佐藤琢磨と似た境遇? 遅咲きの“開拓者”室屋義秀が示す『空への入り口』
エアレース王者として、世界にその名を知られる室屋義秀。自らの力で道を切り拓いてきた彼は、子供たちにその“法則”を示そうとしている。
写真:: Motorsport.com / Japan
2017年にはレッドブル・エアレースで年間王者に輝くなど、世界を代表するスター選手となった室屋義秀。しかし、そこに至るまでの道のりは平坦ではなかった。航空スポーツという分野が日本国内で今以上に認知されていない中、室屋は20歳で単身渡米。その後は資金調達に苦労しながらも、幼少期から英才教育を受けてきた海外のパイロットたちを下して、数々の実績を積み上げていったのだ。
室屋はインディカードライバーの佐藤琢磨、そしてMotoGPの中上貴明と、高級腕時計メーカーであるブライトリングが立ち上げた『ジャパン・レーサーズ・スクワッド』を組んでいるが、この経歴は4歳からポケバイにまたがり、10代から日本の2輪レース界で名を轟かせた中上とは対照的と言える。しかし佐藤とは共通している部分があると言えるだろう。佐藤は同世代のレーシングドライバーを目指す子供たちがカートで腕を磨く中、学生時代は自転車競技に挑んでいて、鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS)の門を叩いたのは20歳だった。佐藤自身もトークショーの中で「室屋さんと僕は境遇が似ている」とコメントしていた。
室屋と佐藤の共通点はそれだけではない。共に現在は後進の育成に力を入れ始めているのだ。
佐藤は2019年からSRSのフォーミュラ部門とカート部門でプリンシパルを務めており、自身の“原点”とも言える場所で後進の育成に注力している。さらに小学生向けのカートイベント「グリコ x with you Japan TAKUMA KIDS KART CHALLENGE 2019 FINAL」を主宰しており、子供たちがレースの世界へと足を踏み入れる“きっかけ”を作ろうとしている。
一方の室屋も、2019年に“航空から未来を考える教室”『空ラボ』を開講し、自身は特別講師として携わった。空ラボでは小学3年生〜中学2年生の子供たちを対象に、様々な体験プログラムを通して知的好奇心を引き出し、将来設計のきっかけとすることを狙いとしている。
日本における航空スポーツのパイオニアとも言える室屋は、何もない状態から道を切り拓いていくことの大変さを、身をもって体感している。だからこそ、空ラボなどの活動を通して、子供たちにできる限り多くの選択肢を与えたいと考えている。
「子供たちはポテンシャルを秘めていますから、それを封じ込めてしまうようなことはないようにしたいです。子供たちの能力をどう生かすかは、我々大人の能力次第だと思っています」
「僕と戦っているパイロットたちも、幼少期からやっている人がほとんどです。僕は何とか追いつくことができましたが、そういう人たちにはどうしても勝てない部分もあります。そういう“差”って、いつしか圧倒的に埋められないものになっていきますから……」
そう語った室屋。エアロバティック・パイロットとして、自分の後に続くような人材が空ラボから現れてほしいか……そう尋ねると、彼は「個人的にはね」とはにかんで見せたが、空ラボを開講した意図はそこではないと話した。
「もちろん、我々は航空スポーツをやっているので、空ラボを受講してくれた人の中から選手が出てくれば、それは有意義なことですね。でもそれはその人たち次第ですから」
「自分自身がこういう生き方をさせてもらっていて、悪くないと思っていますし、成果を残すこともできました。そんな自分がやってきたことを“法則”として伝えてもいいのかなと。自分がこれまでに与えてもらった知識を伝えて、子供たちがそれをどんな形でも次のステップに生かしてくれれば、有意義だと思います」
新たな道を切り拓いた室屋が、子供たちに“可能性”を提示する……その可能性を掴み取った者たちの中から、また新たな道を作る者が現れるかもしれない。
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