リバティ時代のMotoGP、ライダーの国籍が問題に? スペイン&イタリア偏重からの脱却……少数国籍がアドバンテージに
リバティ・メディアによる買収を受け、新しい時代へと歩みだしたMotoGP。しかし今、最高峰クラスライダーの国籍の偏りが要因となり、少数派の国籍がアドバンテージになりつつある。
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MotoGPは現在、ライダーの40%以上がスペイン出身であり、そこにイタリア人を加えると約60%に達する。この状況の中で、リバティ・メディアがチャンピオンシップに持ち込もうとしている新たな「エンターテインメント」という概念のもとでは、異なる国籍を持つことがより大きな価値を持つようになっている。
2025年にリバティ・メディアによる買収が完了したMotoGP。このシリーズはもはや単なるレースシリーズではない。競技であると同時に、何よりもエンターテインメントであり、その魅力を最大限に広げるためには各国に“アンバサダー”が必要とされている。
現在、MotoGPは3つのカテゴリーで構成され、合計76名のライダー(うち最高峰クラスが22名)がおり、21の異なる国のライダーが集まっている。
これは悪くない数字に見えるが、最近はその内訳が問題視されるようになった。76人中32人がスペイン人、12人がイタリア人であり、全体の57.89%を占める。MotoGPクラスだけでも40%以上がスペイン出身であることが、議論を呼ぶようになった。なお日本人ライダーはMotoGPクラス1名、Moto2とMoto3にそれぞれ2名の計5名で、全体では3番目に多い。
しかしつい最近までは、ライダーの国籍が問題視されることはほぼなかった。カルメロ・エスペレータCEOも「我々は最高のライダーを求める。出身は関係ない」という姿勢を取っていたのだ。
Jorge Martin, Aprilia Racing Team, Pedro Acosta, Red Bull KTM Factory Racing, Marco Bezzecchi, Aprilia Racing
Photo by: Gold and Goose Photography / LAT Images / via Getty Images
しかし昨年9月、エスペレータCEOは英Autosport/Motorsport.comの取材に対し、明確な方針転換を示した。
「オリンピックでは、自国で4番手なら出場できない。それで終わりだ。我々のグリッドをスペイン人で埋め尽くすわけにはいかない。これはチャンピオンシップとしての明確な決断だ」
「我々が望むのは世界最高のライダーだ。しかし、より多くの国籍から集まっている方がさらに良い。多様な国からのライダーを持つことは、ドルナ(現MotoGPスポーツエンターテイメント)が強制するものではない。チーム側もそれが重要で有益だと理解している」
この方針はリバティ・メディア主導のものではないと彼は強調したが、メッセージはすでに浸透しつつある。現在、チームはスペイン人やイタリア人以外のライダーを積極的に探し始めている。実際、MotoGPクラスでは22人中15人がこの2国出身であり、68%以上を占めている。
この新たな流れの中で、2027年にはトップクラスのライダーであってもシートを失う可能性がある。例えば、2020年王者のジョアン・ミル、26勝(うちMotoGPクラス10勝)を挙げているマーベリック・ビニャーレス、そして18勝(うちMotoGPクラス6勝)のアレックス・リンスなどだ。この3人はみなスペイン人ライダーだ。
一方で、ジャック・ミラー(オーストラリア)やブラッド・ビンダー(南アフリカ)は国籍の面でもその”価値”が高く評価されており、その結果、若手のマニュエル・ゴンサレスのようなMoto2で実績を残しているライダーのMotoGPクラス昇格機会を阻む要因にもなっている。
現在チームが求めているのは、小椋藍(日本)、ディオゴ・モレイラ(ブラジル)、ダビド・アロンソ(コロンビア)といった、多様な国籍を持つ有望株である。実際、ブラジルGPではモレイラが地元の英雄として何千人ものブラジルファンを集めた。
彼らの実力に疑いはないものの、スペイン人とイタリア人の割合を減らし別の国のライダーを優遇する傾向は、リバティにとって諸刃の剣となる可能性もある。「エンターテイメント」には目に見えるヒーローが必要であり、バレンティーノ・ロッシの引退以来、ある程度メインストリームの注目を集め続けることができているのはマルク・マルケスだけ、という状況だからだ。
■二重国籍の価値
来季シートを失う可能性がある一人が、VR46のフランコ・モルビデリだ。彼はローマ生まれで、イタリア人の父とブラジル人の母を持つ。
ブラジルGPの際、モルビデリはイタリアとブラジル両方のパスポートを持っていることを明かし、次のように語った。
「キャリア初期(2013〜2014年)にはブラジル国籍で参戦することも検討した。ウッチョ(ウッチョ・サルッチ/現VR46のディレクター)がその可能性を提案してくれた。しかし最終的にはイタリア国籍で戦うことを選んだ。生まれも育ちもイタリアだからだ」
そしてモルビデリは国籍変更の考えはないと明言した。
「国旗を変えるつもりはない。イタリアで始めたキャリアはイタリアで終える。だけど、僕のイタリアとブラジル両方への強い愛情は皆が知っているはずだ」
Franco Morbidelli, VR46 Racing Team
Photo by: Media VR46
一方で、キャリアのために二重国籍を活用しようとした例もある。ガブリエル・ロドリゴがその一人で、彼はバルセロナ生まれで人生のほとんどをスペインで過ごしてきたが、父系のアルゼンチン国籍で2014年から2022年までMoto3やMoto2に参戦した。
「何度か表彰台に上がり、最初はスペインの旗だった。しかし2014年の世界選手権参戦が決まった時、ドルナからアルゼンチンのパスポートで戦うのも良い案だと提案された。最後のCEVの表彰台ではすでにアルゼンチンの旗を掲げていた。強制ではなく、家族と検討して決めた。二重国籍への強い意識もあった」
ロドリゴはそう語る。
「当時はキャリアにとってプラスになると考えた。スポーツ面でもスポンサー面でもだ。でもスポンサーは結局現れなかった。個人的な満足を除けば、大きな利点はなかった」
二重国籍を活用しようとしている別の事例は、ダビド・アロンソだ。彼もスペイン・マドリード生まれではあるが、母のルーツであるコロンビア国籍で参戦している。2024年にはMoto3王者となり、Moto2で2年戦ったあと、2027年にはホンダ陣営でMotoGPクラスに昇格するのではないかと見られている出世頭だ。
アロンソは国内選手権ではスペイン国籍で走っていたが、Moto3クラスへの初参戦からコロンビア国籍とすることを決めた。Moto3での成功後はコロンビアで国民的英雄となり、毎年訪問してファンやスポンサーと交流している。
「これはチームと家族と共に相談し、母への敬意から下した決断だ。三色旗を頂点に掲げるためだ。表彰台で国歌が流れ、一緒に歌うと、その瞬間はより特別なモノになる。勝利の瞬間であり、それを聞くとより強く感じる。とても美しく、喜びに満ちている」と彼は語った。
■新たな“アルゼンチン勢”
David Alonso, CFMOTO Aspar Team
Photo by: Gold and Goose Photography / LAT Images / via Getty Images
二重国籍のどちらで参戦するかについて、最初から悩まないライダーもいる。Moto3参戦中のバレンティン・ペローニは、父の出身であるアルゼンチン国籍で走ることに迷いなどはなかったという。
「決断というより、幼い頃から感じていたものだった。最初のレースからアルゼンチン国旗のもとで走っていた」とペローニは言う。
「スペインで生活していても、家では父を通じてアルゼンチン文化が常にあった。リーベル・プレート(アルゼンチンのサッカークラブ)の試合を観て、食事やアサード(アルゼンチン風のバーベキュー)など、あらゆるものにね。アルゼンチンは常に身近にあったし、幼い頃からアルゼンチンの国旗を背負ってきた」
バルセロナ生まれのマルコ・モレッリも同じくアルゼンチン国籍で戦う決断を下した。彼は今年がMoto3フル参戦初年度だが、ブラジルGPではわずか10戦目にして初表彰台を獲得している。
モレッリもやはり、父親を通じて常にアルゼンチンとの繋がりを強く感じてきたと語っている。
「スペインで生まれ育ち、人としてもライダーとしてもここで成長したけど、父を通じてアルゼンチンとの繋がりが常に存在していた。週末のバーベキューなど、多くの習慣に囲まれて育ったんだ」
「父はより良い人生を求めてアルゼンチンからスペインへ移住した。その努力と犠牲の物語は、僕にとって常に大きな影響を与えるモノとなっている」
「競技を始めた時から、そのルーツと家族の歴史に敬意を表す形としてアルゼンチンの国旗で戦いたいと思っていた。特定の瞬間に決めたとかではなく、最初から感じていたことだった」
モレッリはまた、二重国籍がチャンスであり小さなアドバンテージにもなり得ると理解している。彼のマネージャーであるサンティ・コスタはそういった側面については次のように説明する。
「スポーツ的観点から見ても、長期的に理にかなった選択だ。スペインはライダーが多く競争が激しい飽和市場である一方、アルゼンチンは国際カテゴリーでの存在が少ない。その国を代表できることは付加価値となる」
「要するに、これは非常に強い個人的・家族的要素と、将来を見据えたスポーツ的ビジョンが組み合わさった選択なんだ」と、マネージャーは締めくくった。
ライダーの国籍と人数
|
国 |
MotoGP |
Moto2 |
Moto3 |
Total |
|
スペイン |
9 |
14 |
9 |
32 |
|
イタリア |
6 |
3 |
3 |
12 |
|
日本 |
1 |
2 |
2 |
5 |
|
オーストラリア |
1 |
1 |
1 |
3 |
|
フランス |
2 |
2 |
||
|
トルコ |
1 |
1 |
2 |
|
|
南アフリカ |
1 |
1 |
2 |
|
|
インドネシア |
1 |
1 |
2 |
|
|
オランダ |
2 |
2 |
||
|
アルゼンチン |
2 |
2 |
||
|
イギリス |
2 |
2 |
||
|
ブラジル |
1 |
1 |
||
|
ベルギー |
1 |
1 |
||
|
チェコ |
1 |
1 |
||
|
アメリカ |
1 |
1 |
||
|
コロンビア |
1 |
1 |
||
|
オーストリア |
1 |
1 |
||
|
マレーシア |
1 |
1 |
||
|
ニュージーランド |
1 |
1 |
||
|
フィンランド |
1 |
1 |
||
|
アイルランド |
1 |
1 |
||
|
合計 |
22 |
28 |
26 |
76 |
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