中上貴晶、期待抱いた2021年は自己評価「20点」苦戦原因”メンタル”の弱さ見つめ直すオフに?|シーズン振り返りインタビュー

MotoGPの2021年シーズンをランキング15位で終えたLCR Honda IDEMITSUの中上貴晶。期待も高まっていた2021年シーズンは苦しい展開となってしまったと言えるだろう。18戦の戦いを終えた中上に、ロングインタビューでシーズンを振り返ってもらった。

中上貴晶、期待抱いた2021年は自己評価「20点」苦戦原因”メンタル”の弱さ見つめ直すオフに?|シーズン振り返りインタビュー
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 2021年シーズン、MotoGPクラスに参戦する唯一の日本人選手・中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)は年間ランキング15位でシーズンを終えた。ポールポジションを獲得して表彰台に何度も迫った2020年と比較すれば、自他ともに認める厳しいシーズンとなったことは疑いようがない。

 難しいレースが続いた2021年を振り返り、現在の苦境を打破して新たな飛躍を目指すための展望について赤裸々かつ正直に語る中上と、腰を据えてじっくりと一問一答を交わした。 


 ―今年は正直なところ、かなり苦労したシーズンだったのではないかと思います。中上選手自身では、この2021年シーズンをどう捉えていますか。 

 誰が見てもわかるとおり、苦労したシーズン、という一言に尽きますね。特に厳しかったのはシーズン序盤、カタール2連戦から転倒とポイント圏外(17位)で、最初の出だしからまさかのノーポイントで開幕2戦を終えることになってしまい、そこから危機感を感じていました。開幕前にもお話しした通り、昨年の流れからして、今年はさらに上を目指していました。そうなると、自動的にチャンピオン争い付近を走る格好になると思っていたのに、それが最初の2戦でポイントを獲れないくらい苦戦して、転倒も何度もしたし、歯車が噛み合ってない感じがありました。

 ホンダライダー全員が言っていたように、今年はリヤのグリップが不足していたために、それがブレーキングにも影響してなかなかいいバランスをみつけられず、苦戦したシーズンでした。ざっくりといえば、自分はシーズンを通してそれを完全に解決できず、そこが一番の敗因になりました。いいサーキットもあったのですが、長い目で見ればシーズン序盤から抱えていたリヤのグリップ不足は解決しませんでしたね。

 予選グリッドが低い位置からのスタートでも、昨年のように追い上げていく強さも発揮できなかったので、どうしても呑み込まれてしまう展開になりがちでした。たくさんレースをしてきたなかで、ヘレス(第4戦スペインGP)とオーストリア1(第10戦スティリアGP)の4位と5位だけは、自分もチームもいいレースをできたかなという程度で、それ以外はなにもかも思うようにいかず運にも見放され、まったくといっていいほど結果を残すことができなかったので、去年のようにいいレースをできた、とはとてもいえない苦戦続きのシーズンでした。

―危機感、という言葉がありましたが、なかなか歯車が噛み合わないなかで、なにか焦りのようなものは感じていたのですか?

 今シーズンはずっとありましたね。結果を出さなきゃいけない、ということが一番で、それは開幕戦からずっと感じていました。

―焦れば焦るほど空回りしてしまう悪循環、のような?

 

 昨年は初めてポールポジションを獲ったり、表彰台を争う位置で走れたりして、それまで見ることのできなかった景色を見られるようになったことが大きな発見でした。自分の気持ちが強すぎてミスも連発しましたが、今年は昨年のように気持ちだけが先走ることはありませんでした。初歩的なミスもなく、その意味では昨年の経験が生きていると思うんですが、オースティン(第15戦アメリカズGP)のように、せっかくいいレースができそうな状況のときに転倒してしまったのは本当に残念です。けっして気持ちが先走っていたわけではなく、『なんで転んだんだろう……』と自分でも思ってしまうような転倒でした。端から見るとミスをしたように見えるかもしれないんですが、気持ちの面でもそういったことはなかったので、『どうしてこんなにうまくいかないんだろうな……』、ということが多いシーズンでした。

 昨年は転倒しても自分のミスが原因だとわかったのですが、今年の場合は、もうちょっとうまくいくはずのときでもうまくいかない。落ち着いて走れていた反面、走りたいところを走れていない、もっと速く走りたいのに速く走れない、というもどかしさがあって、とくに後半戦になると、転倒で終えたときに『はい、じゃあ次のレース』と気持ちを早く切り替えることがなかなかできず落ち込むことも多かったし、『なんでだろう……』と考え込んでしまうことが多かったですね。

―シーズン後半にインディペンデントチームのプレスカンファレンスがあった際、マネージャーのルーチョ・チェッキネロ氏が『タカはメンタルな強さをもう少し身につけたほうがいいかもしれない』、と言っていました。

 ルーチョさんの記者会見は、中継を見ていなかったのですが、記事は読みました。正直なところ、『たしかにそうだよな』と感じるところはありましたね。今まで僕はメンタルトレーナーについてもらったこともないし、必要性もとくに感じていませんでした。そういう部分は自分で変えていこうとずっと思っていて、メンタルにフォーカスして特別なことをしてきたわけではありませんでした。でも、昨年と今年のうまくいかない現状を見ると、来季に向けてやることは、肉体を作り直すということでもないし、フィジカル的な要素が足りない、というわけでもない。

 長いシーズンではいいことばかりが続くわけではもちろんなくて、浮き沈みは当然のようにあるので、いま考えているのは、来年のセパンテストまでの間に、メンタルトレーナー等を含む、今までとはなにか違うアプローチをしなければいけない、ということです。フィジカル面のトレーニングメニューには問題ないので、あとはメンタルの部分をもっと変えていきたいとは思っています。

―それは日本のメンタルトレーナーの人に相談する、ということですか。

 いや、こっち(欧州)で考えています。ただ、自分としても初めての試みで、最初に話をした人が自分にピタッと合うかどうかわからないのですが、まずは第一段階としてメンタルコーチをしている人にアポを取って、会って話をしてみよう、と考えています。

 ニュアンス面でホントに細かいところをどう伝えてどう理解してもらうか、向こうの言うことを自分がどう理解するか、という言葉の壁もひょっとしたらあるかもしれないのですが、まずはこれが最初の一歩です。変わらなければいけないタイミングが来たと思うので、やってみる価値はあると思うし、いまはそのトライをするのが楽しみですね。

―チェッキネロ氏に紹介をしてもらうのですか? 

 ルーチョさんとも話をしました。そのうえで、自分のフィジカルトレーナーが、メンタルコーチの知り合いがいるというので、その人に紹介してもらってまずは会ってみる、ということで考えています。

―今年のマシンについても、教えてください。現状のパッケージはファクトリーと少し違う仕様になっていると思います。中上選手が自分で選択し、その方向にまとまっていったのか、あるいは欲しいパーツがなかなか回って来ない状況が続いていたのでしょうか。

 

 シーズンのスタートは、ファクトリーと同じ状態でした。レースが進むにつれて、ホンダ勢が総じて苦戦する状況が続くなかでニューパーツがどんどん投入され、シーズン中盤まではそんなに差はなかったんですが、中盤から後半になると差が出てきて、自分はほとんどアップデートがない状態ですね。細かなものはいろいろと入れてもらっているんですが、大モノパーツのシャシー等は、ある程度ファクトリー2台に絞られているのが現状です。

―シャシーの使用状況などを見ていると、レプソル・ホンダ・チーム自体も試行錯誤が続いているようにも見えます。

 そうなんですよね。ファクトリーのなかでも、ふたりが違うモノを使っているレースもあったし、僕もその状況は理解をしているので、まずは自分たちが持っているパッケージでベストを尽くそう、といつも考えています。

―リヤのグリップ不足は、シーズンが進むに従ってだいぶ良くなって来ましたか?

 そうですね。路面のミュー(摩擦の度合いによるグリップ感)によって差はあるのですが、全体的には少しずつよくなってはいます 。

―とはいえ、まだ納得のいくレベルではない?

 これでOK、というところまでは来ていないですね。 

―9月のミザノテスト以降は、バイクの車高を上げてスイングアーム長も長くする方向に振ってきたのですよね。

 そうです。ミザノテスト以降は、オースティン、ミザノ2、ポルティマオ、と大きなバイクにする新しい試みで進んできました。この方向は、レプソル・ホンダ・チームのふたりとテストライダーのステファン・ブラドルさんが試していい感触だったので、じゃあ自分たちもそれを採り入れよう、ということでその方向に進みました。

―大きくなるということは、安定方向に振ったということですか。 

そうですね。かなり大きなバイクになって、乗り味的に安定方向でいいフィーリングになっています。 

11月のヘレステスト

11月のヘレステスト

―厳しいレースが続いた2021年シーズンに点数をつけるとすると、何点くらいでしょう?

 難しいですね(苦笑)。……20点くらいかな。昨年の勢いからして『今年は来るぞ』と自分もチームも思っていたところが、ずっこけてしまいましたから。苦戦が続くなかでも悪いなりにももう少し成績を残さなければならない場面もたくさんあったので、点数となると、自己評価はめちゃめちゃ低いですね。悪いなりにがんばれてシングルフィニッシュなどをできていれば、自分でもそれなりに評価できますが、2021年はまるでチャンスを活かせなかった。それが、点数の低さの理由です。

―来年の2022年は、契約の節目になるシーズンなので正念場ですね。 

 そうなんですよ。だから、さっき言ったように、メンタルの部分でも新しいことをやるタイミングなのだと思います。このままだと、また同じような成績になってしまうでしょうから。もう、経験を積むというようなレベルではないので、必要なものをしっかりと取り入れることができれば、結果はおのずとついてくると思います。スピードに関しては、悪いなりにフリー走行などでは速さを出せているので、けっしていつも低いところをずっと走っているわけでもないんですよ。なのに、決勝ではなぜ結果を出せないのか。そこがいちばんの改善しなければいけない点です。

 『じゃあ、何が違うの?』というと、予選と決勝では緊張感やプレッシャー、要するにアドレナリンの部分がだいぶ違うと思うんですよ。そこで大事になるのがメンタル部分の改善で、ここに取り組むことで来年は速さと強さを両方持ち合わせたライダーになれるようにしたいと思っています。盛り返さなければならない大事なシーズンだから、なにより自分自身を信じて飛躍できるシーズンにしなければならない。だから、できる準備はすべて行って2022年に備える予定です。

―来年は30歳ですね。節目として意識しますか? あるいはただの数字、通過点でしょうか。

 自分自身でもヘンなかんじ、というかビックリです。あまり前向きではない気持ちはありますね(笑)。もう30歳なのか、という驚きの方が強いです。『まだ30歳だし……』というんじゃなくて『ヤバい。もう、30歳だ!』みたいな気持ちの方が強いです。

 僕はバレンティーノのように40歳を過ぎても現役でいることはあまり考えていなくて、レースを始めたときには35歳まではやりたい、という勝手な線引きをしていました。それはいまも自分のなかにあって、35歳までは続けたいし、続けられれば幸せだとも思います。フィジカル面でどこまで衰えるのかわかりませんが、できるところまではやりたい。でも、続けていくためには成績が必要で、そうなると、もう5年しかないのかと思うと、『あと5年できるかなあ……、できればやりたいな』という気持ちになってきました。焦りなのかなあ。よくわからないけど、何かそんな気持ちはありますね。ホント、35歳はすぐそこだなという感じです(笑)。

―それは世界選手権で戦うのが35歳まで、ということですか?

 そこまで深くは考えていないんですが、MotoGP35歳までは乗っていたい。たとえば、クラスやカテゴリーを変えて走りたいかどうかということは、まだいまの自分にはちょっとわかりません。でも、いまのところはずるずるとやるつもりもなくて、MotoGPではムリだな、となったら、スパッとやめる、という方向ですね。

ーだとすると、これからの5年間は非常に内容の濃いものにしなければなりませんね。

 そうなんですよ。だから、来年は現在の契約が満了するということもあるし、新たな契約を獲得するためには、できることはすべてやって準備をしていきたいと思います。

―いまも少し話題が出ましたが、バレンティーノ・ロッシ選手が最終戦バレンシアGPで現役活動に終止符を打ちました。彼に対して、中上選手はどんな印象を持っていましたか。

 皆がいうことですが、9回も世界チャンピオンを獲って、あれだけたくさん優勝してあれだけ世界じゅうの人を惹きつける彼の魅力は、誰が見ても輝いているし、本当にレジェンドです。この数年、MotoGPでバレンティーノと一緒に走れたのはとても貴重な経験だったし、彼の引退レースを一緒に走ることができたのは世界でもごくひと握りのライダーたちしかいないので、そのタイミングが合ったことはとてもうれしいですね。

 レースに対するあれだけの情熱は、本当に純粋なバイク好きじゃないと、とてもこれだけの長い間現役を続けられないと思います。最後はちょっと苦戦をしていましたが、でも、カッコいいですよ。あの年齢まで行けるのはバレンティーノだけだと思うし、彼と一緒に走ることができたのは本当に光栄でうれしいです。すごいライダーですね。


 
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