MotoGPコラム:変わるロッシ、変わらない“情熱”。常夏のセパンで見える驚異の熱意
MotoGPのプレシーズンテストが、2月7日から3日間にわたって行なわれた。現役を続行するか、引退するかの選択の岐路に立っているバレンティーノ・ロッシだが、彼のバイクレースへの情熱は、ヤマハに加入した2004年から16年が経った今も変わっていない。
開幕前のプレシーズンテストでセパンサーキットへ来るたびに、2004年のことを思い出す。
この当時は、カタルーニャとヘレスでそれぞれ3日間ずつ開幕直前の公式IRTAテストが行われており、セパンはあくまでもプライベートテストという位置づけだった。2004年はバレンティーノ・ロッシがホンダからヤマハへ移籍をしたシーズンで、2003年末までホンダとの契約が残存していたために、ロッシは前年の最終戦バレンシアGP終了後も年内はヤマハのバイクでテストをすることを禁じられ、このセパンテストで初めてヤマハのマシンに跨がることになった。
→【写真】2004年、セパンサーキットでヤマハのマシンを走らせるバレンティーノ・ロッシ
1月20日から23日までの4日間はホンダ、スズキ、カワサキ等がテストを行い、これら各陣営の相乗りスケジュールが終了した後にヤマハが単独でテストを実施した。まさに文字どおりの〈プライベート〉テストで、ゴロワーズ・フォルトゥナ・ヤマハのバレンティーノ・ロッシとカルロス・チェカ、フォルトゥナ・ゴロワーズTech3のマルコ・メランドリと阿部典史、という2チーム4選手が広大なセパンサーキットを占有した。
このテストに際してヤマハ側は専用取材パスを発給し、セッション時間中はピットレーンへの立ち入りを一切禁止する、というものものしい体制が敷かれた。また、メディアセンターが公的に開放されてプレス用のサービスが供与されるようになったのは、たしかこのときが最初だったように記憶している。
前述したように、この当時、開幕前の公式IRTAテストは3月下旬にスペインで行われていたため、わざわざ1月中下旬のマレーシアまでプライベートテストを取材しに来るヨーロッパメディアはけっして多くなかった。だが、このときはロッシのヤマハ初ライドとあって、50名前後のジャーナリストやフォトグラファーがセパンサーキットへやってきた。
さらに、プライベートテストにもかかわらず、プレスカンファレンスルームを使用してロッシと古沢政生がメディアとの質疑応答を行った。いろんな意味でこのときのセパンテストは画期的であり、それ以前と以後を大きく分かつ分水嶺のようなイベントだったといえるだろう。
■2020年、ロッシは今も勝利を追う
それから16年が経過した2020年のセパンテストでも、相変わらずロッシはメディアやファンからの注目を集める存在であり続けている。特に今年は、テスト前週にヤマハが2021年のファクトリーチーム体制を早々に発表し、ロッシがそこから外れることが明らかになった点でも大きな話題を呼んだ。
この広報発表は、時代が大きく動いていることをはっきりと世に知らしめるという意味で非常に象徴的なニュースだったが、あと1週間ほどで41歳の誕生日を迎える当の本人のロッシは、テスト3日間の走行で年齢を感じさせない高いパフォーマンスを発揮した。
初日は、最速タイムを記録したファビオ・クアルタラロから0.624秒差の10番手。2日目もクアルタラロがトップタイムにつけ、ロッシはそこから0.544秒差の10番手。
以前のロッシは、午前10時にコースがオープンした後、しばらくの時間が経ってから悠揚迫らぬ様子でおもむろに走り出し、高密度のメニューをてきぱきと消化すると早めに一日の走行を切り上げる、というメリハリの効いた姿勢で臨んでいた。しかし、今は走行開始時間と同時にコースインし、午後6時の終了間際まで懸命に走り込みを続けている。この取り組み方の変化にも、現役選手であり続けることに対する彼の貪欲で謙虚な姿勢がよく表れているといえそうだ。
2日目の走行では、2018年限りで現役を引退し、現在はKTMのテストライダーを務めるダニ・ペドロサがトップから0.090秒差の3番手につけた。これについてロッシは「コース上で彼を見ていると、とても速かった。でもペドロサが速いのはわかっているし、KTMもだいぶ良くなっている」と評し、「(ペドロサのレース復帰も)あり得るよね。だって僕よりもずっと若いんだから」と笑いながら話した。
ロッシにとって今シーズンは、翌年以降も現役を継続するのか、あるいは今年を最後に退くのかを決断する重要な節目の年だが、その判断基準は以前から話しているとおり「もっとも重要なのはリザルト」と述べた。
「シーズン前半で、自分はまだ高い戦闘力を持っているかどうかを見極めたい。ヤマハはバイクの改良でかなり頑張っているし、自分のボックスでもチーフメカニックを替えるなどして昨年よりも強くなれるように取り組んでいる。自分としては続けたいと思っているし、戦闘力が高ければ続行するつもりだ」
テスト最終日にはタイムアタックを実施。この日もトップだったクアルタラロとは0.192秒差で、5番手タイムを記録した。3日間のテストを終えて、「フィーリングはポジティブ。グリップが改善し、昨年までの大きな課題だったレース後半でのリアタイヤの摩耗も良くなっている。とはいえ、ひとつのサーキットでの結果にすぎないので、カタールや他のコースでどうなのかも見てみなければならない」と、慎重な姿勢のなかにも良好な手応えと収穫を得たことをアピールした。
さらなる高みを目指してひたむきに努力する意欲を保ち、世界の頂点で鎬を削る覚悟を20年以上も維持しつづけている姿は、今さらながらにやはり驚異的である。
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