モータースポーツにおける”ガラスの天井”をどう打ち破る? 業界のさらなる女性参画に求められる「等身大の憧れ」
近年、モータースポーツ界では女性ドライバーやエンジニアを支える仕組みが形成されつつあるが、このスポーツに参画しようとする女性の母数が少ないのも事実……そうした現状を打破するために必要なのは「自身を重ねることができるの憧れの人」の存在ではないだろうか。
近年、モータースポーツへの女性の参加は急速に増えており、『Wシリーズ』や『エクストリームE』などのシリーズは女性ドライバーにとって重要な存在になっている。
女性ドライバーのみで構成されるWシリーズには18のシートが用意され、電動SUVで争われるエクストリームEでは男女比を50/50にしたフォーマットを採用している。さらに2023年にはフォーミュラレースの頂点であるF1で女性がシートを掴むことを目的とした新しい直系シリーズ『F1アカデミー』が新設され、女性ドライバーをサポートする仕組みが徐々に形成されつつある。
しかし、人気のあるトップカテゴリーを見渡すと、女性ドライバーがステアリングを握るケースは指折り数える程度……女性ドライバーのトップカテゴリー進出を阻んでいる要素は何だろうか?
そこでは体力やスピード不足、プロとしての資質や経済的バックアップがないこと、男性中心のスポーツに馴染めていないことなど、様々な理由が考えられる。
しかし、その答えはひとつではなく、もっと複雑なモノ。それゆえに、これからを担う若手女性ドライバーたちをサポートする正しい方法を見つけることは、より一層難しくなっているのだ。
motorsport.comや英Autosportなどを抱えるMotorsport Networkが行なう、F1初の女性チャンピオン輩出を目指す『More Than Equal』のアンケートでは、女性ドライバーの潜在的なハードルや障壁を顕在化すべくファンや競技者の意見を募集している。
アンケートでは、身体的能力や空間把握能力、速く激しく走ることへの情熱、そして女性スターの出現をどれほどの人が待ち望んでいるかなどの質問が設定されている。是非このアンケートに回答して頂きたい。
Catie Munnings, Timmy Hansen, Genesys Andretti United Extreme E
Photo by: Colin McMaster / Motorsport Images
では、当の本人たちはその”ガラスの天井”をどう考えているのだろうか?
エクストリームEにアンドレッティ・ユナイテッドから参戦するケイティ・マニングスは、女性ドライバーが直面する課題に真正面から取り組むことがどういうモノであるかをよく理解している。現在25歳の彼女は、14歳の時にモータースポーツを始め、ヨーロッパ・ラリー選手権に参戦した後、設立初年度の2021年からエクストリームEに転向した経歴を持つ。
エクストリームEでレース勝利も挙げているマニングスは文字通り、若い女性をモータースポーツへ呼び込む存在になっているものの、女性ドライバーの手本が少ないことがハードルとなっており、若い女性は自身に置き換えて考えることが難しいと指摘している。
「私が最初に様々な組織と関わり始めた頃、(元F1テストドライバーの)スージー・ウルフのキャンペーン『Dare To Be Different』のアンバサダーを務めていました。様々なイベントに行き、若い女の子たちに『F1ドライバーになりたいなら手を挙げて』とよく言っていたのを覚えています」
マニングスはそうmotorsport.comに語った。
「でも彼女たちはまだプレゼンテーションを見ていなかったので、会場全体で『女の子ではF1ドライバーになれないよ』と言っているような感じでした。彼女たちは純粋に、そう決まったモノだと思いこんでいたんです」
そしてモータースポーツのレギュレーションでは、性別に関係なく誰もが競技に参加できることは十分に認知されているのだろうか?
「他の選手権のトップレベルのカテゴリーでより多くの女性ドライバーを起用していることで、それが選択肢のひとつであるということが少しずつ知られてきたと思います」とマニングスは言う。
「ここ数年、女性サッカーや女性ラグビーなど、女性のスポーツは本当に増えてきています。モータースポーツも同じようになればいいですね」
「F1だけでなく、ラリークロスや世界ラリー選手権(WRC)、その他あらゆるレースでスターティンググリッドに並ぶドライバーにまだ格差があると思います」
モータースポーツでのキャリアを見据える若い女性にインスピレーションを与えるロールモデルの存在は非常に重要だと語るマニングス。彼女は、ドライバーのみならずメカニックやエンジニアとしてパドックで戦う女性が増え、業界内での認識は「確実に変化している」と考えている。
また、エクストリームEでコミュニケーション担当責任者を務めるジュリア・ウォール-クラークは、女性にとってのモータースポーツにおける障壁は依然として”アクセス性”にあると考えている。その他にも「熱意や夢の実現を叶える要素」を挙げており、女性のモータースポーツ参画に向けてそうした障壁を取り除くことが急務だとウォール-クラークは言う。
そしてMore Than Equalイニシアチブの戦略アドバイザー兼役員会メンバーのケイト・ビーヴァンは次のように付け加える。
「チャンピオン級のドライバーを見つけるとなると、干し草の山から針を見つけるようなものです」
「その逸材を探すための女性ドライバーの母数が全体の5%未満である場合、それはさらに困難になります」
ウォール-クラークは、モータースポーツ参画におけるコスト低減などの障壁を取り除くと同時に、エンジニアリングなど業界におけるドライバー以外の機会提供の必要性を指摘している。
そしてマニングスと同様に、ウォール-クラークは若い女性がモータースポーツは開かれた業界であると認識するためには、モータースポーツの主要ポジションに女性がいるということを知らしめる必要があると言う。
「見ることは信じることです」とウォール-クラークは語る。
「我々はこれまで、ファンをレース現場に招くことはしてきませんでした。しかし、地元の『Girls on Track』のSTEM(科学・技術・工学・数学分野)のグループを招いたり、地元関係者が案内したりしていいます。もっと詳しく言うと、若い女の子を招待して、パドック見学やドライバーとの交流を行なっています。そういった内部での体験が、彼女たちの中に生きてくるのです」
「チームオーナーやマーケティングマネージャー、FIA、女性ドライバー、そして彼女たちをサポートする男性ドライバーなど、関わる全ての人が責任を負うべきです。どう変えていくかは、我々全員にかかっているのだと思います」
Catie Munnings, Genesys Andretti United Extreme E, Hedda Hosas, Extreme E, and Kevin Hansen, Veloce Racing
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
また、モータースポーツにおける女性への認識やステレオタイプにおいて、メディアが果たす役割という問題もある。
Motorsport Networkのジェームス・アレン代表も、パドックにより多くの女性ジャーナリストを招き、メディアの男性スタッフを教育する必要があると考えている。
「More Than Equalプロジェクトは、根拠に基づくアプローチを取り、女性がスポーツの頂点に到達するのを阻む障壁を取り除くことを目指している。その実現のために、財政的・政治的な介入をするという点において重要な取り組みだ」
「ここ数年、多くの女性ジャーナリストやコンテンツクリエイターがこのスポーツに参画してきており、それは非常に喜ばしいことだ。しかしその一方で、男性ジャーナリストやコンテンツクリエイターに女性が直面する課題について認知を深めるという点においては、まだ道のりは長い」
ただ、責任の所在を序列化するとしたら、誰がモータースポーツにおける変化をリードする役目を負うのだろうか? この問題やモータースポーツにおける数少ない女性ドライバーのロールモデルが果たす役割について、下記URLのアンケートでご意見をお聞かせ願いたい。
このウェブアンケートは2月3日まで。motorsport.comの世界15ヵ国語で回答が可能で、この種の調査としては最大規模となる予定だ。
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