コメンタリー

なぜホンダはポル・エスパルガロを起用する? マルケス弟にとって悪い話ではない理由とは

MotoGPに参戦するホンダは来季のライダーとして既にポル・エスパルガロと契約を結んだものと見られている。アレックス・マルケスは1年でファクトリーチームから離れることになったが、この移籍市場のうねりの背景を探ってみよう。

Alex Marquez, Repsol Honda Team

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Repsol Media

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 6月初旬、現KTMのポル・エスパルガロが2021年シーズンからレプソル・ホンダへ移籍するという情報が降って湧いた。

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 エスパルガロとホンダ間では既に合意がなされ署名と公表を待つのみとなっているが、エスパルガロの現在の契約条項もあり、それはまだ行なわれていないと見られている。

 この衝撃的な契約はアレックス・マルケスのレプソル・ホンダ放出という論理的な結末をもたらすことになる。既にホンダはマルク・マルケスと4年間の契約延長に至っているためだ。

 新型コロナウイルスの影響によってレースが行なわれていないため、アレックスは自身がファクトリーチームにふさわしいと証明する機会を持つこと無くこうした結果となってしまった。彼にとっては非常に酷かつ悪いことのように思えるが、現実としてはそれほど心配をすることはないかもしれない。

 キャッチされている情報では、エスパルガロとホンダの交渉は数週間前に始まったようだ。チーム上層部はライダー市場における最近のライバルの動きに反応する必要があるという判断を下した。

 最も早くに動きを見せたヤマハは、マーベリック・ビニャーレスとの契約を延長し、サテライトチームからファビオ・クアルタラロを昇格させることを決定。バレンティーノ・ロッシはファクトリーチームから外す決定を下した。そして過去に同チームで3度タイトルを獲得したホルヘ・ロレンソをテストライダーとして獲得した事実が、彼らの復権にかける決意を明確に示している。

 スズキもアレックス・リンスとジョアン・ミルという現在のライダー両名と契約を延長。昨年はリンスがマルケスとの一騎打ちでの勝利を含む2勝を挙げたが、スズキはこのプロジェクトを継続していく意志を見せた。

Pol Espargaro, Red Bull KTM Factory Racing

Pol Espargaro, Red Bull KTM Factory Racing

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

 次はドゥカティとKTMだ。ホンダからするとKTMについては直接的なライバルとはならないが、中期的にはライバルになり得る存在だ。そしてドゥカティはホンダにとって過去数年タイトル獲得に向けた最大のライバルであり、彼らは来季からジャック・ミラーを昇格させることを決めている。

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 motorsport.comの掴んでいる情報では、ドゥカティはエスパルガロの獲得に興味を持ったことは無い。彼の契約は年間180万ユーロ(約2億1800万円)で、今季限りで放出となるダニーロ・ペトルッチと比べても3倍ほどと推測される。だがエスパルガロが優勝を狙えるマシンを持つホンダに加入するため、減給を受け入れたことは想像に難くない。

 KTMとホンダの関係という面では、チームのボス同士では不正行為の疑惑を巡る激しいやりとりなどがあり、ここ数シーズンは緊張関係にあった。

 しかしKTMのMotoGPプロジェクトの要であり、初の表彰台をもたらしたエスパルガロが離脱することになると、それらの緊張関係にも変化があるだろう。

 KTMは今回の移籍劇によって直近と将来に向けた大きな希望を失ってしまうことになった。エスパルガロとの契約延長が望めないとなると、彼らはMoto2の有望株であるホルヘ・マルティンに目を向けたが、そのマルティンはドゥカティとプラマックらと契約。遅きに失する事態となった。

 KTMはエスパルガロの後任を探す必要に迫られることになるが、未だにドゥカティとの契約を延長していないアンドレア・ドヴィツィオーゾが候補となるのではないかとも言われている。ただ、ドゥカティの上層はKTMがドヴィツィオーゾと契約を望んでいるとは、現時点では考えていない様子だ。

■なぜホンダはポル・エスパルガロを獲得するのか

Alex Marquez, Repsol Honda Team, Cal Crutchlow, Team LCR Honda

Alex Marquez, Repsol Honda Team, Cal Crutchlow, Team LCR Honda

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

 話をエスパルガロの獲得に戻そう。まずエスパルガロはアグレッシブかつハードスタイルなライダーであり、理論上はホンダ・RC213Vの要求に合致する人材だと言えるだろう。

 またエスパルガロはレプソル・ホンダのスポーティングディレクターであり、この“椅子取りゲーム”のプレイヤーでもあるアルベルト・プーチに気に入られてもいる。

 そうしたエスパルガロの加入は、マルケス兄のプレッシャーを一部取り除いてくれるはずだ。昨年はロレンソが予想よりも適応に苦戦し、ホンダの3冠を実質ひとりで獲得するという大きなプレッシャーがマルケス兄へかかっていた。

 またそもそもの話となるが、プーチは昨年ロレンソが引退を発表した時からの当初のアイデアを必ずしも変えていない。当時はLCRホンダのカル・クラッチローを昇格させ、LCRはアレックス・マルケスと中上貴晶のペアとすることが理にかなった選択だった。

 しかし様々な商業上の理由によって制限を受けており、クラッチローをLCRホンダから移動させることはすべての関係者にとって好ましくない解決策となっていた。

 クラッチローの「契約が切れる2020年末に引退するかもしれない」という発言が、プーチに事前に手を打つことを強いる結果となったのだ。

 後にクラッチローはこうしたスタンスを引っ込めたが、現在では彼がMotoGPキャリアを継続させるにはどこか別のシートを見つける必要があると予想されている。

■アレックス、“偉大な兄”の呪縛から離れて成長する時間をゲット?

Alex Marquez, Repsol Honda Team

Alex Marquez, Repsol Honda Team

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

「HRC(ホンダ・レーシング)は常にMotoGPからMoto3チームまでその構造の将来について考えている」

 プーチはエスパルガロとの契約をmtoorsport.comに明かした後、そう語った。

「我々が置かれている状況を考えると、今シーズンは通常通りには進んでいない。しかしそのことでホンダがライダーたちの可能な限り最善な未来を計画することを止めるようなことは無い」

 最善の未来とプーチは語ったが、“エスパルガロのレプソル・ホンダ加入”はアレックスの離脱という問題を引き起こす。

 論理的に最高峰クラスでアレックスがシートを確保するためには、サテライトチームであるLCRホンダへ加入することが最も自然な選択肢だ。

 そしてLCRホンダでなら、アレックスの浴びるスポットライトは今季予定されている10〜12レースで偉大な兄と並んで走る時よりも少なくなるはずだ。

 MotoGP史上でも最も偉大なライダーのひとりに既に数えられている兄と常に比較され、その結果としてかかるプレッシャーは非常に大きなモノであり、おそらく良くない効果を与えることになっていただろう。

 そして残る最後の疑問は『アレックスを離脱させずにこの“パズル”を解決する方法は無かったのか?』というものだろうが……単純な答えはノーだ。

 半年前の状況では、アレックスを入れ込む適切な場所に空きはなかった。しかし今はあるということだ。

 プーチとホンダが行なっている全てのことは、そもそも行なわれているべきだった方法へ修正を加えていることだと言えるだろう。

 

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