オーストリアGPはクアルタラロのタイトル獲得を決定づけるレースとなったのか?
MotoGP第11戦オーストリアGPでは、ブラッド・ビンダーが雨の降るレースをスリックタイヤで走り切り優勝を飾ったのもまだ記憶に新しいところだ。しかしビンダーの優勝の影で、ライバル勢はポイントリーダーのファビオ・クアルラロに最大の警戒を持つべき週末となったかもしれない。
MotoGP第11戦オーストリアGPは予想外のレース結果となった。スタート直前に降り始めた雨は、レース終盤に本降りへと変わり上位を走るライダー達がマシンを乗り換える中、スリックタイヤで走り続ける決断を下したKTMのブラッド・ビンダーが優勝を果たしたのだ。
この22周目に突如として降ってきた雨はレースを一変させた。ビンダーのように雨を味方につけ勝利を手にしたライダーがいる一方で、雨が影響しその機会を逃した者もいた。フランチェスコ・バニャイヤ(ドゥカティ)、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ)、ファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)らがその例だ。
彼らは序盤からレースをリードし、トップグループを形成。優勝に向け、逃げの体制を築き始めていた。だがマルケスはバイクを乗り換えた後、最終ラップの1コーナーで転倒。コースに復帰するも15位となり、獲得できたのは僅か1ポイントであった。
クアルタラロはピットアウトした1周目の3コーナーでコースアウトを喫し、さらに最終ラップででも1コーナーで転倒したマルケスの後ろでウエットタイヤのグリップを失い再びコースアウトした。そのクアルタラロはイケル・レクオナ(テック3・KTM)とルカ・マリーニ(エスポンソラマ)に続く7位でレースを終えた。
Quartararo was firmly in the lead fight before the rain came
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
この7位という結果はタイトル争いを牽引するクアルタラロにとって大きな意味がある。まず2021年シーズンのレース開催予定サーキットの中で、ヤマハが最も苦手とするレッドブルリンクでの2連戦で、2番手以降とのポイント差を拡大することに成功したという点だ。チャンピオンシップにおいて、ポイント差を拡大することの重要性は大きく、クアルタラロ本人も、その点を考慮していたと認めている。
「正直に言って、チャンピオンシップについて考えたのは今回が初めてだ」
クアルタラロはmotorsport.comの取材で、バイクの乗り換えを行なった際の戦略について聞かれるとこのように答えた。
「多くのリスクがある中で、愚かなクラッシュだけはしたくなかった。1コーナーでマルクが転倒をした時、もう少しで彼と接触するところだった」
「そうだね、チャンピオンシップについて考えなければいけない瞬間だった。34ポイントのリードを持って臨んだレースで、47ポイントまでリードを拡大することができた。このことによってより優位に立つことができたし、(優位に立てるとは)想像していなかった。僕たちは今チャンピオンシップにおいて、良いポジションにいる。このまま続けていきたい」
雨が本格的に振り出す前、クアルタラロはレースをリードしていたバニャイヤと3位を走行していたマルケスと共に後続に1秒以上の差を築いていた。クアルタラロはそのことに対し、レッドブルリンクで優勝できる位置にいたことはヤマハにとって“信じられない”ことだったと認めた。
2020年シーズンのヤマハにとってレッドブルリンクは悪夢の場所だった。ヤマハのライダー達はリヤのトラクション不足やエンジンのパワー不足に悩まされた。クアルタラロも2戦連続で開催されたレースをそれぞれ8位と13位で終えているのだ。
2021年のYZR-M1は前年型に比べて、トラクションが格段に向上。フロントエンドも強化された。そのため、直線でクアルタラロを抜かすことは簡単ではなくなった。オーストリアGPでは、雨が降り出す前の数ラップでマルケスを抑えて2番手を守り抜き、23周目では3コーナーでホルヘ・マルティン(プラマック)とバニャイヤを同時にパスするなど、クアルタラロの活躍が目立った。
また、他のライダーにとってレッドブルリンクでの2戦は、シーズン前半に4勝を挙げたクアルタラロの勢いを止めるためにビックチャンスのはずだった。とりわけ、ドゥカティが非常に得意とするコースであるため、ヨハン・ザルコ(プラマック)とバニャイヤは最低でも1勝をする必要があったと言える。
Quartararo's defence against Marquez showcased the improvements in Yamaha's package
Photo by: Dorna
しかし、後半戦初戦となった第10戦スティリアGPではタイヤトラブルに見舞われたバニャイヤは11位、ザルコは6位でレースを終え、全体的に物足りない結果となった。
また、スズキのジョアン・ミルはスティリアGPで2位、続くオーストリアGPで4位とクアルタラロの前でレースを終えたのにも関わらず、両レースを合わせて、55ポイントから、47ポイントと、僅か8ポイントしかその差を縮めることはできなかった。
チャンピオンシップ争いが終わったわけではないが、ヤマハが最も苦手とする場所で、クアルタラロの勢いは止まらない。では、ライバル勢は次戦以降のシルバーストン、アラゴン、ミサノといったヤマハの得意とするコースで、彼の勢いを止めるにはどうしたら良いのだろうか?
クアルタラロがチャンピオンシップを順調にリードしている今、彼はそのアドバンテージを守り、さらに伸ばしていくことが求められ、ヤマハのメインライダーへのプレッシャーは高まるばかりだ。
現在、バニャイヤと並んでランキング2番手につけているミルは、以下のように語った。
「ファビオは、これまでとは違ったチャンピオンシップを見ることになると思う」
「次の3レースでは、これまでとは違ったチャンピオンシップが展開されるはずだ。例え、彼が(ランキングで)大きな差を開いていても、毎レースごとにプレッシャーがかかってくると思う。ライダーにとって、そのプレッシャーをコントロールするのは常に難しいことだ」
「また、今のヤマハのプレッシャーは、おそらくすべて彼に対してかかっていると思う。これは昨年はなかったことだね。彼は本当に良くやっているけど、プレッシャーが高くなっていることは確かだ」
こうしたミルのコメントに対するクアルタロの反応は、現在のチャンピオン争いにおける彼の心境を物語っていた。
「あのレースでは、(※マーベリック・ビニャーレスがチームから出場停止処分を受けたため、唯一のヤマハファクトリーチームのライダーとしてオーストリアGPに参戦した)ヤマハの全ての重荷を背負っていたけど、レースには何の変化もなかった」
Quartararo rejected Mir's claims that he'll face more pressure now
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
「僕が思うに、(ミルのコメントは)僕にプレッシャーをかけようとする小手先の戦略だと思う。でも、僕には何の影響もないし、僕はシルバーストンで勝利を目指して戦うよ」
また、オーストリアGPの終盤ではチャンピオンシップのことが頭をよぎったが、ドライで懸命に戦っている最中は「タイトルの状況については“まったく考えていなかった」と付け加えた。
クアルタラロは、2020年のタイトル争いが大失敗に終わった後、今年のメンタルマネジメントについて率直に語ってきた。昨年の最大の問題は、厳しい局面で冷静さを保てなかったことだったが、今年はこの問題が完全に解決されたことは明らかだ。
「レースごとに感じていることは、将来のためにとても重要なことだと思う」
「バイクに乗るたびに、改善し、もっと速くならなければならないと感じる。チャンピオンシップの順位だけを見るのではなく、(チャンピオンシップのリードを守るために)ライバル達をみることが重要だと思う」
ヤマハのテストライダーであるカル・クラッチローは、クアルタラロが2021年のパフォーマンスを引き出すために、M1で何か特別なことをしているわけではないと言う。
そのこと自体が、タイトル争いのライバル達にとり懸念材料となるはずだ。ましてや、ヤマハが最も苦手とするレッドブルリンクでの連戦で、13ポイントも差を拡大し、チャンピオンシップのリードをほぼ2勝分に広げたのだからなおさらだ。
2021年のオーストリアGPは、雨の中でスリックタイヤを履いたビンダーが見事な勝利を収めたことが記憶に残るだろう。しかし同時に2021年のタイトル争いにおいて決定的な日になったかもしれない。
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