Moto3ライダーにとって2022年はビックチャンス! MotoGP昇格は誰の手に!?

ペトロナス・セパン・レーシングチームが2022年にタイトルスポンサーであるペトロナスを失うことにより、来年起用するライダーについて多くの噂が出回っている。その中でMoto3クラスのライダー達にとってはこれとないビックチャンスとなった。その中でもダリン・ビンダーは最有力候補の一人である。

Moto3ライダーにとって2022年はビックチャンス! MotoGP昇格は誰の手に!?

 ヤマハのマーベリック・ビニャーレスは2021年シーズン限りの早期離脱が決定しており、2022年はその空いたシートにサテライトチームであるペトロナス・ヤマハSRTから、フランコ・モルビデリが昇格するという見方が有力視されている。

 また、そのペトロナス・ヤマハSRTはバレンティーノ・ロッシが今季限りでの引退を表明し、SRTは新たに2名のライダーを来シーズンに向け獲得しなければいけない状況になった。

 考えられる最良の選択はMoto2クラスのルーキー、ラウル・フェルナンデス(Red Bull KTM Ajo)を獲得することだったが、フェルナンデスは2022年シーズンから最高峰MotoGPクラスにテック3KTMから参戦することが発表されてしまい、この選択肢は不可能となった。

 その次の候補としては、ロッシの教え子であるマルコ・ベッツェッキが挙げられていた。しかし彼もまたドゥカティVR46チームからルカ・マリーニ(アビンティア)のチームメイトとしてMotoGPクラスへのステップ・アップが有力視されている状況だ。

 他の選択肢ではスーパーバイク世界選手権(WSBK)のヤマハの契約ライダーであるトプラク・ラズガットリオグルとギャレッド・ガーロフが居る。しかしトプラクはWSBKに専念する姿勢を見せており、来季のMotoGP転向はありそうもない。

Darryn Binder, Petronas Sprinta Racing

Darryn Binder, Petronas Sprinta Racing

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

 ガーロフに関しては負傷したモルビデリの代わりに第9戦オランダGPに出場するなどMotoGPでの経験もあるが、彼も来シーズンのWSBK継続参戦でヤマハと契約を更新している。

 ただ、ガーロフの2022年の契約に関してはMotoGPへ参戦できるオプションも備わっているようで、この点では彼の意向次第となっているようだ。Motorsport.comの取材によると、この条件はSRTから“Bスペック”マシンの供給となっておりファクトリーサポートは付属していないないという。

 また第11戦オーストリアGPでは、ペトロナスが2022年シーズン以降のタイトルスポンサーから降板するという衝撃的なニュースが発表されたばかりで、チームは運営体制の刷新を迫られることになった。

 これに伴い、Moto2クラスとMoto3クラスからは2022年シーズンに撤退する予定で、SRTは今後MotoGPクラスのみの参戦となる。彼らは下位クラスから最高候補クラスへのステップアップ構造を模索してきたが、一旦このプランは白紙にせざるを得ないと言える。

 ただし、Moto3クラスで優勝経験も持つダリン・ビンダー(Petronas Sprinta Racing/ブラッド・ビンダーの弟)はMotoGPクラスへSRT内から昇格する可能性のある唯一のライダーであると考えられている。そのため、この案が実現すればSRTにとっては育成の唯一の成功例となるだろう。

 SRTの2022年シーズンに向けた噂話は数多く存在するが、フェルナンデスやベッツェッキのプランが崩れた今、最有力と見られているのがそのダリン・ビンダーを“飛び級”でMotoGPクラスに参戦させることだ。

 その“噂”に対して、驚きを見せないのがブラッド・ビンダーである。彼は弟の能力がMotoGPクラスでも通用すると自信を見せる。

「ここ最近、確かに噂は聞いたよ」

 ブラッド・ビンダーはこのようにオーストリアGP初日に語った。

「ただ当然ながら、僕は弟が同じトラックにいることを望むね。そして、もしそれが現実となるなら、それは……それは本当に最高なことさ。もちろん、大きなステップだと思うけど、どっちみち、彼は上手くやると僕は信じているよ」

 Moto3からMotoGPへと”飛び級”をした前例は既に存在する。現在ドゥカティファクトリーチームに在籍する、ジャック・ミラーだ。

Darryn Binder, Petronas Sprinta Racing

Darryn Binder, Petronas Sprinta Racing

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

 2015年、ホンダはミラーを3年契約でMotoGPクラスへと”飛び級”させた。ミラーは2014年にAjo KTMからMoto3へ参戦し、アレックス・マルケスに次ぐポイントランキング2位でその年を終えると、翌年LCRホンダからMotoGPクラスへ参戦を開始した。

 ただここでビンダーとミラーには、“実績”の点で大きな違いがある。まず、ミラーはグランプリ参戦3年目である2014年にタイトル争いをした点だ。2013年にFTRホンダで堅実な走りをしていたミラーを2014年にアキ・アヨ(Red Bull KTM Ajoチーム代表)が自身のチームに引き抜くと、当時チャンピオンシップを争っていたアレックス・マルケスが3勝したのに対し、6勝を収めた。結果は僅か2ポイント差でタイトルを逃すも強さを十分に発揮した。

 一方ビンダーは、現在Moto3クラス参戦7年目だが、これまでの優勝経験は昨シーズン第9戦カタルニアGPでの一度のみ。他は2018年シーズンにAjo KTMで1度表彰台にあがっただけである。またその年のポイントランキングでは17位で終えた。

 2021年シーズンは、開幕戦カタールGPで3位を獲得。表彰台に返り咲いたが、ポイントランキングにおいては現在86ポイントで、ポイントリーダーに立つペドロ・アコスタ(Red Bull KTM Ajo)から110ポイント離された6番手。タイトル争いへは参加できていない。

 2022年シーズンからタイトルスポンサーであったペトロナスが撤退を決めたことにより、SRTが現在失うものが何もないことは明らかである。それに伴い、Moto2クラスのライダーであるジェイク・ディクソンとチャビ・ビエルヘもまたMotoGPクラス昇格の可能性があるものの、彼らは世界を沸かせる魅力に欠ける。

 そしてビンダーにとっても、失うものは少ない。Moto3クラスからMotoGPクラスへ直接昇格することについては大きな議論の的となっていることは確かだ。しかし、Moto2クラスは足踏みも簡単に起こりうるクラスであり、MotoGPへのキャリアを完全に失う可能性もあるクラスだ。

■“飛び級”の先輩ミラーは「チャンスが有るなら掴むべき」

 飛び級したミラーはMotoGPクラス参戦初年度にオープンクラスで酷くパワー不足なRC213V-RSを使用。獲得ポイントは僅か17ポイントに留まり、トップ10フィニッシュも記録できなかった。また昇格当初のミラーの“悪ガキ”的な振る舞いは飛び級が失敗だという批判の的にもなった。

Jack Miller, Ducati Team

Jack Miller, Ducati Team

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

 しかしその後の数年で、ミラーは評価を一変させた。2016年にMarcVDSへ移籍すると、オープンクラスのマシンではなく、プロトタイプを獲得。雨のオランダGPで初優勝を達成した。

 その後は2018年にプラマックへ移籍してドゥカティ陣営に鞍替え。2019年にはファクトリーバイクを手にした。2021年はついにドゥカティファクトリーチームへと昇格し、第4戦スペインGPと続く第5戦フランスGPで2連勝をマーク。チームメイトのフランチェスコ・バニャイヤと並び、ドゥカティのファクトリーチームを牽引している。

 “飛び級”の先輩であるミラーはビンダーに対し、MotoGP昇格のチャンスがあるのなら、掴むべきだと語る。それは、その機会が二度と訪れないかもしれないからだと説明している。

 チャンスはある時に掴むべきだ、というミラーの考えだが、それは一面的には正しいだろう。

 2015年にMoto3クラスのタイトルを獲得したダニー・ケントがその例だ。彼は2016年プラマックからMotoGP昇格が目前となっていたが、最終的にMoto2クラスへKiefer Racingからの復帰すること(2013年にMoto2クラスTech3チームに所属していた)を選択した。

 その後、彼は2017年シーズンに開幕3戦を終えた時点でチームを離脱。MotoGPクラス昇格の夢はこの時点で失われたと言っても過言ではない。またケントは2019年にナイフによる犯罪で執行猶予付きの実刑判決を受けるなど私生活でも迷走。現在はブリティッシュ・グランプリに参戦しているが、まだキャリアが続いていることは幸運だと言えるだろう。

 話をビンダーに戻すと、ミラーは彼の持つ才能がMotoGPクラスで通用すると確信している。更にミラーは自身が2015年にステップアップした時とは状況が全く異なると考えている。

 ビンダーがMotoGPに昇格した場合、これから乗るバイクは“Bスペック”であるかもしれないが、それでも、ミラーが初年度に乗ったホンダのオープンバイクよりは、はるかに強力なパッケージだ。また、2020年シーズンにはモルビデリが当時の“Bスペック”マシンで、僅か13ポイント差でタイトルを逃したことを忘れてはならない。

「面白くないね。誰にも僕の“やり方”(飛び級し、Moto3クラスからMotoGPクラスへ昇格したこと)を盗まれたくない」

 Moto3ライダーへMotoGPクラスへステップアップするアドバイスを求められたミラーは、このようにジョークで返した。

「そうだね、ダリン・ビンダーのようにチャンスがあるならその機会を手にするべきだ。彼には度胸があると思うし、それは確かさ。彼は確かにスキルを持っている。チャンスが巡ってきたのに、それを無視することはできない。なぜなら、そのチャンスは1度や2度しか訪れないからだ。人によってはそのチャンスすら訪れない。だからそのチャンスがあるのなら、掴むべきだ」

「僕がしたこととは完全に別物だよ。僕の場合はホンダのオープンバイクで参戦して、自分自身で道を切り開かなければならなかった。彼は始めから、まともなバイクに乗れる時点で、僕の通ってきた道の半分だよ。もしこのことが実現するなら、あとは彼次第ってことになるね」

Darryn Binder, Petronas Sprinta Racing

Darryn Binder, Petronas Sprinta Racing

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

 また、MotoGPクラスにおいてキャリアを“一変”させることができるチームがあるとすれば、それができるのはSRTだ。ファビオ・クアルタラロが2018年にグランプリ初優勝をした際にMoto2クラスから引き上げる決断をしたのはSRTだ。2015年に初めてMoto3クラスへ参戦を開始した時には多くの人が『次のマルク・マルケス』と呼んだその才能を引き出したように、SRTはそのようなことができると考えている。

 クアルタラロは現在MotoGPクラスで6回の優勝経験があり、ヤマハからロッシの後継者として、2021年シーズンよりファクトリーチームに昇格。11戦を終えた現在は47ポイント差でチャンピオンシップをリードしている。

 もし、ビンダーのMotoGP昇格が実現すれば、ビンダーとSRT両者にとってそれは“賭け”になる。しかし、どちらにもダメージを受けないで済むだけの十分な“防波堤”はあるとも言える。それはもし、この賭けが上手くいかなくても、ペトロナス脱退による資金不足や、ヤマハのBスペックマシンを言い訳にできるからであり、それはビンダーにとっても同じだ。

 なおSRTはオーストリアGPの金曜に2022年シーズンの計画については、8月末に開催される第12戦イギリスGPまでに明らかにするとしている。

 

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