーに入ると、必ずマシンはアンダーステア(クルマが曲がりづらい状態)になります。逆にリヤのグリップが抜けるっていうことはまずないです」

▼Q5:スリップストリームに入った直後のブレーキングは、通常とは異なるのか?

 スリップストリームに入った直後のコーナーがアンダーステア気味になるというのなら、コーナーに入る手前のブレーキングも通常とは異なるのだろうか。

「前のクルマを抜けず、スリップストリーム入ったままの状態でブレーキングするっていうときには、僕は若干ブレーキングポイントを手前にするようにしています。もちろん、前にクルマがいる状態でブレーキングをすると、コーナーに対してダウンフォースがないので、クルマの速度を前のクルマよりも落とさないと曲がりきれないということもあります。ただそれだけでなく、やはりダウンフォースが少ないので、ブレーキングパフォーマンスが若干落ちます。荷重も乗らないですし、ダウンフォースもかかってないので、ロックもしやすい。ただ、ドライバーによっては『スリップの入った状態でもブレーキングに関してあまり違いを感じないから、別にブレーキングポイントはそんなに変えない』というドライバーもいるので、そのへんはドライバーによって違うので、わかりません」

Ayumu Iwasa, Dams

Ayumu Iwasa, Dams

Photo by: Red Bull Content Pool

▼Q6:ドライとウエットのときのスリップストリームの違いはあるのか?

 スリップストリームはドライコンディションだけでなく、ウエット状態でも巡ってくる。その効き具合に違いはあるのか。

「おそらくスリップストリーム単体での効き具合でいくと、少ないと思います。なぜかっていうと、やはりウエットコンディションになるとトップスピードが落ちるので、スピードが低くなる分でスリップストリームの効き具合も減るからだと思います」

 ただし、スリップストリームの効き具合が少ないウエット状態でも、前のクルマに付くとオーバーテイクはしやすいと岩佐は語る。それは一体どういうことなのだろうか?

「その理由を自分でもいろいろ考えたことがあって、考えた結果、おそらく水の抵抗だと思うんです。雨の中、コース上を1台だけで走っている状態だと、水をかき分けて進むわけですが、前のクルマが走っていった直後に(轍の上を)走ることで水の抵抗が若干減るんだと思うんです。その結果、スリップストリームの効きは少なくなるけれど、同時に水の抵抗が減ることで、直線が伸びていくんじゃないかなと感じています」


 タイヤが剥き出しで、前後にウイングを持つフォーミュラカーは、空気の流れをいかに利用して走らせるかが大切となる。スリップストリームはその中でも最も重要な武器だ。しかし、スリップストリームというものがどのような状態なのか、これまで私たちはあまり知らなかった。

 今回の岩佐の回答によって、スリップストリームをめぐって繰り広げられるコース上のバトルが少しでも身近に感じることができたら、モータースポーツがもっと楽しめるのではないだろうか。

 
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