日本初の常設サーキット『多摩川スピードウェイ』跡地の観客席が取り壊しの危機。保全団体は治水事業との“両立”望む
日本初の常設サーキット『多摩川スピードウェイ』跡地に現存する観客席が取り壊しの危機にあることを受け、任意団体『多摩川スピードウェイの会』が声明を発表した。
1936年に開場し、日本初の常設サーキットとして本田宗一郎はじめ自動車産業の発展に貢献した多くの人物・企業がレースを戦った『多摩川スピードウェイ』。多摩川の河川敷に作られた1周1.2kmのオーバルコースは現存しておらず、跡地は野球場などに使われているが、現在もその跡地にはコンクリート製の観客席が当時のまま残されており、歴史的遺産のひとつとなっている。しかし、これが取り壊しの危機にあるようだ。
この観客席は川の土手を利用して作られており、河川敷にあるサーキット跡地と、多摩沿線道路を隔てるような形で現存している。ただ多摩川スピードウェイの跡地保存と日本のモータースポーツ黎明期の歴史的意義の研究・情報発信を行なう任意団体『多摩川スピードウェイの会』が発表したところによると、多摩川河川敷の堤防強化工事の一環として、この観客席を完全に取り壊し、盛り土や連接ブロックによって新たな堤防を造成する工事を2021年10月頃に着工することが、7月2日になって国土交通省より通達されたという。
多摩川スピードウェイの会は7月21日付で発表した緊急声明の中で、地域住民の安全の為にも治水は最優先で行なわれるべきだとした。その一方で、現存する観客席は歴史的にも非常に稀有なものであるため、観客席の保全と治水事業の「両立」が図られることを望んでいると述べた。以下はその声明文だ。
「国交省による一級河川の治水事業は公益性・流域住民の安全のため、最優先で実施されるべきものです。その一方で、本跡地と観客席の日本の自動車産業発における産業遺産的な重要性、さらに川崎市の行政ビジョン『川崎市新多摩川プラン』で跡地の保存が明言されていることに鑑み、観客席の保全と治水事業の「両立」が図られるべきものと考えます」
「この方針のもと、現在提示されている一方的な取り壊しではなく、治水と保全との「両立」を実現するべく、当会より国交省京浜河川事務所に対し、7月12日の会議席上で工事計画見直しの申し入れを行いました」
「その際に、当会は観客席の部分的な移設などの妥協案も提示しましたが、担当官は現工事計画を決定事項として伝えるのみで、保全に向けた他の工法については検討・協議の意志さえ示していません。着工までわずか 3月前に通達したことでも明らかなように、事後通知による時間切れで、実質的な検討・見直し協議の打ち切りを意図した進め方は、文化財保護的な観点で許容されるものではなく、強く抗議の意を表します」
「加えて、京浜河川事務所『多摩川緊急治水対策プロジェクト』の対象に、本跡地の堤防は含まれておらず、現計画時期に慌てて工事を強行する必要性にも疑問を呈するものであります」
「第2次世界大戦以前に建設され、現存する観客席は世界的に極めて稀有です。そのような産業遺産・文化財に相当するものの取り壊しには、慎重な検討・協議が求められるところ、その過程がスキップされていることに、最大の問題が内包されていると考えます」
「つきましては、この貴重な観客席が取り壊しの危機にあることのご認識と、保全との『両立』に向けた計画見直しへのご支持・ご支援の表明、ならびに行政各所への働きかけを賜りたく、関係各位のご協力をお願い申し上げます」
『商工大臣カップレース』スタートシーン:1937年5月16日全日本自動車競走大會(多摩川スピードウェイ)、商工大臣カップレースは、国産小型車クラスで行われたもの
Photo by: 多摩川スピードウェイの会
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