〈アジアから“世界”へ〉小椋藍とIDEMITSU Honda Team Asiaの挑戦:“雨”学習もスピード足りずの1戦。青山監督は前半戦からの成長を評価

MotoGP第14戦サンマリノGPにおいて、Moto2クラスへ参戦する小椋藍(IDMITSU Honda Team Asia)は7位でフィニッシュ。決勝までに積み重ねた速さが達なかったと小椋は振り返っている。一方、チームを率いる青山博一監督は、小椋の前半戦からの着実な成長を評価している。

Ai Ogura, Honda Team Asia

Ai Ogura, Honda Team Asia

Gold and Goose / Motorsport Images

 第14戦サンマリノGPの舞台ミサノワールドサーキット・マルコ・シモンチェッリは、アドリア海に面したイタリア有数の観光地リミニから内陸方向へ数キロほど行った場所にある。海が近いだけに、天候が変わりだすと予測のつかない早さで崩れていくことも珍しくない。今回のレースウィークがまさにそんな週末になった。 

 事前の気象情報では、どうやら週末を通して雨模様になりそうな不穏な予測が多かった。金曜はその予報が的中。終日、降ったりやんだりという状況で、Moto2クラスの午前午後の走行が雨のタイミングに重なり、両セッションともウェットコンディションになった。 

 

 Moto2クラスルーキーの小椋藍(IDMITSU Honda Team Asia)は、初年度だけに雨の走行経験がまだ充分とはいえない。この日は午前のFP1が全30選手中24番手。午後のFP2は26番手。トップとの差はともに2.6秒程度で、好内容といえるタイムやポジションではなかった。だが、両セッションとも雨の中を徹底的に走りこむことで、今後に向けた経験の蓄積になったようだ。 

「(金曜の)出だしで最初から速く走ることができなくて、思っていたようにはうまく行きませんでした。自分のライディングを少しずつ変えることも、やってみてはいるんですけど、走りで何かプラスアルファの対応をすることは(充分には)できなかったです。(タイムや順位が)すぐにポンと上がるわけじゃないですけれども、まったくどうしようもないというわけでもないので、当たり前ですけど乗っていくうちに少しずつ理解をして、良くなっていくと思います」 

 たしかに、Moto2で初めてウェットセッションを経験した第5戦フランスGP FP1での苦戦や、あるいは第10戦スティリアGPのウォームアップで最下位に沈んだときと比べれば、わずかとはいえ、上昇のきっかけを掴みつつあるようには見える。 

 レースウィーク2日目の土曜日は、終日晴れ。午前のFP3はウィーク初のドライセッションになった。このセッションで12番手につけた小椋は、午後の予選Q2にダイレクト進出。Q2でも12番手タイムで、4列目のグリッドを獲得した。 

 日曜は、事前の予報では雨が降るかドライコンディションを維持するか、半々の確率だったが、幸いにもドライを維持した。4列目12番グリッドからスタートした小椋は、スタート直後の混乱をうまく切り抜けて3つポジションを上げ、9番手で1周目を終えた。 

 以後も、安定したラップタイムを刻みながら周回を重ねてじわじわとポジションを上げ、25周を走り終えて7位でゴールラインを通過した。 

「レースは、良かったと思います」 

 そう振り返るが、決勝に至るまでの積み上げやセッションの組み立て、という面では、まだ課題を残す、とも述べた。レース終盤には、小椋の前で5位争いをしていたアウグスト・フェルナンデスとマルコ・ベッツェッキまで約1秒、と手が届きそうで届かない、歯がゆい差が開いていた。 

「アウグスト選手とベッツェッキ選手は速かったです。最後は、彼らに仕掛ける前にレースが終わってしまったような状態で、決勝レースまでに自分が積み上げてきたスピードやフィーリングが足りませんでした」 

 手応えを感じた面も厳しい面も共にありながら、今の小椋は少しずつ経験を重ねている、ということなのだろう。 

「決勝(の内容)は良かったんですが、今回はレースだけですね。プラクティスは、むしろ(前戦の)アラゴンのほうが良かったと思います。だから、総じてレースウィークがポジティブ、というわけではなかったです」 

 優勝選手から6.236秒差で7位、という今回のリザルトは、日曜午後の決勝レースで健闘した結果とはいえ、常に勝利を目指して走る小椋藍自身にとっては、もちろん満足できるものではないだろう。ただ、チーム監督の青山博一の目から見ると、現在の小椋はシーズン前半戦よりも着実に成長を示しているという。 

「最近では、コースによってはオーストリア2連戦のように最初から速いときもありますし、シーズン前半戦と比べれば、レーススタート直後の序盤1、2周目にポジションを落とすようなことがなくなってきました。スタート時と同じか、あるいはその順位よりも前で1周目を終えて戻ってくることが多くなってきたので、そこは改善を見せていますね」 

 

「上のクラスになればなるほど、選手間のタイム差はなくなるしペースも似てくるから、レースでは抜きづらくなります。だからこそグリッド位置は重要だし、スタート直後のポジションがそのまま結果に影響してくることも多くなります。序盤の位置取りはしっかり意識していこう、と小椋には最初から言ってきたので、そこに関してはしっかりと良くなっていると思います」 

 シーズン後半戦が始まったオーストリアのレッドブルリンク2連戦は、上記の青山監督の言葉にもあるとおり、2番グリッドと3番グリッドと、ともにフロントロウからのスタートになった。しかし、続くイギリスGP、アラゴンGP、そして今回のサンマリノGPは14番グリッド、5番グリッド、12番グリッド、と多少、上下する傾向もまだ見られる。とはいえ、ルーキーであることを考えれば上々だろう、と青山監督はいう。 

「コースと自分の相性もあるでしょうね。小椋にとっては、毎回どのサーキットも、Moto2では初めて走るコースなんですよ。さらに、彼はどちらかというと慎重派なので、FP1からFP2、FP3、そして予選と、いつも少しずつ上げて行くのですが、上げ幅がそんなに大きくないので、結果的に予選で前に行けないことが多くなります」 

「でも逆にいえば、勢いだけで走って行きすぎて転倒するよりも、少しでも多く周回して多くのことを学ぶほうがはるかに重要なので、たくさん走って次に繋げていきましょう、といつも話しています。もちろん、FP1やFP2から速く走れればスタートグリッドがもっと良くなるだろうし、グリッドが良くなれば、小椋のレースペースは決して悪くないので、決勝レースでもさらに1個2個上の順位でゴールできるでしょう。それは皆さんと同じく我々も感じていることだし、なにより小椋本人がいちばん良くわかっていることだと思いますよ」 

「Moto3を走っていた頃から、小椋にはMoto2が合っていると考えていたので、今の彼の走りは、我々が期待していたとおり、といっていいと思います。今後もなるべく多く走って次に繋がるように学び続けほしいですね。学ぶ、とはいっても、毎年が勝負のシーズンなので、学習に徹していればいいわけではもちろんありません。でも、我々がいま一番彼に求めているのは、どのサーキットでもとにかくいっぱい走って勉強し、Moto2の経験を積んで翌年に繋げる、ということです。そうやってたくさんのことを吸収し続けながら、どこかのレースでまた表彰台を狙うチャンスがでてくれば、それはそれで嬉しいことです。今はまず、シーズン残りの4戦で常にシングルフィニッシュを続けていくこと。それが彼にとって、非常に大事だと思います」 

 

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