”草の根”から世界到達。シャーリン、東南アジア初のMotoGPライダーへ

タイのオフシーズンテストにテック3から参加したシャーリン。彼は、草の根レベルから世界の舞台へと到達した最初のMotoGPライダーとなりそうだ。

”草の根”から世界到達。シャーリン、東南アジア初のMotoGPライダーへ

 2輪ロードレースの最高峰MotoGPに、史上初の東南アジア出身選手が誕生しそうだ。マレーシア生まれの23歳、ハフィス・シャーリンは216日から18日の3日間、タイ東北部ブリーラムのチャーン・インターナショナル・サーキットで行われたプレシーズンテストに参加。初めて経験するMotoGPバイクにもかかわらず高い順応性を発揮し、今回のテストに彼を起用したモンスター・ヤマハ テック3の期待を充分に上回る走りを見せた。

 シャーリンが今回のテストに起用されたのは、本来なら今シーズン参戦する予定だった選手の体調がすぐれず年間エントリーを辞退することとなり、そのぽっかり空いたシートを埋める候補として先月末にその名前が急浮上してきた、というのが大まかな背景事情だ。

 シャーリンは、2012年に母国グランプリ・マレーシアGPMoto2クラスにワイルドカード参戦した際、雨の決勝レースで目の覚める走りを披露して3位表彰台を獲得し、一気に注目を集めた。2014年からMoto2フル参戦を開始。昨年の第13戦サンマリノGPでは2位、第15戦日本GPでは3位に入る活躍を見せた。また、昨年の鈴鹿8耐にもTeam KAGAYAMAから参戦しているので、その名前と顔に見覚えのあるレースファンは少なくないだろう。

 生まれて初めてMotoGPに乗ったテスト初日は、トップタイムから2.368秒差の最後尾24番手だったが、二日目にはひとつ順位を上げて23番手、最終日はさらにふたりを上回り21番手とした。3日間の結果は、今回のテストで最速を記録したダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ)から1.756秒差、というタイムで終えた。

 Moto2とは排気量もパワーも大きく異なり、さらに電子制御やミシュランタイヤなど未知の事柄も多いMotoGPのマシン環境へ迅速に順応していることに自分でも驚いているのかどうか、2日目の走行を終えた彼に訊ねてみた。

「上位陣から4秒くらいは遅いだろうと思っていたけど、セッション中は1.7秒落ちで、トップライダーがタイムアップしてからでも2秒差だったので、まずまずだと思う」と、シャーリンは快活な口調で話した。

「何もかもいちから学ぶつもりで、ストレスなくハッピーな気持ちでここにやってきた。『ついにMotoGPマシンに乗るんだぞ』とか『これくらいの走りをできるはずだ』とか、そんなことは何も考えず、気負うこともなく、無名で無経験のいちライダーとして今回のテストに臨んだ。チームの皆が『こうやって走るといい』『こうすればうまく乗れる』と教えてくれる通りに今は走っていて、そのおかげでしっかりと学習が進んでいる」

 3日目に全走行を終えた際には、「この3日間は、バイクを理解してチームとの交流を深めることに費やした。まずまずのタイムだったのは、きっとバイクが良いからなのかな。この3日間のテストはとても良い内容だった」と、さらに落ち着いた様子で朗らかな笑顔を見せた。

 今回のプレシーズンテスト参加は、便宜上はあくまで試用トライアル、ということになっているが、実際には彼が2018年にMoto2クラスから参戦予定だったシートにはすでに後任選手も決定している。

 シャーリンの正式なMotoGPクラス参戦発表は、本稿執筆時点ではまだ行われていないが、早ければ数日内、遅くとも次回のカタールテストの頃にはチームから行われるものと見られている。

 彼の正式なMotoGPクラス参戦が決定すれば、それは冒頭に記したとおり最高峰クラスで史上初の東南アジア選手となるのと同時に、ロードレースの頂点に史上初のアンダーボーン出身選手が誕生することも意味する。

 スーパーカブなどに代表されるアンダーボーンフレーム車は、東南アジア全域で広く普及しており、100cc150ccのこれらのバイクを使用したレースも各地では盛んに行われている。アジア選手権でもアンダーボーンクラスのカテゴリーがあり、シャーリンの出身国マレーシアでは、〈マレーシアン・カブプリックス(現地の人々は「マレーシアン・カップリ」と発音する)〉という国内選手権も競われている。つまり、シャーリンは、草の根レベルからこれらの激戦を勝ち抜き、世界の最高峰クラスへたどり着いた最初の選手、というわけだ。

 この世界で学んできたことについて、シャーリンは「アンダーボーンとグランプリバイクは、Moto2Moto3でも比較にならないくらい全然違う。アンダーボーンからプロトタイプマシンに乗り換えたとき、最初はかなり戸惑ったけど、少しずつ吸収しながらチームが教えてくれることを学んできた」と説明する。

「勉強するのはとても大切で、学習に終わりはない。アマチュアでもプロフェッショナルになっても、学習はずっと続くんだ」

 シャーリンが活躍すれば、現在でも活況を呈している東南アジアでのレース人気はさらに大きく盛り上がるだろうし、それがひいては2輪市場を活性化させる起爆剤にもなるだろう。

取材・執筆/西村章

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