共にSRSで後進を育成……中野信治が考える、佐藤琢磨インディ500”2勝目”の意義
佐藤琢磨と共に、鈴鹿サーキット・レーシングスクールで後進の育成に充る中野信治。その中野は、今回佐藤がインディ500で2勝目を挙げたことによって、スクールの生徒と国内ドライバーが奮起することを期待すると語った。

第104回のインディ500を制したのは、レイホール・レターマン・ラニガンの佐藤琢磨だった。彼はレース最終盤、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)との戦いを制し、インディ500で2度目の勝利を挙げた。
佐藤琢磨は今、現役のレーシングドライバーとしてインディカー・シリーズを戦う傍ら、将来のスターを育てるためのプログラム”鈴鹿サーキット・レーシングスクール(SRS)”のカートおよびフォーミュラ部門で、プリンシパルを努めている。
そのSRSで、ヴァイス・プリンシパルとして佐藤琢磨を支えるのが、中野信治だ。中野は、自身がF1に乗っていた当時から佐藤のことをよく知っている人物である。そしてテレビのインディ500中継でも、解説を努めていた。
「モータースポーツ業界、自動車業界が厳しい状況の中で、素晴らしいニュースを届けてくれた。ありがとうと言いたいです」
そう中野は語った。
「琢磨のことは、昔からよく知っています。明るい部分だけではなく、葛藤していた部分も分かっています。ですから、今回(テレビの)解説もやっていましたが、最後は言葉にならなかったです。祈るしかなかった。『頼むから何も起きないでくれ』と念を送ることしかできませんでした。終盤には周回遅れもいましたからね」
そう語る中野だが、2017年に佐藤琢磨が初めてインディ500を制した時よりも、安心してレースを見守ることができたという。
「たしかに2017年の時よりも、安心して観ていられましたね。43歳でも、人は成長するんだなと思いました」
中野は、そう笑いながら言う。
「彼は周りのペースを見て、決して無理はしなかった。最初から、勝つ可能性があるなと思って見ていました。スピードなどを見ても(グラハム)レイホールだけが少し心配でしたけど、彼は最後伸びませんでした。本当に良いクルマを作り上げた、頭脳戦だったと思います」
「スタート前に、彼からLINEが届いたんです。『やれるだけの準備はしました』と。それだけ、落ち着いて戦うことができたんだと思います」
今回の佐藤琢磨の勝利によって、SRSの生徒たちや日本国内で戦うドライバーたちに、好影響が及ぶことを中野は期待する。
「スクールの生徒たちはもちろん、日本国内で戦っているドライバーたちには、俺も負けるか……俺も(世界に)行きたいと本気で思って欲しい。傍観者になるわけではなく、俺だって戦えると思って欲しい。今回の勝利には、そんな大きな意味があると思います。戦い続けることが大切……そのきっかけになればいいと思います」
今季はSRS出身のドライバーとして、佐藤蓮と岩佐歩夢がフランスのFIA-F4に参戦している。彼らには特に、発奮材料にして欲しいと語った。
「フランスに行っているふたりは、モチベーションがとても高い。僕は誉めないやり方です。周りは褒めるかもしれませんが、本当の壁はもっと先にありますから。若いドライバーには、それを知って欲しいと思います。そして今回の勝利を、発奮材料にして欲しいと強く思っています。”俺だって”、とね」
「続けていくことが大切なんです。一瞬輝くことはできるかもしれない。でも、それを続けていくのがどれほど難しく、大変なのかということです」
「良いな、凄いなで終わってしまうことが多い。でも琢磨は人の何倍も努力し、そして実際に行動している。それを理解して欲しいし、分かって欲しいですね。特にドライバーたちは、それを分からなければいけないと思う」
佐藤琢磨はこれでインディ500を2勝したことになる。インディ500は、世界三大レースのひとつ。どうしてもこれに勝ちたいと、F1王者のフェルナンド・アロンソが挑んでいるほどだ。数年前だったら、日本人がこのレースに勝つのは、まず不可能だと多くの人が考えていたかもしれない。しかし、2017年に佐藤琢磨が日本人として初めて勝ち、そして今年2勝目を挙げた。
F1では、日本人で勝利を手にしたドライバーは誰もいない。でも、日本人がF1に勝つことも不可能ではない……それを改めて感じさせてくれたのが、今回の1勝だったと言えるだろう。
「確かにその通りですね。でも僕は、不可能という言葉は嫌いです。不可能だということで、蓋をしてしまっている……そんな若いドライバーたちの先入観を取り去って、『俺にだってできる』と思ってほしい」と中野は語る。
「琢磨とは一緒に後進を育成する立場にいさせてもらっています。その中でそんな手助けができればいいと思っています」
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