どんな環境でも結果を残す。レッドブルが無視できなかったイゴール・フラガの才能〜後編〜
2020年からレッドブルジュニアの一員となったイゴール・フラガ。日本でレースキャリアを始めた彼がここまでたどり着くには、様々な紆余曲折があった。後編では注目を集め始めた昨年以降の歩みを本人のインタビューと共に紐解いていく。
写真:: Divulgacao
2020年はレッドブル・ジュニアチームの一員としてFIA F3に参戦するイゴール・フラガ。日本で生まれ育った彼はカートで数々の実績を残したが、12歳で両親の故郷であるブラジルに移住し、資金難に苦しみながらもブラジル、メキシコ、そしてアメリカのシングルシーターレースで奮闘した。そんな中、彼のキャリアには徐々に光明が差し始めていた。
■キャリアに光明。eスポーツで世界の頂点、リアルレースでも注目の存在に
Kazunori Yamauchi con los tres mejores de las FIA Gran Turismo Americas Finals
Photo by: Sony
フラガは2018年の後半にモナコで行なわれたグランツーリスモ・ワールドファイナルのネイションズカップで優勝。バーチャルレース界において一躍スターとなった。シングルシーター界では数多くいる有望な若手のひとりに過ぎなかった彼も、関係者が見過ごせない存在となっていく。
「優勝した後、グランツーリスモに関わるたくさんの日本人と会うことができた。彼らとはとても良い関係を築くことができて、僕をサポートしてくれるようになった。だからフォーミュラ・リージョナル欧州選手権でレースをする資金を確保できたんだ」
「参戦が決まったのはかなり遅い段階だったけど、久しぶりにイコールコンディションを手にすることができた。マシンが到着したのは開幕戦のポール・リカールに向かう数日前だったので、僕たちはそこからシェイクダウンをして、セットアップなどに取りかかった。だからシーズン前半は少し大変だった」
2019年に発足したばかりのフォーミュラ・リージョナル欧州選手権は、タトゥースのF3車両を用いて争われるカテゴリー。彼はDRフォーミュラ・RPモータースポーツというチームからエントリーしたが、彼の前にはフレデリック・ベスティ、オリー・コールドウェル、エンツォ・フィッティパルディを擁する強豪プレマ・レーシング勢が立ちはだかった。それでもフラガはレッドブルリンクとイモラで各1勝、最終ラウンドのモンツァ戦では2連勝するなど善戦し、ランキング3位となった。
そしてフラガはFIA F3のマシンをドライブする機会を手にする。バレンシアで行なわれたテストに彼はカーリンとチャロウズから参加した後、2020年の契約を決めるためにマカオGPにやってきた。そこではフォーミュラ・リージョナルでのライバルだったドライバーたちが多く参戦していたが、シートのないフラガはコースサイドで見ながら悔しさを滲ませていた。
「リージョナルでの結果を踏まえて、次のカテゴリーを検討していたんだ。(FIA F3は)かなりお金がかかるけど、予算を捻出してなんとかテストだけでもやってみて、何ができるか考えようと思った」
そうフラガは語る。
「そしてバレンシアでテストをしたんだけど、あのマシンに乗るのはとても良い感触だった。本当に速かったんだ!」
来たる2020年シーズンに向けてのウォームアップも兼ねて、フラガは年初めに南半球のニュージーランドで開催されるトヨタ・レーシングシリーズ(TRS)に参戦することとなった。そこで彼はリアム・ローソン、角田裕毅というふたりのレッドブル育成のチームメイトとして、M2コンペティションに加入。“グランツーリスモカラー”に塗られたマシンを走らせた。
Igor Fraga em Hampton Downs
Photo by: Divulgacao
TRSにはこの年から、フォーミュラ・リージョナルやフォーミュラルノー・ユーロカップなどと同じタトゥースT-318をベースとした車両が導入されたため、理論的にはフラガ優位とされた。しかしながら、TRSに参加した全てのチームがフォーミュラ・ルノーからエンジニアリングの知識を得ていたため、実際には大きなアドバンテージとはならなかった。その上、前年王者のローソンは全てのサーキットで走行経験があったのだ。フラガは自身の知性を活かし、ローソンのデータから得られるものは全て取り入れようとした。
「僕はこれまでずっとそういうアプローチをしてきた。学べばその分良くなるからね。そうしないといつか追い越されて負けてしまうんだ」
「そこ(TRS)ではチームメイトが前年のチャンピオンだったから、彼から学べることは全て学び、どこが負けているのか見極めて、そこに取り組み続けたんだ。それがうまくいったと思う」
そしてフラガは見事レッドブルジュニアのふたりを下してチャンピオンに。レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーであるヘルムート・マルコからのラブコールに繋がるのであった。
■リアルとバーチャルの“2刀流”が彼を強くした
Igor Fraga
Photo by: McLaren
レーシングドライバーの中でも異色のキャリアを歩んできたフラガ。現実世界でのレースとバーチャルレースでの活躍が、それぞれを補完し合っていると本人は考えている。
「シムレースは僕の開発能力を育ててくれた」
「リアルのレースと少し違うのは周りの環境だ。リアルのレースではひとりコックピットに収まって、エンジン音で何もかもがかき消されるけど、シムレースではその周りで日常生活が起こっている。母から突然電話がくるかもしれないし、何があるか分からない。その中で集中力を保たないといけないんだ」
「シミュレータだと、リアルのレースよりも感じ取れるものが少ないから、その少ない情報でマシンを限界までプッシュしないといけない。逆にそれに慣れた状態でリアルレースに移行すると、マシンからより多くのことを感じ取れるようになるし、状況の変化やセットアップの違いもすぐに気付けるようになるんだ」
フラガが今季所属するチャロウズのチームメイトには、FIA F3での経験が豊富なニコ・カリと、フォーミュラ・リージョナルでライバルだったダービット・シューマッハーがいる。多くのことを吸収できるベテランとライバルがいることは、フラガにとってプラスに働くだろう。
「ニコは経験豊富なドライバーだから、たくさんのことを学べるだろうし良い参考になると思う。特にFIA F3ではタイヤマネジメントが難しいからね」とフラガは語る。
「レースでは5〜8秒遅いのに、予選ではものすごく速いし、2周もすればタイヤがダメになってしまう。とても難しいと思うけど、チャロウズでレースをできることは楽しみだし、いつも通りベストを尽くすよ」
Igor Fraga, Charouz Racing System
Photo by: Joe Portlock / Motorsport Images
とは言え、10チーム30台のマシンがひしめくFIA F3で結果を残すことは容易でない。昨年ザウバー・ジュニアチームとジョイントしたチャロウズは最高位が7位となっており、ポイントランキングは10チーム中8位となっている。しかしフラガは1年目に所属するチームとしては良い場所だと楽観視しており、バーレーンで行なわれたプレシーズンテストの成果にも満足している。
「バーレーンは路面がアグレッシブでタイヤの摩耗も激しいので、ここでレースペースなどの練習ができたのは良かった。なぜ、どのように(タイムを)失ったかが分かったので、今年はそれを改善するために時間をかけて取り組むことができる」
バーレーンで開幕予定だったFIA F3も、新型コロナウイルス流行の影響でレッドブルリンクでの開幕に。ここはレッドブルが所有するサーキットというだけでなく、フラガがフォーミュラ・リージョナルで初優勝した縁起の良いサーキットでもある。
シルバーストンとスパという、ヨーロッパを拠点にする若手ドライバーが必ずと言っていいほど経験するサーキットが未体験である点は、本人も懸念している。ただ、日本のカートコース、南米の風変わりなサーキット、アメリカのストリートコース、ニュージーランドの昔ながらのコース……それら全てを経験してきたフラガならば、すぐにでも適応してしまうかもしれない。
ここまで一筋縄ではいかないキャリアを過ごしてきたフラガ。ようやくF1に向けて“全力疾走”できる環境が整ったと言えるだろう。
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