ル・マンで完敗のトヨタ。逆襲に向け求められるものはただひとつ……|英国人ジャーナリスト”ジェイミー”の日本レース探訪記
日本を拠点に活動する英国人ニュースエディター、ジェイミー・クラインによるモータースポーツコラム。今回のテーマは、2025年のル・マン24時間で厳しい敗戦を喫したトヨタについて。
写真:: Rainier Ehrhardt
私がジャーナリストとして初めてル・マン24時間を取材したのは2016年……以来、トヨタは常に優勝争いの最前線にいました。そしてその間、彼らは伝統あるこのレースで栄光と挫折を共に味わってきましたが、「優勝争いの土俵にすら立てない」ということは一度としてありませんでした。しかし、今年のル・マンでそれが現実のものとなってしまったのです。
最終結果は7号車が5位、8号車が15位。トヨタはフェラーリ499Pの3連覇をただ見届けることしかできませんでした。彼らが優勝を争うほどの競争力を発揮できなかったのは、ポルシェとアウディに後れをとったLMP1時代の2015年以来です。
トヨタ勢は予選で8号車が10番手、7号車が16番手と厳しい結果に。ただ決勝になればGR010ハイブリッドが本領を発揮し、強力なレースペースでフェラーリやポルシェと競ることになるのでは……そんな希望も、レースが進むにつれて薄れてしまいました。
レース中盤のナイトセッションでは、トヨタがミシュランのソフトコンパウンドタイヤをうまく使い、一方でワークスのフェラーリ勢が複数のペナルティに苦しんで順位を落とす中、一時は8号車にチャンスがあるかのように見えました。セーフティカー出動により各車のギャップが縮まってからは、8号車がレースをリードする場面もありました。
しかし太陽が昇り、気温が上がり、各車が再びミディアムタイヤに戻ると、トヨタが勝利争いに絡む見通しはなくなってしまいました。フェラーリワークスはセーフティカーの恩恵も受けつつ、83号車のカスタマーフェラーリ、6号車ポルシェと共に、別格の速さを見せていました。トヨタの8号車は5番手で、“Bクラス”の首位といった状況でした。そして8号車は20時間のところで左フロントホイールが緩むトラブルに見舞われ万事休す……大きくポジションを落としました。
参考までに、ハイパーカークラスの主なドライバー4名とトヨタドライバー6名それぞれのベスト75周のラップタイムを平均したものが以下となっています。
ロバート・クビサ(フェラーリ83号車):3分28秒302
アントニオ・フォコ(フェラーリ50号車):3分28秒477
アントニオ・ジョビナッツィ(フェラーリ51号車):3分28秒490
ニクラス・ニールセン(フェラーリ50号車):3分28秒558
小林可夢偉(トヨタ7号車):3分28秒561
ニック・デ・フリーズ(トヨタ7号車):3分29秒101
ブレンドン・ハートレー(トヨタ8号車):3分29秒374
セバスチャン・ブエミ(トヨタ8号車):3分30秒075
平川亮(トヨタ8号車):3分30秒314
マイク・コンウェイ(トヨタ7号車):3分31秒113
レース後、TOYOTA GAZOO Racing ヨーロッパのテクニカルディレクター、デビッド・フローリーは、GR010ハイブリッドの競争力不足の原因を「トップスピードの不足」にあると明言しました。実際の最高速度データを見てもその差は一目瞭然で、ワークスのフェラーリ499Pは349km/hを記録したのに対し、トヨタ勢は最高でも342.3km/hに留まり、レース全体で平均約4km/hの差をつけられました。確かにこれは致命的と言えます。
レース後、フェラーリワークスの一角である50号車(4番手フィニッシュ)がリヤウイングのたわみに関する検査に合格できず、失格に。彼らが何か不正を働いていたのではという疑惑が持ち上がることになりました。しかし優勝したカスタマーの83号車は合法と判断され、最高速も345.6km/hと、2位に入ったポルシェ6号車と同じ数値でした。
このことから、仮にフェラーリのファクトリーチームが何かをやっていたとしても(51号車は車検合格でしたが)、それは83号車には当てはまらないと言えるかもしれません。
またレース前に発表されたBoP(性能調整)を見る限り、フェラーリが明らかに優遇されていたとは言い難いです。499PとGR010ハイブリッドの双方が昨年の大会よりパワーアップしていますが、250km/h以下での増加量を見ると499Pが7kW、GR010が12kWと後者の方が大きいです。そして重量はフェラーリが1kg軽くなっただけで、トヨタは変更なし。2台の最高速の差も、BoPだけでは説明がつかないのです。
WECにおける今季のBoP方式の変更も、影響を与えたと見られます。2025年のBoPは、過去3戦のデータ、特に各車の最速10ラップの平均に基づくため、昨年の最終戦バーレーンで速さを見せたトヨタは「その代償を今払っている」状態であり、逆に最終戦で控え目な結果に終わったフェラーリはその恩恵を受けている格好と言えます。
フェラーリは2023年に499Pを投入して以来、年々進化しており、今年はとりわけ大きなステップを踏んだように見えます。昨年のル・マン以降、ブレーキング性能の改善を目的としたエアロのアップデートを“エボ・ジョーカー”と呼ばれるトークンを使って投入。同年終盤はフライアウェイのレースが続く中、その最適化には時間が足りませんでしたが、今年になって圧倒的な強さを見せています。
一方ライバルのポルシェも、今回のル・マンで少なくとも1台がトヨタよりも速かったですが、彼らも昨冬にふたつのエボ・ジョーカーを使い、サスペンションとリヤのエアロを中心にアップデート。直線スピードの改善にも注力したと考えられています。
エボ・ジョーカーは2027年末までにFIA承認の下で5つ使うことができますが、トヨタはこれまで使ったエボ・ジョーカーの数を公にしていません。しかし、GR010は2023年以降大きな変更が加えられていないことは明白で、今のマシンは2年前とほぼ同じ仕様と言えます。もしかすると、このマシンから引き出せるポテンシャルはあまり残されていないのかもしれません。
トヨタがジョーカーの使用に慎重なのはよく理解できます。なぜならGR010ハイブリッドは2021年に登場した古参のマシン。後発の他メーカーよりも車両の寿命を長く延ばす必要があるからです。プジョーに至っては、既にジョーカーを使い切ったとも噂されています。
要するに、現時点ではトヨタGR010ハイブリッドはフェラーリ499Pに追い抜かれたと言わざるを得ず、トヨタがバランスを取り戻すためには、少なくともひとつのジョーカー(もし残っていれば)を使って、2026年に向けて何らかのアップデートを投入する必要があります。
これまでのWECシーズンの戦いぶりを見れば、トヨタは遂行力、戦略、ドライバーという点で依然として最高のチームであると言えます。ポルシェとフェラーリが参入して以降初となる6度目のル・マン制覇を成し遂げるために必要なのは、車両自体の進化です。
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