MotoGPコラム:最後の日本人王者、青山博一。思い出のバレンシアで見つめる“未来”
現在日本人ライダーが最後に世界選手権で頂点に立ったのは、2009年250ccクラスの青山博一。10年の時を経て“監督”の立場でグランプリに舞い戻った青山は、次代の日本人チャンピオン到来のチャンスがあると、思い出のバレンシアで語った。
写真:: Gold and Goose / Motorsport Images
MotoGP2019年シーズン最終戦バレンシアGPは、週末を通して好天に恵まれたが、温度条件は非常に低い状態で推移した。公式情報でも15℃前後、日陰に入ればもっと気温は低い。強い風も吹いていたので、体感的には10℃を下回る、まるで真冬のような状況だった。
「どういう理由かはわからないけど、風が強いと思い出すんですよね。あのときと一緒だな、って」
そう話すのは、Moto2のIDEMITSU Honda Team AsiaとMoto3クラスのHonda Team Asiaでチーム監督を務める青山博一だ。今回のバレンシアGPは、青山が250ccクラスでチャンピオンを獲得してちょうど10年の節目だった。
「10年前のバレンシアも、風が強くて寒かったんですよ。だから、そのあおりでああいうアクシデントが起きたんですよね。1コーナー進入のブレーキングで、バルベラと接触しそうになってコースアウトした。そのときの写真を見るとわかるけど、ものすごく砂埃が上がっているんですよ」
2009年のバレンシアGPは、青山がマルコ・シモンチェッリに21ポイントリードする形で迎えた。青山は5ポイント以上の獲得、つまり11位以上でフィニッシュすれば問答無用でチャンピオンが確定する。
「攻撃は最大の防御、というじゃないですか。だから、そのレースも勝ってチャンピオンを決めたかった。優勝を狙ってバトルをしていたんですが、1コーナーで停まりきれずにコースアウトしてしまったんです」
グラベルへはみ出して砂煙を後方に巻き上げながら、青山はなんとか転倒を回避してコース上へ復帰した。そのときの青山の順位は12番手。優勝以外に逆転チャンピオンの可能性がないシモンチェッリは、このときにトップを走行していた。
「強い風が最終コーナーから1コーナーに向かって吹いていました。最終側から吹いてくる追い風は冷たいんですよ。逆に、1コーナーから最終コーナー側に向かって吹く風は、ちょっと暖かいんです」
先頭を走るシモンチェッリもこの風の影響を受けた。
「彼も1コーナーで少しはみ出た。で、タイヤに少し泥が付いてしまったようで、次の2コーナーでその泥に乗って転倒するんですよ」
シモンチェッリの転倒により、青山は最後まで走りきればタイトルが確定することになった。だが、そこからさらに追い上げ続け、7位でゴール。2ストローク250ccクラスの最後のチャンピオンとなった。
「2スト時代が懐かしいですね。あの頃は今のような電子制御がなかったので、マシンをコントロールして走るさじ加減は、右手の感覚と自分の体、そしてここ(と頭を指さす)がすべてでしたから」
翌年以降、最高峰クラスへ昇格した青山のサインボードにはいつも、“2stroke forever”というステッカーが張りこまれていた。
そして、10年が経過した。
「10年前のことが話題になるなんて、それだけ歳を取ったんだなと思いますよ」
そう言って、青山は苦笑する。
「あのときと立ち位置は違うものの、ありがたいことに現在はチーム監督として今もサーキットに来ることができている。10年前には想像できませんでしたね。やっている仕事や立場は変わったけど、同じ場所にいて同じレースに関わっている、という意味では同じです。やるからには一番になりたいし、そのためには全力で突き進む。10年分の歳は取ったけど、気持ちはまだ変わっていませんよ」
青山のチャンピオン獲得以降は、10年後の現在に至るまで、どの排気量でも日本人王者は誕生していない。しかし、来年の2020年はチャンスがある、という。
「アジアタレントカップがスタートして、来年は7年目のシーズンになります。第1期の総合優勝が鳥羽海渡で、2年目が佐々木歩夢。彼らの世代の選手たちが、Moto3クラスで表彰台や優勝を争えるようになり、成果がそろそろ出てきました。チャンピオンを獲得できるかどうかの最後の決め手は、自分の努力だけで決まらない要素もあるので、2020年は確実にチャンピオンを獲れます、と断言はできません。とはいえ、少なくともそこに向けて確実に近づいている。それは確かなんです」
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