【コラム】FIA F3で“0勝王者”→F2昇格決めたフォルナローリ。5年のレースキャリアで優勝たったの2回……その実力をどう評価すべきか?
今季のFIA F3で、1勝もすることなくチャンピオンに輝いたレオナルド・フォルナローリ。その珍記録は、彼のタイトルの価値を下げるものなのか? それとも逆に彼の偉業を際立たせるものなのか?
写真:: Simon Galloway / Motorsport Images
シングルシーターのジュニアカテゴリーには、カートの他、F4などの入門カテゴリーで勝利を重ね、自尊心を育んだ才能ある若者たちが集まっている。F1やFIA F2の下のカテゴリーであるFIA F3までたどり着けるのは毎年わずか30人。この時点で既に才能にふるいがかけられているのだ。
今シーズンが始まる前、F3参戦ドライバーの“履歴書”をじっくり読み込んだとしても、トライデントのレオナルド・フォルナローリがシーズンを制することになると予想したものはいなかったかもしれない。彼は昨年までシングルシーターのレースに98戦出場し、わずか2勝しか挙げていない(F4時代の2021年にイタリア選手権と中央ヨーロッパ選手権で1勝ずつを記録)。ポールポジションは3回、表彰台は15回記録していたが、同世代のトップクラスのドライバーと肩を並べられるほどの成績ではなかった。
しかし、我々の見立ては間違っていた。
我々が見逃していたのは、近年の彼の恐ろしいまでの安定性、そしてチェッカーまでマシンを運ぶ能力だった。フォーミュラ・リージョナルに参戦していた2022年、そしてF3に参戦していた2023年、そして2024年の3シーズンで、完走を逃したのはわずか1回だけなのだ。
それに伴って入賞率も高い。フォルナローリはフォーミュラ・リージョナル時代の2022年に後半戦で入賞率90%を記録してランキング8位を獲得すると、F3ルーキーの2023年は18戦中11レースでポイントを獲得して(その内表彰台3回)ランキング11位だった。1年目としては決して悪くないリザルトだ。
そして2年目の今シーズン、彼がポイント獲得を逃したレースは20戦中わずか2レースだった。スプリントレースで11位に終わったイモラ、予選24番手に沈んだことでスプリントレースで12位止まりとなったレッドブルリンク戦が、それに該当する。
「今年は2年前のフォーミュラリージョナルを思い出す。その年新人王になったけど、あの時もルーキー1位になったことはなくて、他の人たちよりコンスタントに2位になったことで、タイトルを獲得できた」
そう振り返るフォルナローリ。今季も最後の最後までトップでチェッカーを受けることはなかったが、前述の通りコンスタントに入賞してポイントを積み重ね、最終戦の最終ラップ、最終コーナーでクリスチャン・マンセルを交わして3番手に上がったことで、劇的な形で王者に輝くのだ。(その後、タイトルを争っていたガブリエレ・ミニが失格となり2位の座を失ったため、どのみちフォルナローリにタイトルが転がり込んだことになるが)
「レースに勝つチャンスは2、3回あった。最初はメルボルンだった。残念ながら予選で使ったタイヤがうまく機能しなかったので、レース2では古いタイヤを使わざるを得なかった。それでレース中盤から終盤はディノ(ベガノビッチ)の方が速かった。でも2位は良い結果だったね」
イモラのレース2では3位に終わったフォルナローリ(右)
写真: Formula Motorsport Ltd
「ふたつ目がイモラ(フィーチャーレース)だ。かなり速さがあって、トライデントが予選で1-2-3だった。ニュータイヤを履いていなかったけど、本当に良い状態だった。オリバー・ゲーテにストレートで抜かれる時、いつもより右側を走ったことで僕の知らないところにあったバンプに乗ってしまって、完全にスイッチが切れてしまったことで3つほどポジションを落とした。あの時もチャンスだったと思うけどね」
シーズン中、目の前のレースよりもチャンピオンシップを優先しようと意識した瞬間はあったかと尋ねられたフォルナローリは、10ラウンド中の7ラウンド目であるシルバーストン戦で考え方を変えたと語った。
「シルバーストンでは『(ランキング)トップでいるためには、例え勝てなくても常にそこ(上位)にいる必要がある』と思った。そこで僕はシーズンに対するマインドセットを切り替えたんだ」
このように、フォルナローリが見せてきた安定感を賞賛するのは簡単だ。しかしながら、“優れたドライバー”と“偉大なドライバー”を分けるのは、コンマ1秒を絞り出す切れ味のある速さだったりもする。そういった部分を彼が持ち合わせているのか、疑問に思う人もいるだろう。
フォルナローリは来季、F3王者という実績を引っさげてF2にステップアップすることが発表された。所属チームはインヴィクタ。現在ガブリエル・ボルトレトがタイトル争いを繰り広げているチームだ。そのためボルトレトは、すぐに上位で争えるようにならないといけないというプレッシャーもあるだろう。結局のところ“0勝チャンピオン”というのは異例中の異例であり、2度起こるようなものでもない。
写真: Formula Motorsport Ltd
フォルナローリの名誉のために付け加えると、彼自身もこういった指摘には同意しており、どうすればもっと良いレースができたのか、どうすれば同じミスを繰り返さずに済むかを分析したいと繰り返し語った。
レースでの優勝がなかったという事実は自身にとって重要なことかと尋ねられ、フォルナローリはこう答えた。
「もちろんだ。今はそれほど気にしてはいないんだけど、アドレナリンが出尽くした今、日曜のレースが完璧ではなかったことに気付き始めた」
「全てを見直して、将来に向けて改善し、こういった(F1直下の)カテゴリーでの初優勝が挙げられるようにしたい」
ちなみに、今季のF3で勝利を飾ったドライバーは全部で12人。全20レースということを考えるとかなりバラけている。フォルナローリは0勝、ランキング2位のミニも1勝だが、3位のルーク・ブラウニングは2勝、4位のアービッド・リンブラッドが最多の4勝だった。
フォルナローリはこう続ける。
「確かに上位陣の中で優勝していないのは僕だけだ。これは僕が他よりも安定していたことを示している」
「ルークもアービッドもガビ(ミニ)も僕より勝っているけど、僕は彼らよりも安定していて、特に最後の3ラウンド(のフィーチャーレース)では彼らよりも前でフィニッシュした」
今シーズンのF3は、あくまで特異なシーズンだったと言える。フォルナローリはブラウニングと並んでシーズン最多のポールポジション2回を獲得しているが、それでも彼が“最速”のドライバーだったかと言われると、そうとは言い切れない。しかし誰よりもミスが少なく、安定して好調なレースウィークを継続できたかと言われると、これはイエスだ。
フォルナローリは、棚にトロフィーが増えていくライバルを羨ましく思うかもしれないが、来季のF2、F3参戦ドライバーたちは彼の戦いぶりを細かく研究してくることだろう。フォルナローリが王者になった鍵は、いかにポイントを稼いだかというよりも、いかにポイントを落とさなかったか、だと言える。これは誰が王者に相応しいのかという点で、全てのジュニアドライバーにとって教訓となるだろう。
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