FIA F3

FIA F3で大活躍中! 山越陽悠とは何者か。非メーカー育成で奮闘するクレバーな19歳を徹底解剖

今季のFIA F3で目覚ましい活躍を見せている山越陽悠。ホンダ、トヨタの育成プログラムに入らず、カート卒業後から欧州でステップアップを続けるという異端なキャリアをいかにして歩んできたのか? 独占インタビューで紐解く。

戎井健一郎

公開日時: 2026/08/07 8:24

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Hiyu Yamakoshi

写真:: Motorsport.com / Japan

 今シーズンは4人の日本人ドライバーがしのぎを削っているFIA F3。その中で一際輝きを放っているドライバーがいる。それがVARに所属する山越陽悠だ。

 山越はここまで、ポールポジション1回、2位表彰台2回という成績を残して、ランキング7番手。残り2ラウンドとなり、タイトル争いはフレディ・スレイターとウーゴ・ウゴチュクが抜け出した感があるが、ランキング3位争いは激化しており、山越もその渦中にいる。

 今年になって、日本のレースファンからの知名度がグッと上がってきた感のある山越。彼はカートを卒業してからはずっと欧州のフォーミュラを舞台に戦っており、他の多くの日本人有望株のようにホンダやトヨタの育成プログラムにも所属していないのだから無理もない。

 では彼はどのようにして、日本人ドライバーの“王道”とは異なるルートでここまで上り詰めてきたのだろうか?

欧州フォーミュラに早くから順応、ジャン・トッド息子のサポート手にする

「2019年のSL全国大会の時、『これに勝ったら海外でカートをやってもいい?』と言われ、72人もいるので勝てるわけないと思って『いいよ』と言ったら、勝っちゃったんですよね(笑)」

 そう振り返るのは、父の尚昭さん。自身もレース経験があり、現在は不動産事業に関わる会社の代表を務めるビジネスマンだ。

 尚昭さんから海外への”挑戦権”を勝ち取った形となった山越だったが、翌年からコロナ禍に見舞われたことで、海外行きはすぐには実現せず。その間にトヨタのレーシングスクールも受講したが、スカラシップ獲得には至らなかった。

 コロナ禍が落ち着いた2022年に海外に進出し、1年間カートを戦った後、とあるマネジメント会社の伝手で2023年からのフランスF4に参戦する手はずが整った。スペインF4にもスポット参戦しつつ、フル参戦したフランスF4ではランキング5位。「意外とピレリタイヤいけるね、という感じになりましたね」と尚昭さんは回想する。

 ただフランスF4はスクール形式でフランス人中心のカテゴリー。フォーミュラの世界で本当に通用するかどうか確かめるためには、欧州F4で最も競争レベルの高いイタリアF4に行こう。彼らはそう考えた。2021年のチャンピオンはオリバー・ベアマン、2022年のチャンピオンはアンドレア・キミ・アントネッリ。これだけでも、いかに優秀な人材が集まるカテゴリーか伝わるはずだ。

 かくして2024年に山越はイタリアF4に挑戦したが、そこでもランキング3位を獲得。これで多くのチームから声がかかる存在になっていったという。

 翌2025年にステップアップしたフォーミュラ・リージョナル・ヨーロピアン・チャンピオンシップ(FRECA)も、F1予備軍が必ず通ると言っていいほどのカテゴリーだが、山越はその中で奮闘しランキング9位に食い込んだ。そしてこのシーズンの途中で、オールロード・マネジメントと契約した。

写真: Dom Gibbons / Formula 1 via Getty Images

 オールロード・マネジメントは、元フェラーリ監督で元FIA会長ジャン・トッドの息子、ニコラス・トッドが率いるマネジメント会社。古くはフェリペ・マッサのサポートに始まり、今もフェラーリのシャルル・ルクレールをはじめとする多くのドライバーが所属している。

 オールロード所属となったことで、あらゆるチームとの交渉が可能になった。トッド氏との関係も非常に良好なようだ。そうなると、山越がホンダ、トヨタ以外のメーカー・チームの育成プログラムに入り、そこからF1を目指すというルートも期待せずにはいられない。

「来季に向けて僕らにはいくつかオプションがあるので、その中からどういう風にやっていくかをこの2、3週間で決めなければならない」と話す尚昭さん。この「いくつかのオプション」の中には、F3残留、そしてF2ステップアップの両方が存在するという。

 欧州のフォーミュラで結果を出すためには、チーム選びは非常に重要と言える。戦闘力の高いチームが良いのは当然のことだが、仮にトップチームに入れたとしても、もう片方のドライバーを優先する体制だった場合は成績が出せないかもしれない。F2やF3では、チーム間で大きな成績の格差がつくのは決して珍しいことではない。

「一番良いのは、陽悠を推してくれる、欲してくれているチームですよね。そういうチームがいくつかあるので、できればそういうところで……と思っています」と尚昭さんは語った。

レギュレーションブックを読み込む、クレバーな19歳

 いずれにせよ山越は、今後のステップアップに期待がかかる活躍を見せている。

 ラウンド2モナコのスプリントレースでの幻の優勝(トップチェッカー後に技術規則違反により失格)で話題をさらうと、ラウンド3カタルニアではフィーチャーレース2位表彰台、ラウンド4レッドブルリンクでは予選ポールポジション、ラウンド6スパ・フランコルシャンでは2度目のフィーチャーレース2位と、着実に好成績を残した。夏休み前のハンガロリンク戦でも、最後尾30番手スタートからフィーチャーレース10位に食い込む激走を見せた。

 この好調ぶりは、山越本人にとっても嬉しい誤算だったようだ。

「自分の中でも嬉しい想定外です」

「今シーズンが始まるまでは、スプリントレースで優勝争いができれば良いなと思っていましたが、実際は夏休みに入るまでにフィーチャーレースのトップ争いに絡むことができ、表彰台も獲得できました。そしてポールポジションは本当に想像もしていなかったところなので、これは僕の今後のレース陣営においても大きいところだと思っています」

写真: Andy Hone / LAT Images via Getty Images

 今季は予選での速さとレースでの力強さの両面を見せられている山越だが、自身のレーシングドライバーとしての強みを尋ねると、意外な答えが返ってきた。大抵若手のドライバーにこの類の質問をすると、「一発の速さには自信があります」などと答えるのが定番なのだが……。

「僕はまず、レギュレーションをよく知っているというところですね。その分析力は強みだと勝手に思っています」

「レースをやる上で、レギュレーションを知っていれば知っているほど、アドバンテージになります。例えば外側からオーバーテイクをする際、どこまで並んでいないといけないか。この質問は大抵の人が分からないと思いますが、僕は基本そこがしっかり頭に入っています」

「例えばバルセロナで僕は(一度追い抜いた相手に対して)すぐにポジションを戻したのですが、レギュレーションを理解して冷静でいられないと、ああいう場面ですぐにポジションを明け渡せず、ペナルティを受けてしまいかねません。そういった駆け引きの部分はアドバンテージになっていると思います」

 そしてもうひとつ、メカニカル面の素養も強みにしている。尚昭さんも「クルマをすごく理解していますね」と評するが、山越本人も「エンジニアからは僕のコメント能力やデータ分析能力、マシンから得られるフィードバックの伝え方に強みがあるとよく言われます」と話す。

光る人間力

 ただレースの世界でステップアップするためには、お金の問題は切っても切り離せない。才能があっても、フォーミュラ・リージョナルからF3、F3からF2へと昇格できず、F1の夢が道半ばになってしまうドライバーも少なくない。

 その点で山越は、現状はF1チームや自動車メーカーのサポートを受けず、数多くのスポンサーを得てレース活動をしている。もちろん、父の尚昭さんが代表を務めるLifeStyle株式会社のロゴもマシンのリヤウイングに見られるが、それ以外にもたくさんのパーソナルスポンサーが名を連ねている。

 企業とのコネクション作りという点では、事業を行なう父の領域になってくるが、山越はスポンサー向けのプレゼン資料を全て自作。自らの言葉でしっかり思いを伝えている。

 また印象的だったのは、山越が日本のファンと積極的に繋がりを持とうとしている点だ。取材を行なったスーパーGT富士戦の際には、事前にサーキット入りすることをSNSで告知し、ファンに名刺がわりのイラストカードを配るなどして交流。メディアの取材にも快く応えており、こちらが記事用の写真撮影をお願いすると、わざわざF3のポールポジショントロフィーを取りに帰るほどのサービス精神。プレスルームでもいつしか人だかりを作っていた。

 山越は自らの思いをこう語る。

「今のレース業界は、レーシングドライバーとファンの距離が遠すぎるんじゃないかと思っています」

「他のスポーツからしたら近いのかもしれませんが、それでも遠いと感じるので、なるべくドライバーを身近に感じてほしいという気持ちがあり、こういったことをさせていただいています」

「レーシングドライバーの中には、アニメが好きだけどそれを言っていなかったりする人もたくさんいますが、僕はそういうところも表に出しつつ、皆さんにもっと身近に感じていただければと思っています」

 走りは冷静沈着、それでいてファンとの距離は近く親しみやすい存在。彼の今後のキャリア如何にかかわらず、レーシングドライバーとしてますます多くのファンを集めそうな予感がある。まずは何より、今シーズンの活躍と来シーズンの動向に大いに注目だ。

 

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