モータースポーツのそもそも論(1):エンジンって何なんだ?
モータースポーツに限らず、人々の生活に身近な存在の”エンジン”。そもそも、どんな構造になっていて、どんな役割を果たしているのだろうか?
写真:: Honda
モータースポーツ好きだけに限らず、車を所有している人にとっても、エンジンは身近な存在だ。しかしガソリンを使って動力を生み出すことは分かっていても、その仕組みまで知らない方も意外と多いのではないだろうか?
motorsport.comはエンジンのスペシャリストに、改めてエンジンがどんな働きをしているのか、どんな開発が行なわれているのかを取材した。
今回話を伺ったのは、ホンダのエンジン開発部門の新里智則氏。1984年の入社から、ホンダでCIVICなどのエンジン開発に携わってきたエキスパートだ。
そもそもエンジンとは、広い意味では全ての「動力機関」を指し、一般的には機関内部で燃料を燃焼させる内燃機関を指すことが多いという。燃料(ガソリン)を空気と混合(混合気)してそれを燃焼させ、膨張する圧力によってピストンを動かし、クランクシャフトを通じて回転力に変換する内燃機関は、レシプロエンジンと呼ばれている。
内燃機関の基本原理は約150年間変わっていないものの、要求に合わせて進化を続けている。車を快適に走らせるための出力やレスポンスだけでなく、燃費の良さや環境性能、音や振動が少ないなどの快適性、コストや作りやすさなど、様々な性能が要求される複雑な開発分野だという。
現在主流なのは4サイクルのガソリンエンジン。1回の点火に対して、ピストンが下がり吸気バルブが開く吸気行程→全バルブが閉じてピストンが上がる圧縮行程→(点火)→燃焼よりピストンが押し下げられる膨張行程→排気バルブが開きピストンが上がる排気行程……という4つの行程を経るのが4サイクルエンジンだ。
燃料の混合気を点火するためには、ピストンで圧縮しなければならない。そのため、エンジンを始動させるにはスターターやセルモーター(バイクではキックなど)でピストンを強制的に動かしてやる必要があるし、ある程度の回転数がなければ、爆発が続かずにエンジンがストールしてしまう(=エンスト)ということになる。
燃料の噴射方式には、吸入気が通る吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射と、シリンダー内に燃料を噴射する直噴がある。F1などのレーシングエンジンはもとより、高い環境性能を持つ近年の量産エンジンでも、今は直噴が主流だ。新里氏は直噴の効果について、次のように話した。
「出力を出そうとして空気をいっぱい入れていくと、勝手に火がついてしまうノッキング(異常燃焼)がガソリンエンジンの大敵です」
「ノッキングが起きる原因は高い圧力と高い温度。つまり冷やしてやることがノッキングを回避するひとつのポイントです。燃料をシリンダー内に直接噴くと、気化して熱を奪います。これによってシリンダー内の圧縮ガスを冷やすことができるので、より多くの空気を押し込んで(圧縮比を上げて)もノッキングしなくなり、馬力が上がります」
では毎分何千回上下するピストンに対し、吸排気バルブの開閉と燃料噴射、点火のタイミングはどのようにコントロールされているのだろうか?
バルブに関しては意外なほど”アナログ”だ。ベルトやチェーンでクランクシャフト(ピストンの上下運動を回転運動に変換するパーツ)とカムシャフトの回転が同期され、カムシャフトの山がバルブを上げ下げする。電磁弁など別の方式による制御が検討されたこともあるとのことだが、要求される処理能力からすると現実的ではなかったという。
一方で燃料噴射や点火のタイミングは、クランクシャフトに取り付けられたパルス歯車の山をセンサーで読み取ることによりそのポジションを検出し、ECU(エンジンコントロールユニット)が電子制御している。
エンジンオイルも、エンジンに欠かせない要素のひとつだ。オイルポンプによってエンジン全体を血液のように潤滑しているエンジンオイルは、摩耗の防止や摩擦低減だけでなく、高温になる部分の冷却や油圧駆動デバイスの作動、シリンダー壁面とピストンリングの微小な隙間を密閉するなどの重要な役割を持っている。
エンジンオイルの回路構造と働き
Photo by: Honda
近年は、摩擦を低減するためにエンジンオイルの低粘度化が進んでいるという。これは機械加工の高精度化や、表面処理技術の進化によって実現したもの。高温状態で潤滑油膜が切れてしまうと、金属同士が接触して摩擦熱が発生してしまい、溶融・凝着してしまう。つまり、”焼きつき”が起こるのだ。これにより、コンロッド(ピストンとクランクシャフトを繋ぐ棒状のパーツ)が折れてシリンダーブロックを突き破るトラブルなどに繋がる可能性がある。これがエンジンブローだ。
なお、レーシングエンジンと市販エンジンは、法規制への対応や耐久性、コストの差による材料や精度の差こそあれど、構造自体に大きな違いはないのだという。(次回に続く)
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