ロッシ/マルケスの大チャンピオンの系譜は間違いなし? 超速でMotoGPクラス昇格のペドロ・アコスタ、セパンテストで見せたその片鱗|MotoGPコラム
2024年のMotoGPにおける注目ポイントのひとつに、ルーキーのペドロ・アコスタ(Red Bull GASGAS Tech3)がどんな走りを見せるのか、というモノがある。怒涛の勢いで最高峰クラスまで駆け上がってきたアコスタが挑んだセパンテストから見えてきたこととは?
間違いなく、天才ライダーである。おそらくバレンティーノ・ロッシやマルク・マルケスの系譜に連なってゆくのだろうと思わせる資質の高さは、中小排気量時代からすでに明らかだった。
レッドブル・ルーキーズカップで2020年にタイトルを獲得し、翌年に16歳でMoto3クラスへ昇格。開幕戦のカタールGPでは激しい優勝争いの末に2位に入った。この年は新型コロナウイルス感染症の影響によりカタールで2週連続の開催になったが、翌週のドーハGPではデビュー2戦目ながら優勝を飾り、メディアセンターが騒然としたことを今もよく憶えている。そのデビューイヤーにMoto3チャンピオンになり、2022年にはMoto2へ昇格。2023年にこのクラスでも王座に就いて、今シーズンからMotoGPへステップアップした。
2020開幕戦カタールGPを制したアコスタ。若く線も細い。
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
あれよあれよという間に参戦クラスを上げてきたペドロ・アコスタは、この2024年シーズンに、最高峰クラスルーキーとしてマレーシアのセパン・インターナショナル・サーキットで行なわれるプレシーズンテストにシェイクダウンから参加した。
ルーキーと各陣営テストライダー、コンセッション対象陣営のチームが走行するこのテストで、アコスタはトップタイムを記録。MotoGPフル参戦の全選手が参加する公式テストが始まる前に、このシェイクダウンでベテランのテストライダーたちや経験豊富な現役選手を抑えてトップタイムを記録したことについて、彼に訊ねてみた。
うまく乗れてシェイクダウンの最速につけたことに自分でも驚いたのか、あるいはあくまで想定範囲内だったのか。そう質問すると、「正直なところ、目標のようなものはべつに何も立てていなかった」という落ち着いた言葉が返ってきた。
「KTMとGASGASは、僕がバイクを理解して旋回のしかたやいろんなことを学ぶのにとても力になってくれた。これはあくまでも普通の学習曲線だと思う」
中小排気量時代でも地に足のついた受け答えで聡明さを感じさせたが、最高峰クラスに昇格しても浮わついたところがまったくない様子が印象的だった。
セパンテストでのペドロ・アコスタ
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
余談になるが、アコスタからこの言葉を聴いたとき、将棋の藤井聡太八冠が17歳だった頃に「今は勝敗が偏っている時期で、いずれ平均への回帰が起こると思います」と述べた冷静さに通じるようなものも感じた。
公式テスト3日間の自己ベストタイムは、最終日午前のタイムアタックで記録した1分57秒365。全23選手中の9番手で、今回のセパンテスト最速タイム(フランチェスコ・バニャイヤ:1分56秒682)からは、わずか0.683秒差だ。このトップとのタイム差も新人らしからぬ数字だが、昨年の予選Q2でバニャイヤが更新したオールタイムレコード(1分57秒491)よりも速いタイムで走っているという事実には、さらに驚かされる。
ちなみに、マルク・マルケスがMotoGPクラスに上がってきた2013年に最初のセパンテストで記録したタイムは、最速選手(ダニ・ペドロサ)から0.536秒差だったが、それと比較しても今回のアコスタの走りは遜色ないことがよくわかる。
アコスタ本人は自身のタイムアタックについて「シェイクダウンの2日目から制御を入れはじめてどんどん良くなってきたし、走りも流れるようになってきた。バイクも自然になってきて、今は(順応の)途上にある状態。5コーナーと12コーナーでは立ち上がりのことを考えずに攻めすぎたせいではらんでしまったけれども、一度にすべてを完璧にすることはできないのだし、タイムアタックはとても楽しめた」と述べた。また、レースを想定した走行については以下のように話している。
「1分58秒台で安定して走ることができた。また、レースで燃料の警告灯が表示されるのを確認するために、マップを変えずに走ってみた。警告灯に集中して、それにどう対応するかということも理解できたので良かったと思う。だから、スプリントのシミュレーションでは速く走るよりも、バイクの挙動に集中していた」
この大型ルーキーは早々に活躍するだろう、というのが先輩ライダーたちの一致した見解のようだ。マルク・マルケスのアコスタ評を紹介しておこう。
2013年に昇格したマルケス。第2戦で早くも勝利している。
Photo by: Repsol Media
「きっと今シーズンで猛烈に速くなってゆくだろう。たとえばクアルタラロ(ヤマハのファビオ・クアルタラロ)もそうだったけれども、彼らはMotoGPに上がってきてもいきなり速い。ペコ(バニャイヤ)も、たしか最初のプレシーズンテストで上位につけていた。ペドロも今回のテストでいきなり速かった。転倒もしたようだけれども、それも学習過程のうちだから、とにかく攻めようという姿勢がいい。ぼく自身もそういう心構えでやってきたからね。ものすごく才能のある選手だから、多少時間はかかったとしても、いずれチャンピオン争いに絡んでくると思う」
バレンティーノ・ロッシにしてもマルク・マルケスにしても、ファビオ・クアルタラロにしてもペコ・バニャイアにしても、速い選手は初手からいきなり速かった。2004年生まれのアコスタもまた、彼らの延長線上にいるのであろうことを改めて強く印象づける、そんなセパンテストだった。
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