キーワードは”映え”? レース好きじゃなくても楽しめるEVカート・サーキットを目指して……パレットタウン跡地に誕生したシティサーキットが見据える戦略
モータースポーツは敷居が高いとよく言われる。それはやる面でも、観る面でも……しかしお台場パレットタウン跡地に出来た”シティサーキット・東京ベイ”は、その状況を打破する、画期的な施設となるかもしれない。運営するトムスの谷本勲社長に、今後の戦略を聞いた。
東京・青海のパレットタウン跡地に出来上がった、EVカートのサーキット”シティサーキット・東京ベイ”。現在は11月23日(木・祝)のグランドオープンを前に、今はコンテンツ開発を目的として「プレオープンフェスティバル」が実施されている最中だ。
このシティサーキット・東京ベイは、東京23区で唯一のサーキット。モータースポーツファンにとって待望の施設と言うことができるだろう。
しかしこのサーキットを運営するトムスの谷本勲社長は、さらに先の未来を見据えている。
このシティサーキットは、東京・青海だけで終わらせるつもりはないと、谷本社長は断言する。曰く、2030年までに国内外合わせて100拠点で”シティサーキット”を運営する計画があるという。
「複数話を進めていますが、今交渉しているのは5〜6箇所です。そのうちひとつは広島です。広島県の土地活用ということで、オープンは2027年の頭になると思いますが、広さは東京ベイの10倍です。この東京ベイに次ぐ、もうひとつのフラッグシップになるかなと思います」
谷本社長はそう語る。
「今はまず、こういうコンテンツがあるということを知っていただくところから始めています。そして施設や土地をお持ちのオーナーさんから、こういう面白いコンテンツを自分たちでもやりたいと、ご相談を受けているところです」
今まで、サーキットといえば郊外にあることが多かった。それは、世界選手権などを開催する本格的サーキットだけではなく、カート場も例に漏れなかった。しかしシティサーキット・東京ベイは、電車で、手ぶらで行ける。気軽にモータースポーツを楽しめるわけだ。
この後計画されている100拠点も、同じような形……つまり駅チカが中心となるのだろうか?
「郊外だと大通り沿い、それ以外はターミナル駅の近くということになると思います。東京ベイも、どちらかと言うとターミナル駅の近くと言えると思いますが、そういう戦略でやっていきたいと思っています」
そう谷本社長は語る。
「郊外は大通り沿いで、レジャー施設のような感じになると考えています。そして駅チカの施設は、駅ビルの地下でやりたいというお話をいただいたりしています。駅ビルの地下だと、コンテンツは凝縮されてしまいます。それでもメインはEVカートですが、待ち時間の間に楽しんでいただけるシミュレータとか、そういうモノを充実させていきたいと思います」
また谷本社長は、カートに乗ることを目的としない顧客も取り込めるようにしていきたいと、考えを明かしてくれた。
「この東京ベイは、今後施設の増設を考えています。コース脇の建物を増やしていって、2階をテラスにして、そこでバーベキューができるようにするとか、そういうことを考えています。色々と試していきたいですね」
「せっかく都心部なので、夜は大人の方は食事をし、カートに乗らない方はお酒も楽しみながら音楽を聴いて、カートに乗りたい時は乗る。そんな施設にしていきたいです」
シティライフのひとつをEVカート場にする……キーワードは”映え”である。
「ここを色々なテストをする場にしたいと思っています。例えばクリスマスには、イルミネーションをしたいんですよ。コースを仕切るブロックにイルミネーションを入れたらどうなるのか……そんなこともテストしてるんです」
そう谷本社長は明かす。
「ブロックにイルミネーションいれると、すごく良いんです。でも、コースは全長400mですから、ブロックの総延長は800m……その全てにイルミネーションを入れると、ものすごいお値段になりまして……じゃあどうしようかということをやっています」
「でもそれが実現できたら、”映える”じゃないですか! それなら来たいなと思ってくれる方もいらっしゃると思います」
「”映える”というのは、ひとつのキーワードだと思います。そういうのは、女性の皆さんが発信してくれると思います。そのためにも、お手洗いにパウダールームを作ったり、衛生面など女性の方がいらしても嫌だと思われない、そういう施設にするため、最大限配慮したいですね」
「これまでカートって、”父子”でやることが多かったと思います。でもここでは”母子”でカートを楽しめるようにしたい。子供たちはカートで遊んで、お母さんたちはお茶しようよと、そういう形をひとつ目指しています」
Photo by: Motorsport.com / Japan
City Circuit Tokyo Bay
とはいえ、モータースポーツファンを置き去りにしているわけではない。モータースポーツファンがサーキット以外で集まる場所は、今はほとんどないと言ってもいいのが実情だ。でもこのシティサーキットに多くのファンが集まれる、そんな仕掛けも用意していくという。
「メジャーなレースの開催週には、パブリックビューイングをしたいと思っています。ここにファンがみんなで集まって、みんなでレースを楽しむ。もちろん、合間にはカートを楽しめますからね。そういう使い方をしたいと思っています」
「業界団体には興味を持っていただいているので、そういう話も詰めていこうと思っています」
東京ベイなら、深夜まで営業できるという。そのため、たとえばF1のパブリックビューイングを行なうことも、可能だという。
「場所的に、ここではそれも可能です。問題になるのは騒音なんですが、一番近い住居は、高速を挟んだ先にあるタワーマンションなんです。ですから、よっぽど酷い音を出さない限り、クレームになるとは思っていません」
「当初からテストの意味合いも込めて、22時まで営業します。できれば24時とか、深夜2時とかまで営業できるようになると良いですね」
そのように深夜営業をすることで、外国人客も取り込みたいと考えていると、谷本社長は言う。
「六本木など、外国人の皆さんが夜飲みに行く場所というのは、都内にもいくつかあります。でも、我々のようなちょっとしたアクティビティがついているようなところは、東京には本当に少ない。外国の方からはそう言われます」
「外国の方が夜な夜な来てくれる、そういう世界観の場所にできないかなと、思っています。帰りはタクシーに乗っていただければ、都心まで15分で帰れますからね」
ちなみに青海地区といえば、来年3月にフォーミュラE東京ePrixを開催する、東京ビッグサイトからも近い。徒歩でも移動できる圏内だ。そういう意味でも、東京ePrixのひとつのハブになる可能性があるのではないかとも考えられる。
そう尋ねると、詳細を明言することは避けたが、谷本社長は「フォーミュラE連携イベントも企画中です」と明かしてくれた。
また谷本社長は、このシティサーキットから、世界に羽ばたくスーパースターを輩出したいと考えているという。そのためにも、チームやメーカーの垣根を取払うべく、なるべくトムスの名前が全面に出ないようにしていくという。
「色々なチームとの関わりを、絶対に持ちたいと思っています」
「そういう話はすでにもうしていますし、トムスの名前をあまり前面に出したくないというのもそこなんです。我々がトヨタ系だからという理由で関われないということになってしまうと、それは本意ではないですから。そういう垣根を作りたくないと思います」
「ホンダ系やニッサン系、それ以外のメーカー系列のディーラーさんやドライバーにもここを使って欲しいと、本当に思っています。そうすると、トムスの名前はかえって邪魔になってしまうかもしれません」
「ですのでトムスのブランドではなく、シティサーキットというブランドでやっていきたいと、そういう思いを持っています」
Photo by: TOM'S
CITY CIRCUIT TOKYO BAYロゴ
ただ、このサーキットにはトムスの魂が根付いている。シティサーキットのロゴを見ていただきたい。多くの四角いブロックが、渦を巻くよう円形に並べられている。その円を構成するブロックの数は、実は36……トムスを象徴するカーナンバーとなっているのだ。そんな遊び心もあるロゴなのである。
このシティサーキットが青海の地に根付き、そして軽い気持ちで訪れる人が増えれば、カート、そしてモータースポーツに人々が触れるハードルは、かなり下がることになるだろう。日本のモータースポーツの将来の一端が、この施設の成否にかかっていると言っては、言い過ぎだろうか?
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