“世界王者”となったニック・デ・フリーズ。見据える先はフォーミュラEでの栄光? それともF1へのチャレンジ?

今季からFIA世界選手権となったフォーミュラEで王座に輝き、晴れて“ワールドチャンピオン”の肩書きを手にしたニック・デ・フリーズ。彼はフォーミュラEで歴史を築くことを目指すのか、それともF1という千載一遇のチャンスに飛び込むのか?

“世界王者”となったニック・デ・フリーズ。見据える先はフォーミュラEでの栄光? それともF1へのチャレンジ?

 ベルリンで行なわれたフォーミュラEの2020-2021シーズン最終戦でタイトルを獲得したニック・デ・フリーズは、今最も注目を集めているドライバーのひとりだ。来季限りでフォーミュラEから撤退するメルセデスは、“有終の美”を飾るためにぜひともデ・フリーズを残留させたいところだろうが、彼は来季ウイリアムズからF1デビューする可能性もあると言われている。

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 フォーミュラEはこれまで、F1を追われたベテランドライバーたちが多く集うレースといった感があった。昨季まで参戦していたフェリペ・マッサを筆頭に、今季もルーカス・ディ・グラッシやセバスチャン・ブエミなど、多くの元F1ドライバーが参戦している。しかし、前述のデ・フリーズやジェイク・デニス、ミッチ・エバンスにニック・キャシディといった若手の活躍もあり、現在ではそのイメージも薄れつつある。

 ただ、“フォーミュラE→F1”といった流れができているかと言えば、そうではない。2016-2017シーズンには、F1デビュー前のピエール・ガスリーがセバスチャン・ブエミの代役として2戦だけ出走しているが、「フォーミュラEで実績を残してF1へ」といったモデルケースは未だ存在しない。

 それが惜しくも実現しなかったケースは何度かある。ストフェル・バンドーンは昨年、新型コロナウイルスに感染したルイス・ハミルトンの代役として、メルセデスからスポット参戦ながらF1に復帰する可能性があったが、メルセデスはジョージ・ラッセルの起用を決めたためチャンスは巡ってこなかった。またジャン-エリック・ベルニュも、フォーミュラEで連覇を達成した後、F1復帰のオファーがあったという。アレクサンダー・アルボンも、日産・e.ダムスからのフォーミュラE参戦オファーを辞退してF1へとデビューしている。

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 そんな中、現役のフォーミュラEドライバーがF1にステップアップするチャンスがようやく現実味を帯びてきた。そのドライバーこそが、フォーミュラEがFIA世界選手権となった初年度にタイトルを獲得した“ワールドチャンピオン”のデ・フリーズだ。デ・フリーズは来季、メルセデスF1へと昇格するラッセルの後釜として、ウイリアムズに加入するのではないかと噂されているのだ。

 メルセデスフォーミュラEチームの代表であるイアン・ジェームスは、昨年バレンシアで行なわれたプレシーズンテストの際、フォーミュラEという選手権は、ドライバーやエンジニアをF1へとスムーズに送り込めるように準備する段階に来ていると語っていた。

 当時はそういったコメントを空想の産物だとする声も多かったが、あれから9ヵ月が経ち、ジェームスの言ったことが現実になる可能性が出てきている。皮肉にも、自らのチームのかけがえのない財産を失うという形で。ただ、デ・フリーズがフォーミュラEを戦ったおかげで世界トップレベルのドライバーに成長したのか、2019年にFIA F2のタイトルを獲得した時点で既にそのレベルに達していたのかについては、議論の余地があるだろう。

Nyck de Vries, Mercedes-Benz EQ, Ian James, Team Principal, Mercedes-Benz EQ, on the championship podium

Nyck de Vries, Mercedes-Benz EQ, Ian James, Team Principal, Mercedes-Benz EQ, on the championship podium

Photo by: Alastair Staley / Motorsport Images

 motorsport.comの姉妹媒体である英国Autosportは先日、メルセデスのモータースポーツ部門を率いるトト・ウルフのコメントを報じた。その中でウルフは、デ・フリーズとバンドーンが「F1で戦うための才能や意欲、知性があり、F1で走るにふさわしいドライバー」であると高評価していた。この言葉は間違いなくデ・フリーズの耳にも入っているだろう。

 ただ、デ・フリーズはこれからある種のジレンマを抱えることになるかもしれない。このまま来季もフォーミュラEに残れば、“ワールドチャンピオン”として、メルセデスと共に連覇を目指すことができるだろう。しかし、メルセデスは来季限りでのフォーミュラE撤退を決めているため、将来は不透明。ウイリアムズからF1デビューを果たすことになれば一転して中団以下での戦いを強いられることになるかもしれないが、モータースポーツの頂点で戦えるというチャンスは常に魅力的だ。

 デ・フリーズはこれまで、F1とはほとんど縁がなかった。彼はマクラーレンのジュニアドライバーとしてF2に参戦していたが、2018年末にプログラムを外されてしまう。その後2019年には晴れてF2タイトルを獲得するものの、ラッセルはじめ3人のドライバーがF1昇格を果たした“豊作”の2018年とは対照的に、2019年は王者のデ・フリーズをもってしてもF1シートを得ることができなかった。

 デ・フリーズは自身の将来について具体的な話はしないものの、自分たちがF1にステップアップすることでフォーミュラEに名声をもたらせるのではないかと考えているようだ。彼は次のように語る。

「今のところ、逆のパターン(F1ドライバーがフォーミュラEに)が圧倒的に多いと思う。でもそれは(フォーミュラEの)戦いのレベルが高いということを表しているし、モータースポーツ界がこの選手権を認め、ドライバーやチームの質の高さを評価しているということだと思う」

Champion Nyck de Vries, Mercedes-Benz EQ, EQ Silver Arrow 02, celebrates

Champion Nyck de Vries, Mercedes-Benz EQ, EQ Silver Arrow 02, celebrates

Photo by: Andrew Ferraro / Motorsport Images

「それ(フォーミュラEからF1へのステップアップ)が実現していけば、間違いなく良い兆候だと思う。僕としても、ここから数ヵ月で何が起きるか、どんな将来が待っているのかを見届けたいと思う」

 デ・フリーズにとって、フォーミュラEのチームメイトであるバンドーンの存在は大きいだろう。彼らふたりは共にメルセデスF1のリザーブドライバーを務めているが、デ・フリーズ曰く「素晴らしい関係」を築いているとのことで、とても仲が良い様子。家も近く、行動を共にすることも多いようだ。

 ふたりが共に行動する中で、バンドーンはデ・フリーズに自らのF1時代の辛い経験を話しているかもしれない。バンドーンはGP2(現FIA F2)で圧倒的な成績を残してチャンピオンを獲得し、2016年に日本のスーパーフォーミュラを戦った後、鳴り物入りでマクラーレンからF1デビューを果たしたが、当時のチームメイトはフェルナンド・アロンソ。歴代トップクラスの実力を誇るアロンソと1年目から比較され、評価を落とす形となってしまった。キャリアの岐路に立つデ・フリーズは今、そういった話にも耳を傾けるべきだろう。

 とはいえ、デ・フリーズがアグレッシブさと冷静さのバランスが取れた知性あるドライバーであることは、既に証明されている。彼は少なくともフォーミュラEのレベルでは、ほぼ完璧に近いパッケージを備えているドライバーだ。

 デ・フリーズはこう続ける。

「最終的には、ドアをこじ開け、チャンスを広げてキャリアを続けていくためには、コース上でパフォーマンスを発揮する必要がある。僕はそこに集中している」

「それこそが僕が今続けていることであって、これからもそうしていくつもりだ。そして僕はこれからどういう道に進もうとも、クルマを運転し続けることになるだろう」

 レーシングドライバーにとって、F1に参戦するチャンスがあるということはこれ以上ないほど魅力的だろう。これからデ・フリーズは、それらとフォーミュラEでの成功を天秤にかける必要がある。

 

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