「タイヤへの理解深まれば、チャンピオン争いはできるはず」小椋デビューシーズン総括後半:〈アジアから“世界”へ〉小椋藍とIDEMITSU Honda Team Asiaの挑戦
2021年にMoto2クラスへとステップアップした小椋藍。初年度ながらも表彰台を獲得する活躍を見せた彼の1年間の戦いを、チームを率いる青山博一監督はどうみたのか? ロングインタビューを2本立てでお送りする。今回はその後半。
Ai Ogura, Honda Team Asia
Gold and Goose / Motorsport Images
2021年にMoto2クラスへデビューしたIDEMITSU Honda Team Asiaの小椋藍。初年度は120ポイントを獲得しランキング8位。2位表彰台をオーストリアGPで獲得する活躍も見せた。
チームを率いる青山博一監督は、”小椋に足りないモノ”として序盤のペースを挙げており、バイクの走らせ方やタイヤの扱い方など改善可能な部分を指摘していた。
2022年シーズンに向けて日本のファンからも期待は高まっているが、監督にも2022年シーズンに目指すところなどについて訊いた。
─そのブレーキングについては、シーズン序盤からたしかに小椋選手は課題として挙げていました。レースが進むにつれて、改善してきましたか?
良くなってきています。ただし、『ここだよね』というツボのようなところが改善できていないというか、本人も『やっとわかりました』というところには至っていないんですよ。まだ試行錯誤をしている状態です。
チーム側は、そこをバイク側でどこまでサポート、アジャストできるのか。ライダーは、それを走りでどこまで補えるのか。両方とも試行錯誤しているので、そこが来年に向けての課題ですね。タイヤを上手く使えるようになってくると、すべてがひとつ上にランクアップできるでしょうね。
─タイヤについて、前回の取材で小椋選手が言っていたのは、まだハードタイヤを上手く使えず、ソフトタイヤでコンマ数秒を稼ぐことに頼ってそれを最後まで持たせようとする走りになってしまうので、ハード側をもっと上手く使える走りを身につけることが重要だ、ということでした。
タイムが他の選手より上がらないときに、ソフトタイヤに頼ってしまうときがときどきあるんですよね。でも、当然だと思います。ハードでうまくタイムを出せないけどソフトだとタイムを出せる、ならば決勝もソフトで行こう、と判断するのは当然の結論なんですが、経験豊富なレミー・ガードーナー選手たちはハード側を選択することが多かったんですよ。
ハード側を使いこなせるようになるためには、さっきも話したとおりタイヤの使い方がキーポイントで、そのカギになる要素のひとつがブレーキングだと思うのですが、状況次第でハードを使えるようになれば、選択肢の幅も増えて、さらに一歩先の世界が見えてくると思います。
─そのように多少の試行錯誤がありながらも、小椋選手は初年度としては高いポテンシャルを発揮したと思います。日本人ファンの期待はもちろんとして、パドック関係者からも来シーズンはチャンピオン争いの一角を占めるだろうという声をよく聞きます。監督としての期待はどうですか?
もちろん、監督してはライダーにチャンピオン争いしてもらいたいのは当然です。できるかできないかは、今も話してきた、タイヤを上手く使えるようになるかどうか、ですね。そこを掴めればできると思います。
そこを掴めなくて今年と同様になってしまうと、リザルトは今年より少し上程度でしょうね。2年目なので初年度よりは自然と前に行けるとは思いますが、小椋本人がチャンピオン争いをしたいのであれば、タイヤの使いかた、マシンの止めかた、そして、うまく止めてからタイヤを使ってしっかり前に進めていくこと、そこがわかってくればチャンピオン争いはできるはずです。その能力はあると思います。
でも、そのためには自分の乗っているバイクという道具をしっかり理解している必要があります。最後は感覚的な領域になってくるので、タイヤの使いかたやバイクの止めかたを感覚のレベルで理解できるようになれば、チャンピオン争いも自然とできると思います。
─青山監督自身が、現役時代にチャンピオン争いをしてきた経験がいま、選手を指導していくうえで役にたっていますか?
どうでしょう。それは本人がどう思っているか次第ですね。でも、チャンピオン争いをしているときの精神状態は自分でも経験しているので、そういうところのアドバイスはできると思います。今、Moto2は自分たちが乗っていた時代と違うバイクなので、細かいところよりも気持ちの面でサポートはできると思います。あとはコースサイドで走りを見てあげるとか、そういうことはできますよね。
スポーツってなんでもそうでしょうが、最後はメンタルが勝負を分けるんだろうと思います。気持ちの作りかたやものごとを見る角度が、非常に大事です。若い頃はそのあたりがなかなかわからなかったりするものですが、何年もレースを戦っていくうちにわかってきたことが僕の中にはあるので、それがはたして本人にどこまで響いているかはともかく(笑)、そういったメンタルな部分のアドバイスは他の人ではできないところなんじゃないかな、とは思います。
─他のライダーについても、簡単に総評をお願いします。ソムキアット・チャントラ選手も今シーズンはいいパフォーマンスを見せました。
チャントラは、小椋がMoto2に来るとそれにいい刺激を受けると思っていたので、予想どおりに去年以上のいいパフォーマンスを発揮してくれました。小椋の存在は、彼のパフォーマンスアップに欠かせない大きな要素のひとつでしたね。本人のポテンシャルは非常に高いのですが、彼は超感覚派で、どうして今日は速く走れているのか、どうして今日は速く走れないのかが自分では理解できないタイプです。藍のようにコンスタントに走れるライダーがそばにいるのはチャントラにプラスだと思うし、考えて走るタイプの藍の隣に感覚派・天才肌派のチャントラがいるのは、藍にも刺激になっていいことだと思います。
─Moto2クラスは、来シーズンも小椋藍選手、ソムキアット・チャントラ選手の体制ですが、Moto3クラスは、古里太陽選手、マリオ・アジ選手という新しい顔ぶれに変わりますね。
マリオと太陽君にとって、来年はビッグステップになります。ふたりとも、一年目はけっして簡単じゃないでしょうね。とくに現在のCEV(FIM CEV レプソル選手権)は、ペドロ・アコスタ選手が抜けてMoto3クラスへ来た2021年はそれほどレベルが高くなくなってしまったので、マリオにとって世界選手権Moto3クラスの参戦は大きなステップだし、CEVを走ってない太陽にとってはなおさら大きい挑戦です。
彼らふたりとも、走りたいと夢見ていたステージでしょうが、難しいと思います。でも、その厳しい現実に負けないでほしいですね。ふたりとも非常に若い選手ですが、才能、タレント性はともにすごく高い。我々としてもそれに期待をして、ウチのチームで是非走ってもらいたい、と考えました。だから、非常に期待をしています。とはいっても、開幕戦から優勝してください、という無茶な要求をしているわけではないので、ちゃんとシーズンを通してしっかりステップを踏みながら、成長していってもらいたいと思っています。
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