MotoGPで必要不可欠となっているビデオメトリーとは何か? 2024年には最高峰クラスの全チームが導入

MotoGPで現在重要性を増しているテクノロジーのひとつに、“ビデオメトリー”というモノがある。ライダーの走行改善に役立てられているこのシステムはいったいどんなものなのだろうか?

Alex Rins, Yamaha Factory Racing

 百分の1秒、千分の1秒を争う競争の激しさとなっているMotoGP。その極限の争いを突き詰める中で、ビデオメトリーという技術が各チームに広まっている。今回はそのシステムがどんなモノかを見てみよう。

 このビデオメトリーというシステムがMotoGPで使われ始めたのは、2010年代に入ってからだ。しかし今では大きな広がりを見せており、2024年シーズンには最高峰クラスの全チームが同様のシステムを導入するなど必要不可欠な存在となっている。

 ビデオメトリーのシステム概要は、コース場のある特定の地点……通常はコーナーとなるが、事前に決めたライダーの姿を記録し、それらの画像をソフトウェアで処理して重ね合わせることで、各ライダーの使っているラインが一目瞭然となり、ベンチマークとなる相手のラインをより楽に模倣することができるようになる、というモノだ。

 motorsport.comにシステム概要を説明したMotoGPの元テクニカルチーフは、こうも語っている。

「一度画像を取得すれば、それらを分析するのは非常に簡単なうえに、非常に効果的だ。同じバイクに乗っているライダーの比較では特にそうだ」

 最初にこうしてビデオをライダーのライン改善に用いたのは、ドゥカティのセルジュ・アンドレイという技術者だった。彼は2010年にドゥカティに加入する前に4シーズンにわたってシステムを開発し、さらにドゥカティでアンドレア・ドヴィツィオーゾの加入によってプログラムは完成に近づき、2013年末には形になった。

 アンドレイがシステムを開発していた当時は、動くラインの画像を重ね合わせるソフトがなかったため、独自に開発する必要があった。

 この技術に注目したLCRは、ステファン・ブラドルの成績向上を目指し、2014年にアンドレイと契約した。ただその後ブラドルはアプリリアへと移籍してしまった。

Cal Crutchlow, LCR Honda.

Photo by: Kevin Wood / Motorsport Images

Cal Crutchlow, LCR Honda.

 2015年、LCRにカル・クラッチローが加入するとビデオメトリー部門は成長しはじめ、マルク・マルケス(当時レプソル・ホンダ)の目にも止まるようになった。実際、マルケスはアンドレイの元を訪問するようになった。

 また同時期にはスズキも日本人技術者と共に同様の技術を使い始めたが、そのエンジニアは独自の部門立ち上げを図ったホンダに引き抜かれた。

 ただマルケスはあくまでもLCRにいるアンドレイの力を借りることを好んだため、ホンダの目論見通りとはいかなかったようだ。

 2024年にグレシーニへと加入するマルケスは、引き続きアンドレイとの協力を希望し、彼自身の引き抜きやソフトウエアの買い取りも申し出ていた。しかしアンドレイはここ10年間を家族のように過ごしてきたLCRで、自らの秘密を守ることを選んだ。

 またスズキで日本人技術者からビデオメトリーのポジションを引き継いだフランチェスコ・ムンゾーネは、このシステムについて次のように語っている。

「基本的に、これはトラックの特定のセクションでライダーを記録することによって構成されている」

「そして、それらを重ねることで異なる動きを確認でき、ライダーに自分の動きを見てもらうようにする。それが助けになるかもしれないんだ」

「元々は、もっと初歩的なモノだったが今ではソフトウェアプログラムが、フリーもしくはライセンスで存在している」

Marc Marquez, Gresini Racing

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

Marc Marquez, Gresini Racing

 こうしたムンゾーネの発言はつまり、今ではMotoGPチームが映像の解析のために特定のエンジニアを必要としなくなっていることを意味している。だからこそチームは映像のレコーダーとその編集者、そしてビデオメトリーコーチを導入しているというわけだ。

 2019年にヤマハはビデオの録画と編集の専門家であるダニエル・ボリーニを起用。その後、チームリーダー(当時はウィルコ・ズィーレンベルグ)がライダーと共に分析を担当するようになった。

 チームはこのシステムを使い始めてすぐに、”コーチ”が必要だということを理解し始めた。例えばVR46ではロベルト・ロカテッリをビデオメトリーコーチとして配置し、ライダーと分析を共に行っていた。現在、ロカテッリはチームを離れ、Moto2などに参戦していたアンドレア・ミーニョが、ビデオ撮影やVR46のライダーコーチであるイダリオ・ガビラのサポートを担当している。

 マルケスが加入したことで注目度が鰻登りとなっているグレシーニも、ビデオメトリーへの取り組みを行なっている。グレシーニでは125cc、250cc王者のマヌエル・ポジャーリを起用し、仕事を進めてきた。

 ポジャーリの仕事ぶりはドゥカティも高く評価しており、2024年にはドゥカティファクトリーチームのビデオメトリーチームにテクニカルスタッフとして加わってグレシーニ、ドゥカティの両者と仕事をする予定だ。

 プラマックも独自に人材を雇用し、そしてKTMとGASGAS、そしてアプリリア、トラックハウス(旧RNF)は同じ企業にビデオメトリーサービスを委託。これによってMotoGPクラスの全チームがビデオメトリーを活用する体制を整えている。

 僅差の戦いが続いているMotoGPだけに、全チームが導入することになったこれらのシステムをしっかりと活用することが、ライバルに置いていかれないためにも重要となってきそうだ。

 

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