酒もタバコもやってられない? “ガチアスリート化”するMotoGPライダー、スプリント開始の2023年に戦々恐々でフィジカル準備中
新たにスプリントレースが開始されるなど、2023年のMotoGPは大きな変化が控えている。MotoGPクラスのライダーにとってはレースが倍増することになるが、フィジカル面の準備をまさに“アスリート”というレベルに変えて来ている。
MotoGPは今年8月、2023年シーズンから最高峰のMotoGPクラスにおいてスプリントレースを全戦で実施すると発表。これにより、来シーズンは史上最多となる全21戦のグランプリを42レースで争うことになった。
ただでさえレース数が拡大傾向にあるMotoGP。そこにハーフ距離とはいえ全戦でスプリントレースを実施するという決定には、ライダー側から異議の声も聞こえてくる。実際、来年のライダーが走るレース距離で見ると、約1285kmもの距離が追加されることになるのだから、たとえFP4が削減されるとはいえ、彼らのそうした懸念も無理はない。
「土曜日へのレース導入は、なによりもライダーの回復に影響があるだろう」
そう語るのはポル・エスパルガロのトレーナーを務めるマルク・ロヴィラだ。
「違いを生んでくるであろう点は、土曜日から日曜日にかけての回復力だ。スプリントは周回数こそ少ないが、筋肉への負荷は非常に高いし、神経もまた重要な役割を果たしてくる」
「その対処として、私達もトレーニングの強度を増やすつもりだ。だが回復のための時間は減らす。そうすることで疲労を増すんだ。ここで意図しているのは筋肉への教育で、回復を早めることだ」
「ここでは短期と長期、そのインターバルトレーニングが重要な役割を果たすことになってくる。グランプリが近づくにつれ、時間は減らして行くが、強度は維持する。そうしてオーバートレーニングの可能性は回避するんだ」
「そしてリラックスするのが難しいと感じるライダーも多い。そこでは睡眠前にストレスをできるかぎり軽減することも重要になってくる。瞑想や呼吸法といった、ライダーが馴染みのある方法を使っていくことになる」
近年MotoGPライダー達はハイパワーなバイクを操るためにそのトレーニングレベルを上げてきた。そこへスプリントレース導入によりさらにフィジカル面の要求が高まっていることについては、やはり厳しいものがあるようだ。
アプリリアのアレイシ・エスパルガロはスプリントレース導入が決まった際にも不満を顕にしていたが、彼はレースへの準備について次のように語っている。
「この(レースフォーマットの)変更は、その点では残忍なモノだったね」
「今は実際のところライダー全員がアスリートになっている。バイクはどんどん肉体的な負荷が増しているんだ」
「300馬力を出力するバイクがあり、僕らはそれをフルに使っていくけどこの両腕は以前と同じものだ。何年か前には200馬力や225馬力を超えることはできていなかったんだけどね。最大馬力が増えてきてから、フィジカルの水準を非常に高くすることは必要不可欠になった」
「スリムかつ最後の1周まで強くフレッシュな状態で走れるようにすることだけが重要なんじゃない。心拍数を低く保ち、クリアな頭であることや、精神的にもより多くのトレーニングをし、より良い準備をすることで、もっと速くなるんだ」
そしエスパルガロのチームメイトであるマーベリック・ビニャーレスもフィジカルコンディションを重視している。MotoGPで要求される体と、そのケアや怪我の回避も重要な要素だ。
ビニャーレスは一連の変化への対応として、パーソナルトレーナーを雇うことも検討していると語った。
「僕はいつもクリニカ・モバイルのフィジオとやってきたんだけど、来年はパーソナルトレーナーを雇うことも考慮している。こんなにたくさんのレースがあり、新フォーマットがどうなってくるかよく分からないからね。誰かと長期的に取り組むのも良いかもしれない」
またVR46のマルコ・ベッツェッキもオフシーズンは休みなくトレーニングに費やすことになるだろうと語っている。
「この冬はうまく身体を準備していくことがとても大事になってくるだろう。新しくなるスプリントレース有りのフォーマットで何がどうなるかは、誰にも分からないんだ」と、ベッツェッキは言う。
「あまり多くの休暇をとるつもりはない。フィジカルを一歩前進させなくちゃならないからね」
こうしてスプリントレースへの準備を進めているMotoGPライダー達。彼ら以上に大変だと思われるのが、Moto2クラスからステップアップしてくるルーキーだ。
アウグスト・フェルナンデス
2023年のルーキーは今年のMoto2王者であるアウグスト・フェルナンデス(GASGAS)の1名のみ。彼は来年2月のセパンテストに向けてできる限りの体作りをしていくという。
「MotoGPはとてもフィジカルへの要求が大きい。でも、それは(マシン)パワーのためというよりも、身体を使ってよりたくさんの操作をすることが可能になるからだよ。コーナリングでも身体を右から左へと動かす必要があるし、地面に投げ出すくらいのこともしなくちゃならない。バイクに乗った状態で、たくさん動き回ることが必要なんだ」
ポストシーズンテストでMotoGPマシンのライディングを経験したフェルナンデスは、そう語った。
「できる限り良い準備をしたいと思う。食事の面でももう少し量を増やすつもりだ。MotoGPはたくさんのエネルギーを使うからね」
「Moto2クラスではちょっと体重を減らして、必要なエネルギーを確保できる限界を探っていたんだ」
「他のバイクでのトレーニングの中でも、僕はモトクロスをたくさんやっていくつもりだ。これがより強くさせてくれるんだ。とても厳しいだろうセパンテストでも役に立ってくれるだろう」
なおフェルナンデスはオフシーズンにオーストリアのレッドブル・アスリートパフォーマンスセンターを訪れ、専門の栄養士や理学療法士、心理学者やトレーナーから、どういった習慣を取り入れるべきかなどを学ぶ予定だという。
過去最多のレースが待ち受ける2023年のMotoGP。ライダーだけではなくメカニックなどチームスタッフにとって高い壁が待ち構えているが、それぞれのレースがファンにとって魅力的なモノになることを期待して待ちたい。
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