MotoGPコラム|クアルタラロが逃げ切る? それとも逆転はある? ”絶妙な”30点差とMotoGP逆転劇の歴史
MotoGP第14戦サンマリノGPでドゥカティのフランチェスコ・バニャイヤが4連勝を達成し、2022年シーズンのタイトル争いはまたポイント差が接近してきた。現時点では首位のファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)は30ポイントのギャップを築いているが、果たしてライバルに逆転の目はあるのだろうか? 過去のタイトル争いから、その可能性を探ってみた。
第14戦サンマリノGPは、フランチェスコ・バニャイヤ(ドゥカティ)が優勝し、自身にとってもドゥカティにとっても初となる4連勝を達成した。一方、ランキング首位のファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)は5位でチェッカー。前戦までずっとランキング2番手につけていたアレイシ・エスパルガロ(アプリリア)は6位で終えたため、バニャイヤに3ポイント上回られてランキング3番手と、ひとつ順位を落とした。
2022年シーズンは残り6戦、これからいよいよ終盤戦へとさしかかる。タイトル争いは、首位のクアルタラロ、30ポイント差で2番手につけるバニャイヤ、その3ポイント背後のエスパルガロ、の3名に絞り込まれたと考えていいだろう。
それにしても、残り6戦で30ポイント、という点差はじつに微妙だ。
現行のポイントシステムでは、優勝選手が25、2位は20ポイントをそれぞれ獲得する。あくまで机上の計算だが、残り6戦でバニャイヤが全勝してクアルタラロはすべて2位で終われば、ふたりは最終戦を終えて同点で並ぶことになる。獲得ポイントが同点で並んだ場合、順位は優勝回数の多寡で決定する。
とはいえ、現実のウィーク推移や決勝レースの展開は複雑な要素が様々に絡み合うので、全戦全勝という単純な展開にはならないだろう。そこで、2012年から21年まで過去10年のリザルトから、各シーズンの6戦を残した段階でのチャンピオンシップの拮抗状態を調べてみた。10回のシーズンのうち、残り6戦の状態で首位に立っていた選手が最終的にタイトルを獲得したのは7回。ランキング首位の選手が逆転されたのは2015年、2017年、2020年の3シーズンだった。
2015年は、6戦を残してバレンティーノ・ロッシが首位、12ポイント差でホルヘ・ロレンソが2番手。3番手のマルク・マルケスはロレンソの65ポイント背後で、タイトル獲得は事実上ロッシとロレンソに絞り込まれていた。この年は、最終戦のひとつ手前でロッシとマルケスの間に遺恨を残す角逐が発生したシーズンだ。その影響もあって、最終戦ではロレンソがロッシよりも上位でゴールしてポイント数で上回り、逆転タイトルを獲得した。
マルク・マルケスとバレンティーノ・ロッシ/2015マレーシアGP
Photo by: Bridgestone
2017年は、アンドレア・ドヴィツィオーゾが残り6戦段階で首位に立っていた。ランキング2番手のマルケスとのポイント差は9。その後のレースでは、マルケスーマルケスードヴィツィオーゾーマルケスードヴィツィオーゾ、とこのふたりが毎回入れ替わるように優勝した。そして、マルケスが首位、21点差でドヴィツィオーゾ、という状態で最終戦を迎えた。が、ドヴィツィオーゾがレース終盤に転倒を喫したことで勝負が決した。『マッピング8』という指示がドゥカティのボックスからドヴィツィオーゾのチームメイトだったロレンソに出た年、といえば思い出す人も多いだろう。
2020年は新型コロナウィルス感染症の蔓延で、スケジュールが大幅に変更になり、レース数も例年よりも少ない14戦になった。6戦を残して首位に立っていたのはクアルタラロで、8ポイント差でジョアン・ミルが2番手につけていた。クアルタラロは残り6戦で成績が一気に落ち込んで、最終的にはランキング8位に沈んでしまう。一方のミルは着実に表彰台を獲得して、最終戦ひとつ手前のレースで王座を確定させた。
2022年は、果たして上記の3シーズンのような波瀾の展開となって、2番手のバニャイヤや3番手のエスパルガロが逆転王座につくのか。それとも、ランキング首位のクアルタラロが凌ぎに凌ぎきって、首位の座を守り抜くのか。こればかりは予想のしようがない。ヤマハ、ドゥカティ、アプリリアそれぞれの長所やライダーの持ち味等で得意コースを予測するのも面白いかもしれないが、そういった予想は往々にして裏切られるものだ。
とはいえ、今後の勝負のカギになるであろういくつかの要素なら、指摘しておくことができるかもしれない。
ひとつは、アプリリアの素性の良さだ。
エスパルガロは、この数戦で表彰台を取り逃して4位や5位、6位で終えている。だが、マシン性能が非常に高水準でまとまっているのは衆目の一致するところだ。チームメイトのマーベリック・ビニャーレスが直近4戦で3回の表彰台を獲得していることも、それを証明している。シーズン中盤に見せたような連続表彰台を達成すれば、あっという間にポイント差を詰めていくだろう。
アレイシ・エスパルガロ
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
バイクのまとまり、という面では、アプリリア勢と対照的にヤマハのクアルタラロは厳しい戦いを強いられている。特にここ数戦では、その傾向が如実に現れているようにも見える。ドゥカティの圧倒的なスピードやアプリリアのまとまりを前に、ライダーとマシンの持てる力を最大限に発揮して孤軍奮闘する姿は、レースを見ている側に判官贔屓のような心情もかき立てる。
この孤軍奮闘、という点では、他のヤマハ陣営選手からの助力を期待できそうにないところも、今後の不安要素になる可能性がある。クアルタラロのずば抜けたライディングセンスとマシンの長所を最大限に発揮して、いかにライバルたちを凌ぎきるか。それが今後の勝負のキモなのだろう。
クアルタラロがたったひとりで戦わなければならないのと対照的に、バニャイヤには7名の味方がいる。タイトル争いがもっとも熾烈な瞬間を迎えたときに、ドゥカティは果たしてチームオーダーを出すのか、出すとすればどんなものになるのか。そのあたりはまったくの未知数だが、7名のドゥカティライダーはいずれも、フロントロウを獲得する速さや表彰台に登壇する実力の持ち主ばかりだ。その意味では心強い味方揃いで、『チーム』としての戦略や機動力をもっとも発揮しやすいのはドゥカティだろう。
とはいえ、最後の対決はやはり、ライダーたち自身の実力にかかっている。彼らが真っ向勝負で雌雄を決するところを見たい、というのがレースを観戦する側の偽らざる心境だろう。そして、これからの6戦がいずれも、二輪ロードレースの醍醐味を凝縮したような戦いになってくれるのであれば、さらに言うことは何もない。歴史に残るような三つ巴の名勝負を期待し、愉しみに待つことにしよう。
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