〈アジアから“世界”へ〉小椋藍とIDEMITSU Honda Team Asiaの挑戦:いざ中量級Moto2へ。開幕への仕上がりは?
2021年のロードレース世界選手権Moto2クラスは熱い。なぜなら前年にMoto3クラスで最終戦にまでもつれるタイトル争いを演じた小椋藍がステップアップを果たしているからだ。motorsport.com日本版ではその小椋藍の戦いに密着。今回はカタールで行なわれたプレシーズンテストから、Moto2での戦いに向けた意気込みなどを聞いた。
写真:: Gold and Goose / Motorsport Images
2021年シーズンのMotoGPがいよいよ3月26日からスタートする。中排気量クラスのMoto2には、小椋藍(IDEMITSU Honda Team Asia)が今年からステップアップを果たした。昨年のMoto3クラスで最終戦まで続く熾烈なチャンピオン争いを繰り広げた小椋のMoto2参戦は、日本のファンにとって今季の大きな注目のひとつと言っていいだろう。
目前に迫った開幕戦に先だち、カタールのロサイルインターナショナルサーキットではMoto2/Moto3クラスの事前テストが3月19日から21日まで行われた。3日間のメニューを終え、総合12番手でテストを締めくくった小椋に、レースへ向けた仕上がりや中排気量クラス初シーズンを戦ってゆく意気込みなどについて訊ねた。
─さきほど3日目の走行を終えたばかりですが、テスト終了段階での現在の感触を、まずは教えてください。
「3日目の最後のプラクティスでは、レース周回のロングランとタイムアタックを行いました。目標にしていたタイムに近いところで走れたのはよかったし、カタールに来る前のポルティマオでテストしたときに転倒した影響で、少し前まで体の調子があまり良くなかったんですが、いまは回復して普通に乗れるようになってきたので、目標にしていたことや、やりたかったことはしっかりと消化できましたね」
─小椋選手自身の印象としては、どの程度の仕上がり具合ですか?
「ベストタイムだけを見ると(トップと)それほど差がないようにも見えるんですが、走行内容はまだ上位と差があるように思います。そこは、これからどんどん走って経験を積んでいくしかないですね」
─今回のテストでは、タイムだけで見ると総合12番手でした。どれくらい満足をしていますか。
「テストなので、そこはわかんないんですよね。他の選手たちがどれくらい本気なのか、外からではわからないし、自分としては、同じタイヤでただただ攻め続けた3日間でした。皆はいろいろなことを試していたのかもしれないし、テストの順位だけでは、あまりよくわからないですね」
─総合順位は、あまり気にしていない?
「順位よりも、『これくらいのタイムが出ればいいなあ』と思っていたところに近づけたので、そういう意味ではいいテストになったと思います」
─Moto2のバイクは、走らせ方や体の使い方などがMoto3とはかなり違いますか?
「このバイクだから特別にどう、ということはないんですけど、どこまで(ブレーキを)握れるのか、どこまで(バイクを)寝かせるのか、どこから(スロットルを)開けていけばいいのか、そういったひとつひとつのことに関する限界の理解(が大切)ですね。バイクが違うからというよりも、Moto3で経験して学んできたことをMoto2でももっとやっていかなきゃな、と思っています。もちろん、Moto2に合ったバイクの走らせ方や体の使い方があるんだと思いますが、人によって乗り方は違うので、自分のなかでそれを見つけていきたいですね」
─Moto3はいつも大人数の大混戦で、そこでの位置取りやレース周回全体の組み立てが戦略として重要だったと思います。Moto2の場合は、Moto3とは違う戦い方も必要になってくると思うのですが、このプレシーズン期間中にMoto2のレース研究等はしたのですか?
「Moto3のレースでは、多少ミスをしても意外となんとかなる部分もあったんですが、Moto2の場合は、同じラップタイムでミスせず何周も走らなくてはいけません。だから、いかに自分の限界に近いところで安定してタイムを刻めるようになるか、ということがMoto2では大切なのだと思います。その部分は、まだまだ未完成ですね」
─シーズン全体として見据えているターゲットなどはありますか?
「うーん……、とくにないですね。きっと、シーズン中にどんどん理解していくことがあると思うので、今の段階で(目標を)言うのは難しいです」
─では、ルーキーシーズンの開幕戦と第2戦の2連戦では、何を目標として戦いますか?
「走りきらなければわからないことがたくさんあるので、目標は、『自分の限界を出しきったうえでの完走』ということになると思います。その結果として、ポイント圏内の15位がついてくればいいかな、と考えています」
さらに今回は、青山博一監督にも話を訊いた。テストを終えた小椋藍の総評と、他3名のライダー(Moto2:ソムキアット・チャントラ、Moto3:アンディ・ファリド・イズディハール・國井勇輝) についても2021年シーズンに向けた期待を伺った。
─プレシーズンテストの全日程を終了し、小椋選手の仕上がり具合はどんな様子でしょうか。
「我々はポルティマオで2日間、ヘレスで2日間、カタールで3日間、と計7日間のテストを実施しました。藍は最初のポルティマオでビッグクラッシュをして、あまりちゃんと走れませんでした。次のヘレスサーキットでも万全の体調ではなく、このふたつのテストはあまりいい内容にはなりませんでした。ルーキーにとって一番大事なのは、たくさん走りこんでバイクの感覚やタイヤの限界点を掴むことですが、それを充分にできなかったんですね」
「カタールの公式テストでは、エンジンのマイレージ管理の関係上、3日間での走行は110周という制限があったのですが、この3日間を通じて少しずつ進歩をしていきました。最初に出鼻をくじかれたことを考えれば、けっして悪くはなかったと思います。他のMoto2ルーキーたちに比べると、藍はいちばん走れていなかったのですが、その状況でもアルベルト・アレナス選手やラウル・フェルナンデス選手と同じくらいのタイムを記録できました」
「ただ、多くの時間を乗れていない分、走りの内容面では、まだ気をつけながら慎重に走っている様子で、まだ乗りこなすというレベルには達していない。順応度からいえば、6~7割といったところでしょうか」
─タイムシートを見る限りでは、レースシミュレーションもタイムアタックもまずまずの内容に見えましたが、やはり今の監督の言葉にあるように、まだまとめきれてはいないのですか?
「詰めなければいけないところは、まだまだあります。紙の上で見る限りでは、けっして悪くはないんですが、コースサイドで藍の走りをチェックして、ピットボックスでのメカニックたちとのやりとりを見ていると、〈今の自分には何が足りていないのか〉ということを把握するレベルまでは、まだいっていませんね。つまり、まだそこまで本人が攻めきれていない。今は、とりあえずなんとか乗れます、という段階ですね」
─今週末(3/28)は開幕戦、そして翌週(4/4)が2戦目ですが、小椋選手にどんな走りを期待しますか。
「小椋はMoto2のルーキーですが、1年目だから勉強の年だよ、などとは我々はまったく考えていません。1年目といえども勝負の世界なのだから、良い結果を目指してほしいと思います。とはいえ、このクラスにはMoto3で速かった人たちが集まっているので、より難しく、容易なクラスではありません。さらに、とくにシーズン最初の3戦はカタール、カタール、ポルティマオ、と少し特殊なコースが続くので、この3戦のみに限っては、勉強、という位置づけで走ってほしいと思っています。
「とにかく、たくさん走ることです。一番の練習はレースで、選手にはそれが一番の経験になります。この1戦目から3戦目までは経験を積んでほしいグランプリで、その後のヘレス(第4戦スペインGP)以降になると、本格的な世界グランプリがスタートします。その頃になれば、藍自身もバイクとの調和がとれてくるでしょう。そのためにも、今はまずベース作りをしてほしい」
「プレシーズンテストでも、できるかぎりたくさん走ってもらうようにしましたが、やはりテストとレースは別モノで、レースでは精神的にも肉体的にもより追い込まれて、限界で走ることになります。そうなったときのバイクの動きの違いを体で理解して経験してもらうことが、まずは最初のステージです。だから、レースの1周目で転倒するようなことなく、最後までしっかりと走りきることが今の藍には必要だと思っています」
─チャントラ選手、イズディハール選手、國井選手についても、それぞれ短評をお願いします。
「チャントラは今年がMoto2で3年目。小椋とはATC(アジア・タレント・カップ)時代から一緒にライバルとして走ってきたので、小椋のステップアップは良い意味で刺激になっています。彼の姿勢も今まで以上に積極的になっているので、小椋と切磋琢磨しあいながらレベルアップしていってほしいですね。詰めるべきところはまだたくさんありますが、ポテンシャルのあるライダーなので楽しみです」
「Moto3のアンディは、去年までMoto2に乗っていました。彼の適性に合ったカテゴリーのスイッチをできたと思っています。最初の2~3戦は、小椋と同様にカテゴリーへの順応に時間がかかると思いますが、テストでも着実に学習して前進しています。Moto3ではチャンピオンシップポイントを獲ったインドネシア人選手はまだいないと思うので、アンディは同国人で誰も成し遂げていないことを達成してほしいと思っています。彼は、それだけの実力の持ち主です」
「勇輝はMoto3クラス2年目です。去年は思ったような走りをできなかったので、今年こそは彼本来の走りをしてほしい、という気持ちで見ています。バイクに乗る技量はすごく高いのですが、それを安定して発揮できるようになれば、ライダーとしてさらにステップアップできるでしょう。彼のメンタル面の調整を我々が効果的に支えてゆく方法も、探ってゆきます」
「4名とも個性はいろいろですが、彼らはいずれもタレントカップで活躍していた選手たちなので、バイクに乗る技術や能力はすごく高く、今後のさらなる成長をとても楽しみにしています。4人それぞれ、ある意味ではいいライバルだと思うので、シーズンを通じてお互いに切磋琢磨して刺戟しあいながら、いい方向へ進んでほしいですね」
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