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ホンダが開発した新しいレースエンジン”HRC-K20C"は、未来のコスワースDFV? 開発率いる佐伯PL「レース業界を続けていくには絶対必要」

ホンダ・レーシングが開発し、昨年末に鈴鹿サーキットを走った新しいレーシングエンジン「HRC-K20C」。このエンジンは、将来のコスワースDFVになれるようにと開発されたものであるという。

田中 健一

公開日時: 2025/03/13 9:55

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HRC-K20C

HRC-K20C

写真:: HRC

 昨年のスーパーフォーミュラ最終戦前日、塚越広大がドライブする漆黒のフォーミュラカーが鈴鹿サーキットを走った。このシャシーは2022年シーズンまでスーパーフォーミュラで使われていたSF19。そしてそこに搭載されていたエンジンは、ホンダ・レーシング(HRC)が開発した、シビック・タイプRのエンジン”K20C”をベースとした”HRC-K20C”であった。

 既報の通りこのエンジンは600馬力を発揮し、さまざまなカテゴリーのレースカーや巷に溢れる中古レースカーのシャシーにも搭載できるようにするなど、”汎用性があり販売できること”を念頭に開発が進められているという。

「日本では、レーシングカーの多くはレースで使用した後にまだ使えるのに、搭載するエンジンがないため中古として売れず、結局廃棄せざるを得ない、というのが現実なんです」

 そう語るのは、このプロジェクトを率いる佐伯昌浩プロジェクトリーダー(PL)である。佐伯PLは、HRCのスーパーGTやスーパーフォーミュラのプロジェクトを統括する人物としても知られる。

 スーパーGTのGT500クラスやスーパーフォーミュラでは、NRE(ニッポン・レース・エンジン)と呼ばれるエンジンが使われている。しかしこのNREは非常に高価であり、しかも各チームにリースとして供給されている。販売されているわけではない。そのため使用が終わるとメーカーに戻されてしまい、各チームにはシャシーだけが残る……そのシャシーは走る術を失うことになり、廃棄するしか方法はないのだ。その状況を打破するためにも”HRC-K20C”が使えるのだと、佐伯PLは説明する。

「使い終わったレーシングカーのシャシーを中古として販売して、そこから走れるようにできれば、チームの収入にもなります。そういう形で活用できるようなエンジンにしたいというのが、我々の思いです。レースを長く続けていこうと思ったら、こういうことは絶対に必要なんだと思います。そのためにはエンジンの搭載作業やメンテナンスを購入したチームやユーザーが行なえること、つまりレーシングカーとして『売り切る』ことができることがポイントとなります」

「以前のフォードHBや、コスワースDFVの現代版といったものになれるかもしれません」

 そもそもこのプロジェクトは、数年前からスタートしたものだ。

「先代のタイプRが出た時に、スポーツカーとしてのタイプRの訴求もかねて、量産のタイプR用エンジンをベースにして低コストなレーシングエンジンを当時のHRD Sakura(現HRC Sakura)のグループと一緒に作れないかというところからスタートしたんです」

「そこから検討した結果、ブロック剛性などで厳しい部分もありますが、ヘッド周りなど量産仕様のまま流用できる部分がたくさんあることも分かったのです」

■まず開発するのは、最高出力のSpec D

佐伯昌浩プロジェクトリーダー

佐伯昌浩プロジェクトリーダー

写真: HRC

 HRC-K20Cは、全部で4スペックが用意されることが想定されているが、最も出力の大きいSpec Dを開発することがまず念頭にあったと、佐伯PLは語る。

「レース用に強化していくとどうしてもコストが上がるため、コストとパワーの関係で需要のありそうなカテゴリーはどこなのかと検討した結果、まずは600馬力クラス……SFやF2あたりのカテゴリーであれば商機があるのではとスタートしました」

「600馬力を目標とするエンジンを開発し、そこからパーツを抜いて(チューン度合を減らして)いくと、パワー低減に応じてコストも下がり、下のカテゴリーにも適応した価格が可能になります」

 このSpec Dは、量産エンジンがベースなので重量面で不利で、NREのように複数のメーカーが参戦するようなカテゴリーには向かない。しかしワンメイクのシリーズならば当然使うことができるはず、と佐伯氏は考える。

「ベーシックなSpec Aは、アメリカでTCXカテゴリーに参戦しているシビック・タイプR TCRに搭載されていて300馬力台、そしてSpec BやCは、例えばユーズドシャシーに搭載して海外のエントリークラス・フォーミュラやジェントルマンレースに使えますし、昨年スーパーフォーミュラ最終戦の場でデモ走行が披露されたAI運転レースシリーズ”A2RL”などにも搭載できると思います」

 ちなみにA2RLで現在SF23のシャシーに搭載されているエンジンもホンダのK20Cがベースとなっているが、HRCが関与したものではない。

 鈴鹿でテストを行なうなど、このHRC-K20Cのプロジェクトは大規模なモノであるように見える。しかし佐伯氏は、非常に小規模のプロジェクトであると明かす。ただ関わっているメンバーはいずれも開発作業を楽しんでいるらしい。

「これは、プロジェクトと言えるほど大きいモノじゃないんですよ。私よりも年上の、60代の先輩たちを中心に、ほんの数人で動かしているのです」

「先輩たちに『こういう依頼が来てるんだけど、やります?』と相談したところ、『おおっ! やろう!』という感じで始動しました。みんなずっとレースエンジンをやっていた人たちだし、途中で量産エンジンもやったりして、知見が相当深い人たちです。でも、『なるべくお金は使わないで!』ってお願いしています」

市販が開始されるのはそう遠い未来ではない?

HRC-K20C

HRC-K20C

写真: HRC

 HRC-K20Cがサーキットの本コースを走ったのは、昨年のSF最終戦前日が初めてだった。しかし鈴鹿で1分44秒台を記録……しかもギヤレシオが合わずに、メインストレートではすぐリミッターに当たってしまう状態だったというから恐れ入る。ちなみに同じ週末スーパーフォーミュラの決勝レース中の最速タイムは1分 40秒台半ばであった。

 これを考えれば、すぐにでもビジネスベースに乗せられそうだが……佐伯PLは次のように語る。

「我々としては、まだ検討すべきことはいろいろありますが、これはビジネスチャンスだということを提起したかった。誰がどういう形で販売するのかは、これから考えることだと思います」

「例えば、二輪のRSC(レーシング・サービス・センター/HRCの前身)のように、レーシングキットを売る形はHRCとして、あるべき姿なんじゃないかと思います」

「これをどう収益化していくか……それは上の方に聞いてください(笑)」

 ということで我々は、HRCの渡辺康治社長に、このHRC-K20Cの今後の展望について尋ねてみた。

「いろんなことが起きればいいという期待があります。まだ決まったことはありませんが、HRCというレース会社として、こういうチャレンジもやるべき領域です。我々のエンジニアが知恵を絞り、量産エンジンをベースに安く、色々な形で使えるエンジンを作るということは、改めて我々がやるべきことだったなと思います」

「今後はHRCブランドの市販車とかパフォーマンスパーツとか、そういう一連の商品の中で、このエンジンも可能性を探っています」

 渡辺社長は、ビジネスとして実現させるまでにそれほど時間をかける必要はないと語る一方、まずは「何をやるか」と決めなければいけないとした。

「販売の可否や時期はまだ決まってませんが、そんなにゆっくりやる必要はないです。しっかりと使えるようなテストをやり、OKならば今からでもどんなビジネスチャンスがあるのかを模索したいと思います」

「そしてユーザーのみなさんに、リーズナブルにお届けするために、物流やサービス体制を構築していけばいいと思います」

「そのためにはまずは、何をするかという部分を決めなければいけませんね」

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