【インディカー】佐藤琢磨はキャリア絶頂期を迎えようとしているのか?

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40歳になった佐藤琢磨は、今年名門アンドレッティに移籍した。そこで彼は、成長を果たし、円熟期を迎えようとしている。

 誰も佐藤琢磨のオープンホイール・レースにおける才能を疑ったことはない。インスピレーションを必要とする悪条件下では特に、彼のその才能の全てを見ることができる。そして、4年前のロングビーチにおける彼のインディカーでの唯一の勝利は、幸運によるところはほとんどなかった。予選では4位につけ、80周のうち50周で先頭を走り、A.J.フォイト・レーシングに11年ぶりの勝利をもたらした。しかし、彼がこのレベルのパフォーマンスをレースの週末に維持するのは稀で、シーズンを通して見ると皆無に近い。

 F1とインディの両方において佐藤に影を落とした欠点は、”熱狂”が度を過ぎてしまう傾向があったことだ。彼には多くのファンがいるが、彼らに言わせるとパフォーマンスの低いクルマで良い結果を出そうとした結果だと言う。彼を批判する人々も多いが、彼らも佐藤がクルマの性能以上のものを出そうとせずに、それなりにドライブすればはるかに良い結果をもたらすと言っている。そして、観客は4位で終わるものを3位に、また2位のものを優勝に持ち込もうとする一方でクラッシュもする佐藤に喝采を送るが、ほとんどのチームオーナーは無事にゴールし、ポイントと経験値をもたらすドライバーを好む。

安定したパフォーマンスと結果が、今年の目標

 しかしファンも批評家も、佐藤が自制することを覚えさえすれば、安定的に勝つことができる才能を有しているだろうということに異論はない。そして2001年に英国F3を圧倒的な強さで制覇したこの男は、アンドレッティ・オートスポートにおける最初のシーズンで、同様の思考を取り戻そうとしているように思える。今年の優先順位は2勝目を狙う事かシーズンを通しての安定したパフォーマンスを残すことかと問うと、後者だと佐藤は答えている。

「間違いなく安定した結果こそが目標です」

 佐藤はそうmotorsport.comに語っている。

「もちろん、レースには勝ちたいですよ。それは何とも言えない特別な感覚ですからね。だけど常に上位にいられるなら 2勝目はいずれ手に入るはずですし、僕はアンドレッティ・オートスポートにはその根本的な強さがあると考えています。 だからそのチャンスを得るために全てのタイプのコースで上位争いをすることが目標です」

 マイケル・アンドレッティのチームにおける、2017年の見通しに関する佐藤琢磨の楽観は間違ったものではない。A.J.フォイト・レーシングでの4シーズンの後、佐藤は速いチームメイトとデータを共有し、再びギャレット・マザーシードと共にマシンを作り上げることができている。ギャレットは、琢磨が7年前に初めてインディに参戦した際、KVレーシングで大きな助けとなっていた。

 今年、既にコース上で佐藤琢磨の良い面と悪い面が見られている。悪い面では、フェニックスでのテストとセントピーターズバーグの練習走行でのクラッシュだ(公平を期すなら、フェニックスで壁に突っ込んだのは彼だけではないし、セントピーターズバーグで新しいブレンボのブレーキパッケージを温める手順を忘れたのも彼だけではない)。

 良い面では、開幕戦でアンドレッティの全てのチームメイトを上回る5番グリッドを得て、レースでも5位でフィニッシュしたことだ。確かにファイナルラップでチームメイトのライアン・ハンター-レイに抜かれはしたが、ピットストップ中にホイールガンの問題が起きなければ、スコット・ディクソンと表彰台争いをしていたはずだ。彼のインディでのキャリアは、称賛と共に新しい章の始まりとなっただろう。

「A.J.フォイトでの4年間は、素晴らしい思い出や良い結果とともに、困難な時もありました」

 そう琢磨は振り返る。

「チームはいつも自分を信じてくれて、ファミリーのように感じさせてくれました。A.J.やラリー(フォイト親子)、エンジニアやクルーとあまりにも多くの時間を共に過ごしたので、離れるのは寂しさもあります」

「しかしアンドレッティ・オートスポートは、インディカーにおいて最も成功したチームのひとつであり、僕にとっては素晴らしい機会です。リソースや研究、そして強力なエンジニアたちは非常に印象的です。マイケル(アンドレッティ)とチームは2017年に向けて多くのポジティブな変化を約束してくれましたが、実際にそれは起こり始めています。インディアナポリスのショップでスタッフと多くの時間を過ごしましたが、とても歓迎されていると感じることができました」

「それから、古くからの友人であるギャレット・マザーシードとまた一緒に働いています。彼は2010年と11年にKVで面倒を見てくれました。アンドレッティに長く在籍しながら、とても信頼できる人がいることは素晴らしいです」

4台体制のメリットを享受

 マザーシードは、2013年にアンドレッティ・オートスポートに加わった。彼は最初の2シーズンでマルコ・アンドレッティを担当し、それから2シーズンをカルロス・ムニョスと過ごした。そして今年、再び佐藤と組むことを喜んでいる。

「琢磨はかなり早くチームに適応していると思う、それは彼が非常に聡明だからだ」

 そうマザーシードは言う。

「それに彼は経験豊富だからね。最後に彼と働いてから5〜6年の道程を経て、共に少し歳を重ね、少しばかり賢くなった。そしてマシンに何を望むかを理解するようになった。このような大きく力のあるグループ内で働くには、早く理解することで有利になるということを良く認識している」

「これはライアンに聞いてみよう、こっちはマルコに、あれはアレクサンダー・ロッシに……と言えるような状況を、彼は経験したことが無かったんだ。ここでは誰もがオープンで正直だし、それはレースエンジニアやエリック・ブレッツマン(チームのテクニカル・ディレクションの総監)も含まれる。全ての情報を処理する方法を知ることで、大きな恩恵を受けるだろう。彼は聡明な勉強家で、ノンストップで働いているよ」

「このような状況は佐藤に上手く作用するだろう。2017年にエアロキットの開発は凍結されたものの、3日間のみしかないシーズン前テスト、ファイアストンタイヤのコンパウンド調整、チーム間の微妙なセットアップの相違……といった事情により、チームを移籍するということは簡単なことではない」

 佐藤もその難しさを説明する。

「契約のタイミングの問題で、オフシーズンにこれほどクルマに乗れなかったのは初めてでした

 そう佐藤は語る。

「だから少し難しさがありました。自分好みのクルマに仕上げるためにすることは多くあります。A.J.フォイトでは多くの異なることを試したので時間がかかりました。レースの週末にはいつももう1日欲しい状況で、『これが金曜の朝なら良かったのに!』と感じながら日曜日の夜にはサーキットを出ていました」

「アンドレッティでのセットアップの哲学は、A.J.フォイトのそれと同じラインに沿ったものです。しかしここでは、2〜3歩前を行っています。非常に洗練された思考と開発エリア間の調整があり、より優れたデータのおかげで基本セットアップが優秀なため、コースでは優位なスタートが切れるのです。それから自分が何を望んでいるかを良く知ってくれているギャレットと働くことで、より多くのことが成し遂げられます。またアイデアを試すことができるクルマが4台もあることも大きいですね」

琢磨の優れたコミュニケーション力

 しかしエアロキット導入以降のアンドレッティ・オートスポーツの苦戦は、この4台の車がそれぞれ異なった”テクニカル・パス”によりエンジニアが仕上げることが多いためだ……というのも定説だ。それからほとんどのチームが最速ドライバーを中心に回すため、ハンター-レイのチームを軸にアンドレッティ・オートスポーツの方向性は決められ、時にチームメイトにとってはマイナスに働く。しかし、マザーシードによれば、佐藤がこの問題に直面することは無いという。

「まず言えるのは、琢磨の加入はチーム全体を活気づけた」

 そうマザーシードは語る。

「カルロス・ムニョスは自分の望みを分かってはいたが、時にそれを表現したり説明することが難しかった。それは経験不足や英語力の問題でもあった。琢磨に関しては、そういった問題はない。彼は今まで色々な経験を積んで来ているし、彼は信じられないくらいコミュニケーションを取るのが上手いんだ。彼の英語は私よりも上手いぐらいさ!」

「彼は自分の従うべき方向に向かうだろうし、アンドレッティ・グループは、共通の問題に異なる角度から取り組もうとするドライバー、エンジニア、マシンのアイデアにはとてもオープンなのさ。そうすることで、チームはより多くのオプションをカバーすることが出来るし、ひとつの道筋が機能しなかった場合は、いつでも次の選択肢を用意する事が出来る。なぜならば、我々はハンター-レイとアンドレッティのレースエンジニアであるネイサン・オルークと、ロッシの新しいレースエンジニアのジェレミー・マイレスと一緒にチェックして、彼等が何を施したかを知る事が出来るんだ。それは、セントピーターズバーグで実際に起こったことさ」

「練習走行1回目は問題なかったが、2回目はクラッシュが起きて酷い結果だった。しかし土曜日の朝に、他のメンバーが行った事を繋ぎ合わせて、練習走行3回目は悪くない状態で行うことができ、予選では6番目のタイムを出す事が出来た」

「琢磨はとても明確で経験豊かだった。チームにアイデアを持ち帰り、彼が何をして何故それを行ったのかをドライバーとして分かりやすく説明してくれた」

 琢磨が自分のセットアップの好みを追求するのは、似た様なドライビングスタイルを持つチームメートを迎えることで助けられるだろう。ハンター-レイとロッシは、即座に向きを変えるために緩めのリヤエンドを使用する事で、マシンのハンドリングを正確で確かなものにしたいと思っている。一方、アンドレッティはより深くブレーキをかけたいが、それを可能にするためにはリヤをしっかり固定する必要がある。

 琢磨はちょうど良い落としどころを模索していると、マザーシードは述べている。

「琢磨のスタイルはライアンよりもマルコに近いね」

「でも、彼はカメレオンのように状況に応じて対応するスマートさを十分持ち合わせているんだ。優れたドライバーは、特定のセットアップを好んでいたとしても、他の誰かのセットアップの方が速かったり、タイヤに優しいと分かった時は、それを取り入れる寛容さを持ち合わせているものなんだよ」

「実際、そういう態度は我々全員が受け入れている。なぜならば、昨年は良くないシーズンを過ごしたため、現状を良くするために全員が常に他人の意見を取り入れる必要があったんだ」

「聖域はない。オフシーズンでは、エリックとジェレミーが我々のチームに参加してさまざまなアイデアを出してくれた。もちろん琢磨も同様だ。我々はお互いの意見を聞き合った」

これまでの”チーム”にはなかったこと

 琢磨は、アンドレッティに加入すれば、ハンター-レイと直接比較されることは分かっていたという。しかし、自分の今後にはあまり関係ないと琢磨は主張した。

「おそらく、ファンとメディアは、ライアンと僕の比較に最も関心を持っているでしょうね」

 そう琢磨は述べた。

「自分としては……自分を信じているし、誰に対しても不利な立場にはないと思っています。だから、僕はライアンとアレックスとマルコと自分のパフォーマンスを比較するのではなく、彼らが彼らのマシンでどの方向を向いており、どれがベストに作用しているかを見ています。すべての理念を組み合わせてチーム全体を前進させるか、自分のドライビングスタイルに合わせて個別の方向に進む必要があるか? その決断はコース毎に変わります」

「僕はレースだけでなく、レースの側面が非常に面白いと感じています。チームメイトが3人いるのは初めての経験なんですが、データを重ね合わせると、それぞれの特徴やラインがあって興味深いです! 自分が競争力がある時も無い時も、それには理由がちゃんとあるんです。そして、4人もの優れたドライバーがいれば、何が作用して何が作用しないかを見つけるのは、とても簡単な事ですよ。僕たちは、あらゆる部門において非常に素晴らしいチームだと言えます」

 マザーシードは、琢磨がもたらした新しい環境のおかげで、チーム内の変化が進行していると考えている。

「このチーム内の文化は非常に異なっており、たくさんの素晴らしい力を持つ人たちがいる。マイケル、ブライアン・ハータ(ロッシが参加した時の共同チームオーナー)、チームマネージャーのロブ・エドワーズ、エリックなどね」

 そうマザーシードは述べた。

「フェニックスでのクラッシュの後、マイケルがトランスポーターまで来たんです。さながら面倒見の良い父親の様にね。そして丁寧に説明してくれました。『こんなレースは良くないと分かっているよね? ここでこのようなレースをしていたら勝つ事はできないんだ』とね。そして元ドライバーのブライアンも言いました。『何が起こったか、君の選択肢とそこに至るまでの過程を振り返ってみよう』と」

「同じ様にテストでクラッシュしたチームメートのアレックスもこれに賛同し、琢磨とアレックスはお互いの経験を相談しあった。」

「この様に、彼が以前に経験したことと比べて、このチームでは異なる事がたくさんあるんだ。これらの事が佐藤琢磨の本質を完全に変化させるとは思わないが、チーム内の成功したドライバーや元ドライバーに耳を傾ければ、境界を踏み外す事は少なくなるだろう。それを彼の天性の速さと組み合わせれば、彼はもっと成功するはずだ」

年齢に”デメリット”は感じない

 そして40歳になった今、佐藤琢磨は黄金時代に入る機会をようやく得た。

「僕はTK(トニー・カナーン)やエリオ・カストロネベスよりも若いんだよ!」

 佐藤は笑って言った。

「もちろん、20代の才能溢れる若いドライバーがたくさんいて、自分の年齢を自覚させられるますけどね。でも、僕はキャリアスタート自体が20歳と言う遅めの年齢だったから、まだ時間はたっぷり残っていると思っています。多くのドライバーが5歳とか6歳くらいでカートを始めて、25歳の時には20年の経験を積んでいる状態ですからね。40歳は驚くべき数字かもしれませんが、僕はまだ20年しか経験を積んでいない状態です」

「スピードについて話す時、自分の年齢に関してデメリットは感じません。毎日マシンに乗って学んでいる状態なので、今までよりも良くなっていると思っています。ドライブすること、レースをすることが大好きなんです。そして、自分のすべてを捧げています」

 彼の才能には疑いの余地は無い。しかし今、彼の平静さを改善する能力に、チームの可能性が引き出されるかどうかがかかっている。そして、7年間で5度のポールポジションと1度の勝利というインディカーにおける彼の実績が、彼の才能の本当の価値を裏付けている。

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シリーズ IndyCar
ドライバー 佐藤 琢磨
チーム アンドレッティ
記事タイプ コメンタリー