クアルタラロの”ツナギ事件”が浮かび上がらせた、MotoGPの“罰則”問題点

2021年のMotoGP第7戦カタルニアGPでは、ヤマハのファビオ・クアルタラロがライダースーツがはだけた状態でレースを走る事態が発生し、後にペナルティが科された。これはこのレースの中心的なトピックスとなっているが、MotoGPのスチュワードパネルに関する疑問を浮かび上がらせており、今後に悪影響を残すかもしれない。

クアルタラロの”ツナギ事件”が浮かび上がらせた、MotoGPの“罰則”問題点

 6月初旬に行なわれたMotoGP第7戦カタルニアGP。決勝レースはKTMのミゲル・オリベイラが優勝を果たしたが、週末のメイントピックスは彼ではなくペナルティを受けて降格したヤマハのファビオ・クアルタラロだった。

 クアルタラロはレース終盤、ライダースーツ前面のファスナーが開いた状態となってしまい、胸部プロテクターも投げ捨てる形に。残り5周と少ない周回数だったが、素肌を晒した状態でレースを続行し、そして走りきった。

 3番手でレースを完走したクアルタラロは、終盤に犯したショートカットによって3秒のタイム加算ペナルティが決定。それによって4位に降格した。そしてフィニッシュから数時間後、FIMスチュワードパネルはライダースーツ着用にレギュレーション違反があったとして、更に3秒のペナルティを決定。クアルタラロの最終リザルトは6位まで降格した。

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 クアルタラロのレース中の行動、そしてスチュワードパネルによる決定など、この一件はレース後の大きなトピックスとなった。

Fabio Quartararo, Yamaha Factory Racing

Fabio Quartararo, Yamaha Factory Racing

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

「3位から4位への降格という同意できないペナルティをもう貰っている。だけどペナルティは十分なものだと思う。レースは終わっていて、安全も……僕らは完走して全部が安全だった。だから今はこれ以上話すことはないと思うし、これ以上話す意味もないと思う」

 クアルタラロはトラックリミット違反によるペナルティを受けた後、そう語っていた。

 しかし実際にはライダースーツの件でさらなる処罰が決定……安全性の問題が指摘されたのだ。そしてレースの1週間前、イタリアGPでMoto3ライダーのジェイソン・デュパスキエが事故死したばかりであるため、この問題は生々しいものとなっている。

 FIMのレギュレーションでは『トラック上での行動中は、常に装備を着用し、適切に固定する必要がある』と定められており、クアルタラロはライダースーツのファスナーが開いたとき、この規則には従っていなかった。

 しかしながら、そうした違反がどのようなペナルティを受けるかについては記載がない。クアルタラロは状況を把握して減速し、スーツを適切に着直してからレースを続けるべきだったという主張もある。しかしそもそも、それらの決定は、彼の側で下すべきものではなかった。

 レプソル・ホンダのポル・エスパルガロは、クアルタラロの行動が正しかったかどうかについて訊かれると、自分が同じ状況ならレースを続けただろうと語っている。

「レース中にグローブを付けている時、(ファスナーを)また閉めるのは難しいのは確かだ」

「でも正しかったかどうかは分からないし、それは僕の仕事でもない。黒旗であれなんであれ、僕には分からない。セーフティコミッションで話すことになるだろうけど、レザースーツの問題だった。彼もレース中にスーツを開きたいとは思っていなかっただろうね。それに僕がそうなったとしたら、レースを続けてできるだけ前方でのフィニッシュを目指すだろうね」

Fabio Quartararo, Yamaha Factory Racing MotoGP

Fabio Quartararo, Yamaha Factory Racing MotoGP

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

 エスパルガロ以外にも、クアルタラロと同じことをしただろうと認めるライダーは存在する。それこそが、レースディレクションが技術的な問題を知らせるオレンジディスク旗や、失格とする黒旗を示すべきだった理由だ。仮にクアルタラロがスーツの開いた状態でクラッシュをした場合、その結果は厳しいものになっていたはずだ。だからこそ、レースディレクションにはクアルタラロを“救うため”の義務があった。

 この観点から語っているのは、ドゥカティのジャック・ミラーだ。彼はライダー達は結果を追い求めてそれ以外のことを考えていないのだと指摘しており、外部からの働きかけが必要なのだと語る。

「結局のところ、僕らは“レーサー”なんだ」

「『レザースーツが開いているぞ』と、そう言わないといけない。そして『だからレースを止めろ』と言う必要があるんだ。僕らはまず怒るだろうけどね」

「でもライダーなんて人種は、特にああした状況なら安全や自分のことについては考えていない。結果のことだけ考えている。僕らを信用してはいけない。だからこそ、誰かが見ていないといけないんだ」

Fabio Quartararo, Yamaha Factory Racing

Fabio Quartararo, Yamaha Factory Racing

Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images

 またレザースーツが開いたままだったこと以外に、クアルタラロが胸部プロテクターを投げ捨てたことも問題視された。ジョアン・ミル(スズキ)は「他ライダーを危険に晒す行為」であり罰則に値すると言及。クアルタラロがSNSで反論するきっかけとなった。

「さらなるペナルティが必要だと不満を言っていた人全員に、おめでとうと言わせて欲しい」と、クアルタラロは語る。

「僕は誰も危険に晒していないし、このことで僕はライディングが大変な状況だった。でも一部の人の“真の顔”を見ることが出来て良かったよ。この厳しい瞬間に僕を支えて助けてくれるすべての人にありがとうと言いたい。また次のレースで会おう」

 コース上での装備に関する裁定の問題に戻ろう。今回の件で浮き彫りになっているのは、レギュレーションの隙間と、スチュワードパネル制度の問題点だ。

 2020年のスティリアGPではMoto3クラス予選でクラッシュしたジャウマ・マシアが、グローブ無しそしてコースにオイルを撒きながらピットレーンに戻ったことで、Q2セッションから除外されたことがあった。なおこの際は“無責任な走行”に対する処分とされていた。

 しかしこのグローブ未装着という点でも、別の見方をすれば様々な問題が発生する。規則の『全てのコース上の活動』という文言は、クールダウンラップで観客席にグローブを投げ入れる(当然ビフォア・コロナ時代だ)ライダーが違反しているではないか、という主張が可能となる。そうした例は他にもあり、2018年にはMotoGPラストレースとなったスコット・レディングがアンダーウェア一丁になりそのままピットに戻る……という事もあった。しかし、それらがスチュワードによって罰せられたりはしていない。

 だがクールダウンラップであろうと事故は珍しいものではない。レーシングスピードでなくとも危険は常に存在する。

 つまり安全装備を巡るルールを更に深く分析すると、“クアルタラロが開いたレザースーツで走ることと、クラッシュしたバイクで走ることは何が違うのか?”という疑問が湧いてくるのだ。

 これまでにもスチュワードパネルがその裁定でライダーから批判されることはあったが、今回のアクシデントによって制度の問題点がさらに浮き彫りになったことは明らかだ。

 3秒のタイム加算ペナルティはただの“なだめる”ための決定に過ぎないが、さらなる論争を呼ぶことになった。そして、ルールを書き換えること無くこうしたペナルティを科したことは、今後同じ様な状況が発生した際に悪い前例となってしまうはずだ。

 

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