スズキの復帰が大注目された鈴鹿8耐。『脱炭素社会』への貢献がレース活動継続の鍵?|鈴鹿8耐コラム
2024年の鈴鹿8時間耐久ロードレースではTeam SUZUKI CN CHALLENGEの存在も注目を集めた。MotoGPやレース活動を縮小したスズキの新たなチャレンジの何が“サステナブル”なのか、そして今後の活動についても話を聞くことができた。
生形秀之,#0 Team SUZUKI CN CHALLENGE
写真:: Kusudo Aki
2024年の鈴鹿8耐は、Team HRC with Japan Postが総周回数と最多優勝ライダー記録を更新する優勝を飾り、WSBK(スーパーバイク世界選手権)のチャンピオンマシンPanigale V4Rを持ち込んできたDucati Team KAGAYAMAの活躍も大きな注目を集めた。そんなトップチームと同様に多くの人々の関心を惹いたのが、様々なサステナブル素材を投入して挑んだTeam SUZUKI CN CHALLENGE(エティエンヌ・マッソン/濱原颯道/生形秀之)だ。
CNとはカーボンニュートラルの頭文字で、チームはタイヤ、カウル、前後フェンダー、燃料、オイル、ブレーキディスクとパッド、そしてオフィスの電源として用いる蓄電池等々、様々な領域にサステナブル製品を使用している。このチームを率いるプロジェクトリーダーの佐原伸一氏から、これら各素材について公開できる範囲での情報を週末のピットボックスでいろいろと聞いてきたので、それを改めてここで紹介してみたい。
ちなみにTeam SUZUKI CN CHALLENGEは決勝レースを8位で終えた。周回数は優勝チームより4周少ない216周。全8時間でのベストラップタイムは02分08秒463(E・マッソン)。レース中最速タイムの02分07秒282(水野涼:Ducati Team KAGAYAMA)とは1.181秒の差だ。今回のスズキのプロジェクトで投入された各サステナブル製品は、トップチームのレース専用素材や部品と比較しても、高負荷環境下で遜色ない性能を発揮していたことがよくわかる。
では、それらサステナブル素材について解説を進めていこう。
まずはブレーキ関連。フロントブレーキのディスクは一般的に、放熱性確保等の目的で摺動部にいくつもの穴が設けられている。今回のCN CHALLENGEで用いられているSUNSTAR製ディスクは、この穴が貫通ではなくディンプル(くぼみ)状になっている。これにより、制動力を損なうことなくパッドのクリーニング効果とクラック耐久性を両立させている。また、製造過程での熱処理を廃止することにより、CO2排出を50パーセント削減しているという。このディスクとペアで用いるブレーキパッドも、従来製品と同様のコントロール性と作動性を維持しながら15パーセントのローダスト化に成功している。
チームスズキCNチャレンジGSX-R1000R
写真: Suzuki
前後フェンダーとウィング部分には、カーボンファイバーではなく、天然亜麻を使用。カーボン製品同様の方法で製作できるうえ、CO2排出量を85パーセント削減できる。また、フロントカウルやシートカウル、サイドカウルなどの外装全般も、航空機製造企業の使用期限切れ品を使用し、そこから樹脂を解離させてカーボン繊維を抽出。通常と同レベルの品質で製作しているという。
オイルはMotul製で、オーガニック原料をベースオイルにして製品製造から使用までのライフサイクル全体でCO2排出を削減している。Elf製の燃料は40パーセントがバイオ由来で、こちらもライフサイクル全体でのCO2削減を実現しているという。ちなみに、佐原氏によるとこのバイオ燃料は燃費も良好で、26ラップは達成できる、と決勝前に話していた。
「ただし、27ラップは正直なところ少し厳しいので、現状の燃費で優勝争いをできるのかというと、それはまだ難しいのが現状です」
この言葉どおり、日曜の決勝レースでは各スティントを24~26ラップでピットイン/アウトする確実な戦略で戦い、安定した高水準のラップタイムを刻み続けたのは上記の結果が示している。
タイヤも、このCN CHALLENGEのためにワンオフで投入されたものを使用している。その詳細について佐原氏は
「タイヤのことを訊ねられたら『ブリヂストンに聞いてください』といってください、と言われてるんですよ(笑)」
とのことなので、ブリヂストンの担当者に尋ねてみた。
同社広報部村越礼門氏と技術スポークスパーソン川本伸司氏によると、 「性能は従来のレース用スリックタイヤと同様で、カーボンブラックやスチールのビードワイヤーに再生資源を使用したものを提供しています」 とのことだ。ブリヂストンは2026年までに再生資源・再生可能資源の比率を39パーセントとし、2050年には100パーセントのサステナブルマテリアル化達成を目指しているという。
スズキに話を戻すと、サステナブル製品を用いてカーボンニュートラル社会へ貢献できるレース活動は今後も続けていきたい、と佐原氏は言う。
「会社としてMotoGPから撤退したのは、これからのカーボンニュートラル社会を視野に入れたからでもあったわけで、それならばレースの側からこういう形で貢献することは充分に意味があるだろうし、今後も続けていきたいと思っています。たとえば我々の燃料は40パーセントがバイオ由来で、MotoGPでは2027年から100パーセントのサステナブル燃料を使用するということですが、それに先鞭をつける形で我々のほうが先に100パーセントのサステナブル燃料の性能を示すことができれば、それは充分に意義のある活動でしょうから」
日曜の決勝レースでは、鈴木俊宏社長もピットへ選手とチームの激励に訪れた。MotoGP撤退直後は、レースを辞めたことについて言及するのが苦しそうな様子も社内関係者からは感じられたが、このように形を変えて新たなレース活動が始まったことにより、硬かった雰囲気が穏やかに緩みはじめたような印象もある。じっさいに、鈴鹿8耐の週末でピットを出入りする人々は、皆の表情がじつに生き生きとしていた。
もしも数年後に現在を振り返ったとき、レースという極限状態の場を利用することで「地球環境に優しくサステナブルな〈スズ菌〉」を育成する活動がここから始まっていたのであれば、なんとも愉快である。
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