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「ロッシは天才ではなく努力の人」浜島裕英が語る

07〜11年にMotoGPタイヤの開発を担当していた浜島現セルモ総監督。共に仕事をしたロッシは、「シューマッハーと星野一義に似ていた」と語る。

Valentino Rossi, Yamaha Factory Racing

Valentino Rossi, Yamaha Factory Racing

Yamaha MotoGP

 今季のMotoGPでここまで2勝を挙げ、ランキング3位につけるバレンティーノ・ロッシ。そのパーソナリティもさることながら、現役最年長にもかかわらず衰えを見せないその速さに、多くの人が魅了されている。

ピットで予選の戦況を見守る浜島総監督(P.MU / CERUMO · INGING)
ピットで戦況を見守る浜島総監督 

MotoGPのタイヤとは?

 そのバレンティーノ・ロッシの魅力について、浜島裕英に語ってもらった。浜島は現在セルモでスーパーGT及びスーパーフォーミュラチームの総監督を務める身である。ブリヂストンに在籍時は、F1タイヤの開発責任者の責を担っていたが、2007〜2011年にかけては、MotoGP用タイヤの開発も取り仕切っていた人物である。

 その当時、浜島はロッシをどう見ていたのか? それを語る上で重要なのは、”MotoGPのタイヤとは、いかなるものなのか?”ということである。浜島は解説する。 

Valentino Rossi, Yamaha Factory Racing

  「基本的には、F1のタイヤもMotoGPのタイヤも一緒です。しかし、使い方が決定的に違う」

 F1タイヤは、トレッドと言われる接地面が、全体的に路面に接している。しかしMotoGPは、バイクを傾ける角度によって接地するトレッド面が変わるのだ。

「直線ではタイヤのセンター部分を使います。この時、転がり抵抗を下げてあげることで、直線スピードを伸ばせます。しかし、コーナリング時にはバイクを傾け、これに伴ってタイヤも傾きますから、タイヤの横(ショルダー)を使うことになります。コーナリング中ということは、当然横Gがかかりますから、グリップを高くしたい。これらの要求を満たすために、センター部分とショルダー部分のコンパウンド(ゴム)を変えるんです」

Michelin MotoGP tire test

「多い時では、右のショルダーに3種類、センター1種類、左のショルダー3種類、合計7種類のコンパウンドを、1本のタイヤに組み込んでいました」

 つまり、コーナーによってマシンを傾ける角度が異なる。その時々で最適なコンパウンドを使えるようにしておけば、必然的にラップタイムの向上につながるのだ。

 これを上手く使うのが、バレンティーノ・ロッシであると浜島は言う。

「トップのライダーは誰でもできるのでしょうが、バレンティーノは特に上手かった印象があります。彼は、マシンを傾ける角度を自分で巧みに変えて、タイヤを使う部分をコントロールしていました。同じところばかり使ってしまうと、その部分だけが劣化してしまいますが、彼はタイヤを労わるために、マシンの角度を1/10度単位で調整していたんです」

Valentino Rossi, Yamaha Factory Racing

 ロッシは決して”天才”ではない

 こう聞くと、ロッシ=天才というイメージが湧いてくる。しかし浜島は、ロッシは決して天才ではないと語る。

「ケーシー・ストーナーは天才でした。彼は、どんな状況でもある程度乗りこなしてしまう。タイヤについても『硬いのでいいよ』と言うくらいで。それでも、トップクラスのタイムを出してしまう。ロッシは全然違うタイプです。彼は、努力家なんだと思います」

 そう語る浜島。浜島はロッシを語る上で、ふたりのレーシングドライバーの名を挙げた。ミハエル・シューマッハーと、星野一義である。

Hirohide Hamashima and Michael Schumacher

 「ロッシのことを最初に聞いた時、『マイケル(シューマッハー)に似てるなぁ』と思ったのを覚えています。ロッシは勝つためには、いろんなモノをかなぐり捨ててでも、自分の欲しいものはゲットする。そういう人物なんです。それはシューマッハーも同じですから」

 「実際に仕事をし始めてからも、それは感じました。とにかくすごいのは表現力。走った周回を、こと細かに解説してくれるんです。全てのコーナーに対して、入り口、エイペックス、出口と分けて。それはあのふたりは一緒ですね。ロッシは、そこにマシンを倒した角度まで付け加えて解説してくれました」

「しかも、ミーティングが長いというのも同じ。あーでもない、こーでもないと延々と自分が納得できるまで話し、そしてタイヤメーカーに対しての細かい要求をしてくる。私は直接彼を担当していたわけではありませんが、当時の部下は、大変だったんじゃないかと思います」

 一方、”人から盗む”という点が、星野と似たところだと言う浜島。 

星野一義
星野一義(F3000時代/1992年)

 

 「ロッシは、人の乗り方をすごく研究します。彼は、コース上で速い人の後ろについて、コーナリングのラインだとか、シフトチェンジのタイミング、アクセルの開け方などを盗むらしいです。それを研究して、自分の走り方として採り入れて、速く走る。これは星野一義さんがやっていたことです」

「星野さんは、例えばシューマッハーやエディ・アーバインが日本のF3000に来た時代、彼らの走りをコースサイドまで見に行き、シフトのタイミングなどをつかんでくる。そして、『同じこと俺もやってみたけど、ちょっとできないなぁ。ああいう奴ら(シューマッハーやアーバイン)が来ると、困るんだよね』と言う。でも星野さんは常にそうやって人の走りを観察し、自分の走りに採り入れることができる。だから速かったんだと思います」

 バレンティーノ・ロッシ=ミハエル・シューマッハー+星野一義とは、なんとも豪華な公式が出来上がった。これを聞くと、ロッシが速い理由が、なんとなく分かろうというものだ。

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