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MotoGPコラム|喜ばしいリンス優勝と問われる企業の姿勢……並べられた美辞麗句がスズキに刺さる?

MotoGPオーストラリアGPでは、スズキのアレックス・リンスが見事優勝。今季限りで撤退するスズキに、シーズン初優勝をもたらした。多くのファンもリンスの優勝に湧いたが、だからこそスズキの撤退という判断に疑問も投げかけられた。

Alex Rins, Team Suzuki MotoGP

写真:: Gold and Goose / Motorsport Images

 第18戦オーストラリアGPは、最終ラップの最終コーナーを立ち上がってゴールラインまで三つ巴四つ巴の息詰まるバトルが続く、じつに濃密な内容のレースだった。 

 27周の激戦の末に優勝を飾ったのは、周知のとおりアレックス・リンス(スズキ)だ。2位はマルク・マルケス(レプソル・ホンダ)、3位にフランチェスコ・バニャイア(ドゥカティ)。3メーカーの特徴が際立つ攻防の彩りもさることながら、この3名それぞれが今回の表彰台獲得を意義深いものにするドラマを背負っていただけに、なおさらレース内容と結果は印象深いものになった。

 とくにリンスは今季初優勝で、表彰台は半年前の第4戦アメリカズGPで獲得した2位以来14戦ぶりだ。そしてなにより、スズキ株式会社がレースオーガナイザーとの参戦契約期間中にもかかわらず一方的にMotoGPから撤退すると5月に明らかになって以来、初めての優勝である。

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 今年度限りでレース活動を終了する、という唐突な発表以降、ライダーとチームスタッフ、開発関係者たちは毎戦、一期一会のレースを戦ってきた。訪れるサーキットはすべて、この”Team SUZUKI ECSTAR”として戦うことがもう二度とない「最後のレース」だ。それだけに、強い連帯感で結ばれた彼ら彼女たちが、様々に複雑な思いを胸に秘めながら各会場を転戦してきたのだろうことは、容易に察しがつく。

Alex Rins, Team Suzuki MotoGP

Alex Rins, Team Suzuki MotoGP

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

 それは世界中のスズキファンにとっても同様だ。各メーカーのバイクやレース活動を応援するファンには、それぞれ独特のカラーがある。スズキの場合は『スズ菌』、英語では『Suzu-King』という呼称がよく知られている。熱狂度ではどのメーカーのファンにも引けを取らない。だが、来年はその熱さを向ける対象がいなくなってしまう。彼らもまた、ライダーやチームスタッフたちと同様に、自分たちにはどうしようもない寂しさや、やりきれなさを抱えながらシーズンの推移を見守ってきたことだろう。それだけに、リンスが達成した今回の優勝は、万感の思いで眺め、喜びを噛みしめたにちがいない。

「フィリップアイランドでスズキとして走るのはこれが最後なので、1位でゴールできたことが本当にうれしい。感無量だ。シーズン中ずっと、苦しいときも支えてくれたすべての人たち、チームにも浜松のスタッフにも、心から感謝をしている。いいレースだった」

 優勝後にリンスの発した第一声がそんな内容だったことも、上記の事情を考えれば大いに頷ける。それにしても、日本の浜松本社でTeam SUZUKI ECSTARの撤退を決定した人々は、今回の優勝をどんな気持ちで眺め、リンスのこの言葉をどんな思いで聞いていたのだろう。

 四輪車や二輪車の製造企業がレース活動に参戦することの意義は、自社製品のプロモーションやブランドの周知徹底などの広告効果、従業員の帰属意識と社内士気の向上、先進的開発を通じた製品品質の改善向上と人材育成、などを挙げることができる。HRCやドゥカティコルセなど、レースをすること自体が自分たちの存在意義でありDNAである、と自認する企業もあるが、それはむしろ特殊な例だろう。

Ducati Team logo

Ducati Team logo

 スズキの場合は、長年のレース活動のなかで常にレースをする理由を社内的に問われ続けてきた。レース関連部門で働く人々も、自分たちの活動意義について「我々は、企業に関わるステークホルダーや世界の顧客に対して、はたしてどのような貢献をできるのか」と自分たち自身に常に問いかけながら、レース活動を続けてきた。いままで何人ものスズキのレース関係者を取材してきたが、この点をおろそかにしている人には会ったことがない。

 しかし、今年限りのレース活動撤退を決めた人々にしてみれば、レース活動は企業にとって重要なものではなく、予算を使って継続する意味も価値もないと判断したということなのだろう。限られた予算をどう割り当てるか、という現実の問題を考えたときに、たとえば今回のオーストラリアGPでライダーとチームが懸命に戦って優勝を摑んだ結果として、自社製品ユーザーや潜在的購買者の消費活動を刺激する効果は企業にとって今後切り捨ててもかまわない程度の些末なものにすぎず、スズキ株式会社としてはもっと重要なカネの使い道がある、と彼らは考えている。平たく言ってしまえば、そういうことだろう。また、スズキ株式会社が今年限りでの撤退を表明した後に、彼らにとって重要な市場であるインドが2023年のレースカレンダーに組み込まれると発表されたことはちょっとした皮肉のようにも見えるが、これもまた企業にとってはさほどの痛痒感もないのかもしれない。

 とはいえ、スズキ株式会社の経営陣が下したのであろうこの判断が果たして妥当であるのかどうかということは、外部からは知るべくもない。レースに関わってきた人々やファンからすれば冷酷で無情無慈悲な決定に見えることでも、現在の世界を取り巻く経済状況と照らし合わせると、企業全体のポートフォリオではじつはそれが最適解なのかもしれない。

 だが、この問題のもっとも重要な根幹は、レース活動から撤退することに関する企業判断の是非ではない。

Team Suzuki MotoGP garage

Team Suzuki MotoGP garage

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

 撤退を彼らが決定した際に、レースに参戦する5年契約のさなかであることを考慮せず、レースオーガナイザー等の関係者と事前に調整することもなく、要するに自分たちが関わっている世界のルールを尊重せずに、あえてきつい表現をすればひたすら利己的な立ち居振る舞いで一方的かつ独善的に意思決定を下したことにある。

 スズキ株式会社のウェブサイトにある「CSRトップメッセージ」というページを見ると、「スズキのお客様の大半はごく一般的な生活者であり、その方々に寄り添うことで事業が成り立っています」「社員が皆で情報を共有して動くということが大切」「コンプライアンスという見地からも、やはりコミュニケーションは重要です」等々の文言が記されている。

 しかし、自分たちが参加し多数の人々や組織も関わる世界を去るに際して、関係者への事前調整や(選手を含む)そこで働く人々の労働事情等を勘案しないまま意思決定を行う企業に、上記のような美辞麗句に基づいた行動規範を、はたして期待してもいいものなのだろうか。713日付けで発表された広報資料では、鈴木俊宏社長の言葉として「レース活動を通じて培ってきた技術力・人材を、サステナブルな社会の実現へ振り向け、新たな二輪事業の創生に挑戦していくことを意味しております」と記されている。

 CSR(企業の社会責任)とは、いったい何なんだろう。現代社会で企業の重要な存在意義と成長のカギとして注目されるESG(環境・社会・ガバナンス)は、彼らの中でどのように理解され、定義されているのだろう。

 以前に鈴木俊宏社長を取材した際には、本心からレースとバイクをこよなく愛する人物像が率直に伝わってきた。今回のMotoGP撤退に関しては、経営陣の人々がじっさいにどのような議論と経緯を経てこの判断に至ったのか、外部からは知るよしもない。だが、スズキ株式会社の代表取締役社長として鈴木俊宏氏の名前が記されている以上、最終的にこの一連の責任は社長に帰する。ことほど左様に、企業を運営するということは辛く厳しいことなのだろう。

 我々は、フィリップアイランドのレースで優勝を勝ち取ったアレックス・リンスに対して、万雷の拍手で賞賛する。また、選手が最高の状態で戦えるように支えてきたチームスタッフと技術者・開発陣のなみなみならぬ努力にも最大の賛辞を贈る。ただし、それらのエールは、彼らのレース活動と努力と成果に価値を見いだす意思がないのであろう浜松の経営陣たちに向かっているものではない。我々は、肉屋を全力で支持する豚ではないのだから。

 
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