佐藤琢磨が2012年インディ500最終ラップから学んだこと
佐藤琢磨が、ダリオ・フィランキッティから勝利を奪おうとして果敢に攻めた、2012年インディ500の最終ラップを語る。
Dario Franchitti, Chip Ganassi Racing, leads Takuma Sato, Rahal Letterman Lanigan Racing
Michael L. Levitt / Motorsport Images
2012年のインディ500。レースは最終ラップに突入していた。その時2番手を走っていた佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン/当時)は、ターン1で首位を行くダリオ・フランキッティ(チップ・ガナッシ/当時)を抜こうとした。しかしマシンはバランスを崩してスピン。佐藤のマシンはアウト側のウォールの餌食となった。日本人ドライバーが、インディ500の優勝に最も近づいた瞬間だった。
昨年までA.J.フォイト・レーシングに所属していた佐藤琢磨は、今季からアンドレッティ・オートスポートに移籍した。佐藤は先月取材に応じた際、この移籍は競争力のあるマシンへの欲求によって成し遂げられたモノだったと語った。
「アンドレッティのクルマは、過去3年間のインディ500でとても力強く、印象的でした」
佐藤はそうmotorsport.comに対して語った。
「僕らは、去年と同じくらいに競争力があると思っています。トップを争うことができるでしょう。それについては心配していません」
実際に予選では、アンドレッティ・オートスポート勢が速さと強さを見せた。昨年勝者のアレクサンダー・ロッシが3位、佐藤が4位で、インディ500スポット参戦のフェルナンド・アロンソが5位となった。さらにマルコ・アンドレッティも8位、ライアン・ハンター-レイも10位と、トップ10のうち半分を占めているのだ。
佐藤との会話は今季の話題が中心だったが、それは突然、最後の最後で勝利を逃した、2012年のインディ500のことに移っていった。
200周レースの199周目、フランキッティと佐藤は、スコット・ディクソンをオーバーテイクし、首位と2番手に浮上した。そして最終ラップの1コーナー、2番手の佐藤はフランキッティに勝負を挑んだ。フランキッティは、コースのインサイドにマシン1台分の幅を残しており、佐藤はそこにマシンをねじ込んだのだ。しかし、マシンはリヤのグリップを失ってスピンし、アウト側のウォールに激突。勝利はフランキッティのモノとなった。
このアクシデントについては様々な見方がある。フランキッティがインを閉めすぎたのか? 佐藤のドライビングが大胆すぎたり、もしくは遅すぎたのか? また彼はターン3まで待つべきだったのか……。
あれから5年。佐藤はインディ500の勝利に向けて意気込みを語った。
「もし同じポジションにいたら、違ったやり方をしますよ、もちろん。そうじゃなければ、同じ結果になりますから」
そう佐藤は笑う。
「その経験は、素晴らしいモノでしたよ」
「しかし真面目な話をすれば、多くの人はターン3まで待つべきだったと言いますが、事実は異なっていたんです」
「その日の風向きは、ターン3でガナッシのクルマをオーバーテイクするのは不可能であることを意味していたんです。ターン4を立ち上がると向かい風だったので、ダリオやスコットとのギャップを縮めることができました。前方のクルマはドラフトもなく、向かい風に見舞われると、2番目を走っているマシンは大きなトゥ(スリップストリーム)の効果を受け、かなりのスピード差を生み出すことができますから」
「逆にターン3までオーバーテイクを待とうとすると、スピード差の恩恵を受けにくくなります。ダリオは追い風の影響を受けるので、(トウの効果を得ても)スピード差があまり大きくないんです。また、追い風に押されると、僕のクルマはアンダーステアになってしまうので、ダリオに十分近付くことができませんでした」
「僕はその日、確かにターン3で何台かのクルマをオーバーテイクしました。しかし、ガナッシのマシンのストレートスピードは、僕たちよりも速かった。僕らレイホールのマシンは、ダウンフォースをつけていたんです。だから、ターン3でスコットやダリオを抜くことはできませんでした。それで僕は決めたんです。『OK! それをするにはターン1でやらなきゃいけないし、残りのラップをその部分のためにそれをとっておこう』と。そして、それが僕にとって最後のチャンスでした」
なぜあのターン1で仕掛けたのか、佐藤はそう合理的に説明した。その一方で、自身の技法もやや間違っていたことも認めた。
「もう少し違うやり方をして、ターン1を外に出していたら、2台のマシンはサイド・バイ・サイドとなり、ターン2にわずかにリードして入ることができたかもしれないと信じています」
「僕らは共にターン1に向けて減速しましたが、非常にタイトなラインを走っていました。そして、ダリオは通常のレーシングラインに戻るのではなく、コースの中央を走ることを選びました。その角度では物理的にターンすることができないので、揃ってダウンシフトしました。まぁ、ダリオがダウンシフトしたかどうかは分かりませんけど、そうしたと想像できます」
「その後、僕はスロットルを戻しました。クルマを最も安定させるためには、スロットルは35%くらいにして、右リヤホイールにあまりパワーをかけないようにしました。それでも、僕のラインは非常にタイトでした。問題は、僕がダリオを”尊重しすぎた”ということです。僕の最優先事項は、”彼に当たってはいけない”ということでした。彼が僕にプレッシャーをかけるためにコースを降りてきた(イン側に寄ってきた)時、僕は過剰に反応しすぎてしまいました。そして僕の左リヤホイールは、白線を踏んでしまったんです」
「今では、僕らはみんな、かなり頻繁にホワイトラインを乗り越えます。でも、できるだけ素早く越えなければなりません。ゆっくりと横切るのは不可能なんです。カットインしたり、カットアウトすれば、それはうまくいきます。でも、ラインに沿って走ることはできません。それが、僕がしてしまったことです。僕はホワイトラインの上で長い時間を過ごしてしまい、グリップを完全に失ってしまいました。もし3〜5cmでもラインを外れていたら、大丈夫だったと思います。すべては、彼を避けようとしたからです」
「それはすべて”タラレバ”です。でも少なくとも僕は、次回何をすべきかを知っていると思います」
佐藤琢磨は4番グリッドを獲得し、今週末の決勝で最高の結果を掴み取るチャンスを手にしたように見える。もし、ターン1で彼と戦うドライバーがいたのならば、その時は他のドライバー以上に注意しなければならない。なぜなら佐藤琢磨には退くつもりなどなく、そして今の彼は、それを確実に成功させる方法を知っているからだ。
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