マン島”最強”電動マシン、無限・神電。最高速を目指すための空力

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マン島”最強”電動マシン、無限・神電。最高速を目指すための空力
執筆:
2019/04/06 3:20

無限がマン島TTレース用に生み出した電動二輪マシン”神電”。その性能を最大限発揮すべく考えられた、空力と冷却。

 先日、東京ビッグサイトで行われた東京モーターサイクルショー。この会場で無限が発表したのは、マン島TTレース TT Zeroチャレンジクラス用の電動マシン『神電 八』だ。

 同クラスで5連覇を達成している無限は、今シーズンのマン島の6連覇をかけて挑む。

 このマシンでひと際目を引くのは、カウルの各所に入れられた”ギザギザ”だ。これはシェブロンと呼ばれ、ボーイングの旅客機787のエンジン部分などにも使われている処理である。このギザギザの尖った部分で空気の渦を生み出し、後方に向かう気流を制御することを狙ったモノである。その狙いは、F1マシンなどで”ボーテックス・ジェネレータ”と呼ばれるモノに似ている。

 ボーテックスで渦となった気流には、周囲を流れる空気を引き寄せる働きがある。この効果を使い、一番流したい部分に気流を送り込んでやるのだ。

「空気抵抗を減らす、最高速を伸ばすというのが、マン島では一番ラップタイムに繋がるんです。そのための策だと考えていただいて結構です」

 無限の神電プロジェクトで監督を務める宮田明広は、このシェブロンについてそう説明する。

「二輪車は四輪車と違って、三次元的な動きがあります。マシンを傾けて走っていくわけですからね。だから、今回の処理で正解かどうかという部分については、正直に申し上げて、情報量が全く足りていません」

「ただ、少しでも良さそうだというモノが見つかれば、積極的に取り入れていきます。神電は電動マシンですから、バッテリーのエネルギーをどう効率良く使い、出力を上げたり航続距離を伸ばしたりするかを考えます。だから空気抵抗を減らして、マシンの性能を100%引き出せることを目指します」

「とはいえ、眉唾と言うほどいい加減な処理ではありません。ライダーによれば、こっちの方がマシンを倒しやすい……とか、そういう評価が出てきます。色々トライアルとなっている部分もありますが、それが形になって現れていると思っていただいて結構です」

 マン島というコースを考えた際にも、空気抵抗を減らすのは理に適っている。コースは1周約60km。2kmの直線もある……となればトップスピードは特に強力な武器となる。

「空気抵抗を減らす、最高速を伸ばすというのが、マン島では一番ラップタイムに繋がります。長いストレートが1箇所、2箇所とありますから。ストレートではなくとも、全開で走れるところばかりですからね」

 マン島のコースは公道を使っている。そのため、コーナリングスピードが高すぎると、それはライダーの生命の危険に直結することがある。そういうこともあり、ダウンフォース発生を目指す現在のMotoGPなどで流行のウイングレットについては、まだあまり評価していないと語る。

「ダウンフォース云々というのは、今のMotoGPではやっていますが、マン島や我々の方向性には反していると思います。コーナリングスピードを上げるということは、ある意味ライダーの生命にも直結してきます。ストレート区間で空気抵抗をなくす、走行抵抗をなくす方が、ラップタイムに寄与するんです」

 そう宮田監督は語る。

「ウイングレットについては、そこまで評価していません。そういう知見は一切ないので、迂闊なことは言えません。でもこういう形になった理由は、最高速や空気抵抗を少なくするという方向性に持っていっているというのは確かです」

 電動車であるが故に、神電は冷却について最大限の考慮をしなければならない。急速にエネルギーを使えばその分バッテリーは加熱し、これをしっかりと冷却しなければ、出力が落ちてしまうという悪循環に繋がる。

「どれだけ出力を上げるかということは、バッテリーをどれだけ積むかということに比例してきます。それによって、出力だけではなく、航続距離も伸ばすことができます。ですから、このパッケージの中にどれだけのバッテリーを載せることができるかというのは、大きなテーマなんです。そのために、モーターの位置を後ろにずらしました」

「レーシングバイクの適正なバランスもありますから、パワーの軸がピボットの後ろにあってもいいのかというところもあります。理想論からは外れていると思いますが、マン島に関して言えば、我々が出してきた結果を見れば、こっちの方が良かったと思います」

 そのバッテリーは、空冷だという。

「このマシンにはラジエターとオイルクーラーがついています。オイルクーラーはモーターを冷やすため、ラジエターはインバータを冷却するために使っています。でも、バッテリーは空冷です。絶縁性を考えれば、水では冷却できませんからね。オイルで冷却しようとすると、重くなってしまいます。空気でどう冷却するか、空気をどうやってマシンの中に入れ、それをどう綺麗に抜くか……そういう部分にも色々とノウハウもあります」

 ここにも、シェブロンで作られるボーテックスが活かされているのかもしれない。

「理想を言えば、もっと違った冷却方法を考えるべきかもしれません。でも、二輪のこのパッケージの中にそれをどうやって収めるか……人が乗れないマシンなんて、意味がないですからね。今の空冷がベストだろうと思います。もっと出力を上げると熱も上がりますが、バッテリーの進歩もあります。そこには、マクセルさんとやっているアドバンテージがあると思います」

 電動二輪と言えば、今年からMotoEがスタートすることになっている。ただ、無限としてMotoEに挑戦することがあるかどうかは、現時点では完全に未定だという。

「神電は車体としてはそれなりの性能を持っていますので、競争したらどうなるのかという部分については、エンジニア個人としてはすごく興味があります。でも、その活動に振っていくかどうかに関しては、何の計画もありません」

「ただこのマン島で磨いた技術は、モトクロッサー(同日に発表されたモトクロス用マシン)などにフィードバックしています。そういう部分で、もっと一般の方に楽しんでいただけるモノに展開していきたいという想いの方が、会社としては強いです。電動車ってこんなに面白いんだよという面を見ていただき、そういうところでビジネスにしていければと思っています」

 まずレースをやり、そしてそれを市販品にフィードバックしていく……しかもそのレースの場がマン島と言えば、ホンダと相通ずるところがあるように感じる。そう尋ねると、宮田監督は次のように語った。

「無限の創業者は、本田宗一郎さんの息子さんですから。当然その血や想いが受け継がれて、この会社があります。だから、オーナーの想いとか、そういうものを感じられるのは、当然だと思います。二輪も四輪も、そして電動やレシプロエンジンも……これだけのことをこの規模でやっている会社というのは、他にはないと思います。ホンダさんを除いて」

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この記事について

シリーズ General , MotoGP
執筆者 田中健一
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