フォーミュラEの勝敗を分けるエネルギー残量。ライバルに知られないよう、複雑な暗号を多様……状況を把握できるのは、実はドライバーだけ!

フォーミュラEでは、マシンのエネルギー残量を把握できるのは、当該マシンに乗るドライバーだけだという。その残量をチームに伝えるために、複雑な暗号を使用。そしてその暗号が、ステアリングに表示されるという。

Sacha Fenestraz, Nissan Formula E Team, Nissan e-4ORCE 04 Nick Cassidy, Envision Racing, Jaguar I-TYPE 6, Norman Nato, Nissan Formula E Team, Nissan e-4ORCE 04

 フォーミュラEのレース中のエネルギー残量は、中継では時折開示されるものの、基本的には各マシンのドライバーしか知り得ない情報であるという。それをライバルチームに知られないようチームに伝えるべく、実に高度な暗号が使われているという。

 2024年が明けて2週間。FIAの世界選手権シリーズの先陣を切って、フォーミュラEの第10シーズンが今週末に開幕を迎える。その初戦は、メキシコシティePrixである。

 フォーミュラEは、完全EVのフォーミュラカーレースであり、その勝敗はもちろん速さも重要ではあるが、エネルギーマネジメントをいかに効果的に行なうことができるかどうかで左右されることが多い。限られたエネルギー量をいかにつかって、フィニッシュに辿りつくのか……各チームはそれに知恵を絞っている。

 特にレース終盤になると、各車のエネルギー残量が重要になってくる。このエネルギー残量は、国際中継では時折画面上に表示されることもあるが、実は各チームは、ライバルチームのエネルギー残量はもちろん、自分たちのチームのマシンのエネルギー残量も把握できないのだという。

 マシンのエネルギー残量を知ることができるのは、そのマシンをドライブしているドライバーのみ。その情報は、ドライバーが無線を通じてチームに伝達しているわけだが、数字をそのまま伝えてしまうと、ライバルに状況を知られてしまい、戦う上で不利な立場に立たされる……それを避けるべく、ドライバーは暗号を使い、チームに伝えているという。

 東京オートサロンの日産ブースでのトークショーに登壇した、日産フォーミュラEチームのチーフ・パワートレイン・エンジニアの西川直志は、トークショーの中で次のように明かした。

「エネルギー残量は、ドライバーしか知り得ない情報です。そこは他のチームにバレないように、暗号化してチームのラジオで伝えるということになっています」

日産ブースで行なわれたトークショー。右が西川直志チーフ・パワートレイン・エンジニア

Photo by: Motorsport.com / Japan

日産ブースで行なわれたトークショー。右が西川直志チーフ・パワートレイン・エンジニア

 このトークショーで司会を務め、J SPORTSでフォーミュラEの実況を担当するサッシャ氏もこの発言について「実況中にこの無線は何を言ってるんだ? と思うことがありますが、そういうことだったんですね!」と応じると、西川エンジニアはにんまりと「分からないということは、暗号が成功しているということですね」と語った。

 トークショー終了後に、その暗号とはどんなものなのか? 改めて尋ねると、西川エンジニアは次のように語った。

「ヒントは無いですよ……無いというか、実は暗号を毎レース変えています。ステアリング上に暗号が表示されているんで、ドライバーはそれを読むだけなんです」

「ドライバーはもちろん、エネルギー残量を数字で確認することができます。そして、それを暗号化したモノがこれというのも、ステアリング上に出ているんです」

 この暗号により、コンマ数%という部分まで表現できるようになっているという。ただ暗号がステアリングに表示されるならば、ドライバーは毎回変わる複雑な暗号を覚えずに済むわけだ。

 ただオンボードカメラ映像でステアリングが映ると、その情報がたちどころにライバルチームに伝わってしまう。そのため、中継でもステアリング部分にモザイクが入れられ、視認できないようになっているという。

「そうです! ステアリングのダッシュボードに映し出す情報は各チームで作り込んでいるんで、見えてしまうと全てがバレてしまいますからね」

Nissan e-4ORCE 04

Photo by: Motorsport.com / Japan

Nissan e-4ORCE 04

 この暗号を使ってエネルギー残量を伝えるというやり方は、何も日産だけで使っているモノではないという。そしてその暗号は複雑で、今まで解読できたことはないようだ。

「トラックエンジニアには、それぞれ他チームの無線を聴く担当もいるんです。もちろん、それぞれ自分の仕事をしているんですけど、その中にたとえばジャガーの無線を聴くことも担当になっている人がいます」

 西川エンジニアはそう明かす。

「でも、ライバルのエネルギー残量が分かったことは、これまでまったくないと言っていました。その中で我々は、毎回変えてしまってますからね」

 エネルギーマネジメントという面では、カスタマーチームとその残量を共有した方が、レースを優位に進める材料になるように思える。西川エンジニア曰く、ジャガーとそのカスタマーチームであるエンヴィジョンは、情報を共有しているようだ。

 しかし日産は、カスタマーチームのマクラーレンと、エネルギー残量の共有はしていないという。

「レギュレーション上では、カスタマーチームとエネルギー残量のやりとりをしても良いということになっています。ジャガーとエンヴィジョンは、それをやっているみたいですからね」

「でも日産とマクラーレンはやっていません。あくまで競争相手ですからね。結局ジャガーとエンヴィジョンも、情報は共有しつつも、コース上で戦っているわけですから……それならば共有しない方が良いんじゃないかと思います」

「もちろん、レースが始まる前とか、セッティングとかは共有してやっていますけどね」

 実際どんな暗号が使われるのか? そしてそれをドライバーがどう口にするのか? そんな視点でフォーミュラEのシーズン10開幕戦メキシコシティePrixを見てみるのも、面白いかもしれない。

 

前の記事 エバンス、ジャガーの高い下馬評を自信に変えて……「タイトルを獲るためには、一貫性が重要」
次の記事 フォーミュラEシーズン10開幕、ウェーレインが逃げ切り優勝。キャシディが3位|メキシコシティePrix

最新ニュース

トヨタ、ハースF1との提携でさらなる”良いクルマづくり”目指す。「人づくりから始める決意をぜひとも応援いただきたい」

トヨタ、ハースF1との提携でさらなる”良いクルマづくり”目指す。「人づくりから始める決意をぜひとも応援いただきたい」

F1 F1
トヨタ、ハースF1との提携でさらなる”良いクルマづくり”目指す。「人づくりから始める決意をぜひとも応援いただきたい」
スーパーフォーミュラ”最後のラウンド”に臨むデ・フリーズ、今回もチームとみっちりミーティング交わすも「2戦目だから簡単ではないだろうね」

スーパーフォーミュラ”最後のラウンド”に臨むデ・フリーズ、今回もチームとみっちりミーティング交わすも「2戦目だから簡単ではないだろうね」

SF スーパーフォーミュラ
スーパーフォーミュラ”最後のラウンド”に臨むデ・フリーズ、今回もチームとみっちりミーティング交わすも「2戦目だから簡単ではないだろうね」
岩佐歩夢、スーパーフォーミュラ参戦1年目も残り4レース「抑えに入るような立ち位置じゃない……明日に向け、チャレンジしていきます!」

岩佐歩夢、スーパーフォーミュラ参戦1年目も残り4レース「抑えに入るような立ち位置じゃない……明日に向け、チャレンジしていきます!」

SF スーパーフォーミュラ
第6戦・第7戦:富士
岩佐歩夢、スーパーフォーミュラ参戦1年目も残り4レース「抑えに入るような立ち位置じゃない……明日に向け、チャレンジしていきます!」
ホンダ・レーシング渡辺康治社長、ハースと組んでF1に挑むトヨタにエール。キーワードは”人を育てる”こと「切磋琢磨して、頑張っていきましょう」

ホンダ・レーシング渡辺康治社長、ハースと組んでF1に挑むトヨタにエール。キーワードは”人を育てる”こと「切磋琢磨して、頑張っていきましょう」

F1 F1
ホンダ・レーシング渡辺康治社長、ハースと組んでF1に挑むトヨタにエール。キーワードは”人を育てる”こと「切磋琢磨して、頑張っていきましょう」

Sign up for free

  • Get quick access to your favorite articles

  • Manage alerts on breaking news and favorite drivers

  • Make your voice heard with article commenting.

エディション

日本 日本