福島から世界へ……日本製シャシーNTSがMoto2デビュー「福島は元気」
日本の機械加工メーカーNTSが、シャシーコンストラクターとしてMoto2クラスにデビュー。世界に向けた挑戦を開始した。

2018年シーズンのMotoGPが開幕したカタールのロサイル・インターナショナル・サーキットで、日本のあるメーカーが世界選手権フル参戦のデビューを飾った。
そのメーカーとは、Moto2クラスにシャシーコンストラクターとして車体を提供するNTSだ。福島県に本拠を置く精密金属部品機械加工メーカーであるNTSは、オランダのチームRW Racingと協力し、NTS RW Racing GPとしてオリジナルマシンでMoto2クラスへの参戦を開始したのだ。
ホンダ製600ccエンジンとダンロップタイヤのワンメイクで争うMoto2クラスは、複数の車体メーカーがパフォーマンスを競い合っている。この数年はKALEXが最大勢力を誇っている状況で、そこにKTMがファクトリーチームを参入させて追撃を開始。この二大陣営が覇を競うところに、いわばプライベーターチームのような位置づけのNTSが、今年から挑戦を開始した。
NTS RW Racing GPに所属する選手は、南アフリカ出身の25歳、スティーヴン・オデンダールと20歳のアメリカ人ジョー・ロバーツ。NTSからは、代表取締役社長の生田目將弘が、開発プロジェクトリーダーのような格好でチームに関わる。
NTSは全日本選手権を経て、アジアロードレース選手権、FIM CEVレプソル選手権とそれぞれの場で戦い、着実にステップアップを続けながら世界選手権の場へ到達した。「今シーズンの目標はポイント獲得」と生田目は言う。
「世界最高峰の場で15位以内に入るのがどれほど大変かは、よくわかっているつもりです。それでもやはり、ポイントを持ち帰らないとレースをしたことにはならない。だからまずトップ15フィニッシュを目指し、それを達成できれば、次の目標として可能ならばトップ10圏内も狙いたいと思っています」
Moto2クラスのエンジンはワンメイクで競われるが、ホンダがエンジンを提供するのは今年で最後。来年からは、イギリス企業のトライアンフが公式サプライヤーとして新たにエンジン提供を開始する。排気量も、これまでの600ccから765ccに変わる。いわば、Moto2クラスの車体開発競争は2019年シーズンにリセットされて、ふたたび横一線での戦いがスタートするといってもいいだろう。
「そういう意味では、今年から参戦を開始したのはいいタイミングだったと思います」と生田目は話す。「この一年でまず世界の雰囲気を吸収しながら人間関係も作れて、翌年にゼロからのスタート。理想だと思います」
トライアンフエンジン用の車体開発も、レース参戦と平行しながら精力的に行っていく予定だ。
「レースで早く走ることとマシンを開発することは違うので、そこに関してはMotoGPをはじめ様々な世界選手権に参戦してきた経験豊富なベテランライダーも起用し、開発に協力してもらう方向で話を進めています」
来年以降の参戦計画も積極的だ。現在のRW Racing以外にも車体の供給体制を拡充したい、と生田目は考えている。
「そのためにも、今シーズンの成績が評価の対象として重要になってくるでしょう。ライダーたちにとっては初めて乗るマシン、我々NTSにとっては初体験のサーキットばかりですが、その条件で15位や13位に入ることができれば、周囲の見方もきっと変わってくるんじゃないか、我々の伸びしろを高く評価してくれるのではないか、と思います。もちろん、そのような高い成績を簡単に収めることができるほど、生やさしい世界ではないことはわかっていますけれども」
さらにもうひとつ、今回の世界挑戦を機に、世界に対してアピールしたいことが生田目にはある。
「この3月で震災から7年が経ちました。去年ヨーロッパに来て、CEVに参戦して知ったのは、今でも『大丈夫なの?』と言う人たちがいるということです。それが主流派だとは決して思いませんが、中には『このシャシー、触っても大丈夫なの……?』という人もいまだにいます。私たちのレース活動を通じて『福島は元気だよ。皆福島から来てるんだ、全然大丈夫だよ』と実感してもらえれば嬉しいですね。それが、福島発の企業として我々が世界で活動していくひとつの意味なのかな、と思います」
取材・執筆/西村章
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