MotoGPコラム|勝利の女神が微笑むのは……もつれ込んだチャンピオン争い、大逆転勝利の可能性は十分ある!?
MotoGP2022年シーズンはいよいよ最終戦を迎えている。MotoGPクラス、Moto2クラスは最終戦までチャンピオン決定が持ち越される激しい競い合いとなっているが、”大逆転”はあり得るのだろうか? 長い歴史を誇るMotoGPの過去の事例を振り返ってみると、時に劇的な形でチャンピオンが決まって来たことがわかる。
写真:: Camel Media Service
2022年のMotoGPチャンピオンシップは、ついに最終戦のバレンシアへもつれ込むことになった。第19戦マレーシアGP終了段階でのポイント獲得状況は、首位のフランチェスコ・バニャイヤ(Ducati Lenovo Team)が258、2番手につけるファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)が235で、23ポイントの差が開いている。最終戦終了時にふたりの獲得ポイント数が同点で並んだとしても、年間優勝回数がバニャイヤはここまで7回に対してクアルタラロは3回であるために、王座はバニャイヤのもとに渡る。
この同点状況を作り出すためには、クアルタラロは”必ず”決勝レースで優勝しなければならない。そして、バニャイヤが14位で2ポイントを獲得した場合に、ふたりの点数は260の同点で並ぶことになる。だが、この場合は上記のとおりバニャイヤがチャンピオンになるわけだから、クアルタラロが2年連続チャンピオンを達成するためにはバニャイヤは15位で1ポイントの加算にとどまるか、もしくはノーポイントでレースを終えることが条件になる。いうまでもなく、クアルタラロにとってタイトル連覇のハードルは非常に高い。
逆に、バニャイヤは14位でレースを終えればいいわけだから、状況は圧倒的に有利だ。しかし、レースでは何が起こるかわからない。チャンピオン争いが最終戦までもつれ込んだ過去のレースを振り返ってみると、コース上で発生したいくつものドラマチックな出来事が次々と記憶に甦る。
■バレンティーノ・ロッシ、幻のMotoGP6連覇
最終戦バレンシアの劇的なチャンピオン決定戦、といえば、おそらく多くの人が思い出すのは2006年のレース、バレンティーノ・ロッシVSニッキー・ヘイデンのタイトル攻防戦だろう。
この年の推移も、二転三転する状況で最終戦のバレンシアを迎えた。シーズンを通じてランキングの首位に立っていたのはヘイデンだった。だが、サマーブレイク明けは表彰台に上がれないレースが続いた。
前年までシーズン5連覇を続けてきたロッシは、後半戦に入って猛烈な巻き返しを開始。毎レース表彰台に登壇し続けて、最終戦ひとつ手前のポルトガルGPでも2位に入った。一方、このレースでヘイデンはチームメイトのダニ・ペドロサの転倒に巻き込まれてノーポイント。20ポイントを加算したロッシが逆転して首位に立ち、ヘイデンは8点差を開かれた状態で最終戦のバレンシアを迎えた。土曜の予選を終えたグリッドはロッシがポールポジション、ヘイデンは2列目5番グリッド。これは誰がどう見てもロッシに有利な状況だ。6連覇はほぼ確実、といった雰囲気で日曜午後の決勝レースを迎えた。
Valentino Rossi falls
Photo by: Yamaha Motor Racing
しかし、ロッシはスタートに失敗して出遅れてしまい、1周目のポジションは7番手。ヘイデンは表彰台圏内の3番手へ浮上した。ロッシは懸命の追い上げを図っている最中の5周目に2コーナーで転倒。即座にバイクを引き起こして復帰したが、最後尾から13番手まで浮上するのが精一杯だった。3位で16ポイントを加算したヘイデンが、13位で3ポイントにとどまったロッシに対して再度ポイントを逆転して2006年のチャンピオンになった。ポールポジションのロッシが、まさかスタートで大きくポジションを落とすとは誰も思っていなかったし、さらにその追い上げの途中で転倒してタイトルを逃すことになろうとは、誰にも予想できなかった。
■偶然? 小椋藍導く監督・青山博一も最終戦で王座決定
2009年も、最終戦バレンシアまでもつれ込んだチャンピオン攻防戦で予想外のハプニングが連続して発生した。このときのタイトル争いは中排気量の250ccクラス。ランキングをリードしていたのは現Honda Team Asia監督の青山博一だ。21ポイント差で、前年度チャンピオンのマルコ・シモンチェッリが追っていた。
点差は青山に有利な状況だ。だが、決勝レース10周目、シモンチェッリがトップ、青山が3番手で入っていった1コーナーで青山がオーバーラン。転倒を回避してコースへ復帰したものの、11番手に順位を落とした。しかし、20周目にトップを走行していたシモンチェッリが転倒。これで勝負が決まり、青山が2ストローク250ccクラス時代最後のチャンピオンになった。
今年の中排気量Moto2クラスも、タイトル決定は最終戦に持ち越されている。ランキング首位のアウグスト・フェルナンデス(Red Bull KTM Ajo)に対して、2番手の小椋藍(IDEMITSU Honda Team Asia)は9.5ポイント差でファイナルレースを迎える。直近の2戦では第18戦オーストラリアGPでフェルナンデスが転倒、第19戦マレーシアで小椋が転倒と、ともに高い安定感を披露してきたふたりに珍しい出来事が続いた。それだけに、シーズン最終戦のバレンシアがどのような戦いになるのか、まったく予想がつかない。
■まだまだある最終戦バレンシアでのチャンピオン決定
他にも、バレンシアで雌雄を決したシーズンはいくつもある。2013年は、数々の最年少記録を更新してきた当時20歳のマルク・マルケスが最年少チャンピオン記録をも塗り替えて、最高峰クラス昇格初年度で王座に就いた。そのマルケスは2015年にロッシとの角逐が頂点に達し、チャンピオン決戦のパドックはホンダとヤマハの企業同士が代理戦争を演じるほどの不穏な雰囲気に包まれた。
このレースでロッシは前戦のペナルティから最後尾スタートを強いられたものの、最後は4位まで浮上。マルケスは2位でゴールして、その前方で優勝のチェッカーを受けたホルヘ・ロレンソが、ロッシと5ポイント差でタイトルを獲得した。
2017年はマルケスとアンドレア・ドヴィツィオーゾが王座を争い、ドヴィツィオーゾのチームメイトで直前を走行するロレンソに〈MAPPING 8〉というメッセージのチームオーダーが出た。だが、ロレンソはこの指示に従わず、最終的には転倒。その直後にドヴィツィオーゾも転倒してマルケスが4回目の最高峰クラスタイトルを獲得した。
バレンシア以外の会場で行われた最終戦では、1983年のケニー・ロバーツVSフレディ・スペンサーの勝負が、劇的なチャンピオン争いとして今も長く語り継がれている。ロバーツのチャンピオン獲得条件は、自らが優勝してスペンサーが3位以下で終わることだったが、ロバーツのチームメイトだったエディ・ローソンはスペンサーに追いつくことができず3位で終え、タイトルはスペンサーの手に渡った。ローソンにしてみれば、これほど居心地の悪い表彰台もなかっただろう。
他にも、1998年の最終戦アルゼンチンGP250ccクラスは原田哲也とロリス・カピロッシのチャンピオン争いだったが、原田にカピロッシが接触して原田は転倒。カピロッシが2位でゴールしてチャンピオンを確定させる、という出来事もあった。その2年後、2000年は中野真矢とオリビエ・ジャックがチームメイト同士でタイトルを争った。オーストラリアGPの最終戦でジャックと中野は最終ラップの最終コーナーを立ち上がるまで僅差の激しい攻防を続けたが、最後はジャックが0.014秒先にゴールして優勝し、チャンピオンを決めた。
と、このように駆け足でシーズン最終戦のチャンピオン争いを振り返ってみても、過去には様々に劇的な戦いがあったことがわかる。今年のMotoGPクラスとMoto2クラスのタイトル攻防戦では、はたしてどのようなドラマが繰り広げられるのだろう。
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