分析

MotoGP

導入検討の無線システム、MotoGPのDNAを変える“黒船”になるのか?

MotoGPはサンマリノGPのフリー走行で無線を用いた警告システムのテストを行なった。しかしこうした試みは、F1のようなチームとライダー間のコミュニケーションの解禁へ進み、MotoGPのDNAを損ねるのではないかという懸念も浮かび上がらせた。

Lewis Duncan

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編集: 2020/09/15 8:49

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Stefan Bradl, Repsol Honda Team

 ミサノ・サーキットで行なわれたMotoGP第7戦サンマリノGP。そのフリー走行ではレプソル・ホンダのステファン・ブラドルの手によって、無線システムのテストが行なわれていた。

 これはプロモーターのドルナ・スポーツからの要望によるもので、彼らはコース上の危険をライダーに伝達する新しい手段を導入することを検討している。

 レッドブルリンクで行なわれたオーストリアGPでは1コーナーの脱出で転倒したエネア・バスティアニーニのマシンがコースの中央で止まり、それを避けきれずハフィス・シャーリンがマシンに衝突して大クラッシュを喫するという場面があった。この際、他のライダーの後方にいたシャリーンからはトラックに残されたマシンが視認できていなかったはずだ。

 また同じオーストリアGPのMotoGPクラスではヨハン・ザルコ(アビンティア)とフランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)のふたりが接触によって高速状態でクラッシュ。結果として赤旗が掲示されたが、多くのライダーは赤旗を視認しておらず、ダッシュボードにもメッセージは送られていなかった。

「多くのライダーは赤旗を見ていないと言っていた」

 無線による警告システムの導入についての考えを訊かれたカル・クラッチロー(LCRホンダ)は、そう語った。

「彼らは赤旗を何周も見ていないと言っていたし、ダッシュボードにも表示されていなかった。だから、それ(無線警告システム)はそういった意味では良いと思うよ」

 大クラッシュが起こった後、連戦で行なわれたスティリアGPのセーフティコミッションの場で、無線システムのテストを再度行なうことが決定された。このシステムの考えは、レースコントロールによって事前に収録されたメッセージが、前方に危険のあるライダーに警告として送信されるものだ。

 安全という観点から見ると、これは極めて論理的なステップと言えるだろう。スペインGPのFP3ではマルク・マルケス(レプソル・ホンダ)がレースラインに乗るアレックス・リンス(スズキ)の前方で減速したことでリンスが抗議を行なっていた。しかしリンスはその際、他のライダーの転倒によって振られていた黄旗を認識しておらず、逆にマルケスは黄旗に反応して減速した結果だったとして、黄旗時のスローダウン義務が厳格化される、という一幕もあった。

 一部のライダーからは、F1のようなマーシャルポストでのライトによる警告システムの実施も求められており、これはオプションとして調査されている。

 また現在ライダーはダッシュボードに表示されるメッセージで情報を得られるが、ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)はそれでは伝達が遅いと指摘している。

「本当に重要だと思うのは、チームが情報をダッシュボードに送る時、それは次のセクターになるということだ」

「いくつかのセクターは短いし、30秒後になることもある。僕としてはダッシュボードにより明確なメッセージが表示されることが重要だ。無線については、どうなるか見てみよう。試してみないことにはわからないからね」

 なお9月15日(火)にはミサノ・サーキットでテストが行なわれるが、その際無線システムを全てのライダーがテストする予定となっている。

■無線警告システムが“蟻の一穴”になるのか? 双方向無線には批判も

 ただ、この無線システムの導入に向けた動きに関しては、ソーシャルメディアやジャーナリスト、一部のライダーたちから「MotoGPのDNAを破壊するのではないか」といった多くの否定的な考えが寄せられた。

 ドルナのカルメロ・エスペレータCEOが「将来的にはおそらくチームからライダーへの無線交信が可能となる」とコメントしたことが、その撃鉄となった。

 チームからの無線が許可されることで、F1のようにチームから選手へ次々指示が飛ぶことが予想され、MotoGPのレースの価値を下げるのではないかと恐れられているためだ。

 ポル・エスパルガロ(KTM)は無線システムのこうした見通しについて、次のように警告した。

「問題は、もし無線を可能にしたら、マシンに何が起こっているのかをピットボックスが瞬時に管理するようになるかもしれない、ということだ」

「次のステップはピットボックスがタイヤの消耗や様々なことを確認し、ライダーにあれをしろ、これをしろと伝えてくることだろう。だから、結局はライダー(の要素)は減り、より機械的なモノになる。それはF1で起こっていることで、僕はそれが本当に好きじゃない。僕はMotoGPをより人間的なスポーツとして維持したいんだ」

 確かに、F1ドライバーがレース中にライバルへの不満のメッセージを無線で即座に送る姿から、F1ドライバーの剣闘士的なイメージを損ねたという論を重ねるのは容易い。しかしその一方で、無線が最終的にレース自体の価値を台無しにするようなことは露骨なチームオーダーを除けば“ほぼ”ないとも言える。例えば、優勝ドライバーが無線を使っていたとしても、2020年イタリアGPや2019年ドイツGP、2011年カナダGPといった劇的なF1レースの結果にケチがつくことは無い。

 更に言うと、エンジニアがどれほどドライバーに話しかけようと、違いを生むのは常に人間だ。そしてそれはMotoGPにおいても常にそうなるだろう。

 そもそもMotoGPには現在ライブテレメトリが存在しない。そのためチーム/ライダー間の無線が実現したとしても、FIMがライブテレメトリを禁止し、“人間的な”要素を維持することにそれほど時間はかからないはずだ。

 そして“人間”という要素は、無線導入の如何に関係なく常に残り続ける。たとえ無線が導入されたとしても、ライダー側が無線を使用するのは簡単ではない。バイクレースはより肉体的に負担が大きいものであり、F1ドライバーはコーナー毎にポジションを変えることなどは無いのだ。

「(無線に)返答できるかどうか、だろう」と、クラッチローは言う。

「どうやってバイクを乗っているか、そして喋れるのかそうでないかに依存する。なぜなら一部のライダーはライディングしているとき激しく呼吸をしていて、別のライダーは口を閉じていることもあるからだ」

■無線の存在はMotoGPのレベルを上げる?

 新型コロナウイルスの影響によってシーズンが中断されている期間、MotoGPは公式ゲームを使用したeスポーツイベントを開催していたが、そこではライダーが互いに話しながら会話をすることができ、彼らのコミュニケーションの一端を垣間見ることができた。

 F1において無線は、セッション中のドライバーの考えやコメントを聴くことのできる、ユニークな要素として楽しみのひとつを提供している。例えばランド・ノリス(マクラーレン)の表情豊かな会話は、無線のエンターテインメントとしての価値を証明している。そして、MotoGPも同じように会話のキャラクター性に富んだライダーが存在する。

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「まあ、僕がキミ(ライコネン)になるだろうね」と、クラッチローは冗談を飛ばす。

「僕やジャック(ミラー)がチームと話しているのを想像できる? ずっと“ピー音”で消されてるだろうね!」 

 MotoGPがこの無線警告システムを、F1のような無線に発展させていくかどうかはまだわからない。しかし全てのシリーズは新しいモノへオープンな心を持つ必要がある。

 双方向の無線導入はMotoGPを退屈にする……そうとは考えられないと、最年長のバレンティーノ・ロッシは語っている。

「僕が思うF1と比較したMotoGPの強みは、レースがより面白いということだ。なぜなら戦いがより激しいからね」と、ロッシは言う。

「F1は世界トップのモータースポーツで、クルマのパフォーマンスは信じられないほどだ。世界一速いクルマを作るという、速さへの挑戦なんだ」

「僕がMotoGPのほうが楽しいと思うのは、ライダーのコミュニケーションが無いからだとは思わない。僕らはトップレベルのモータースポーツであり、モーターサイクルレースなんだ」

「ピットとのコミュニケーションは僕らのレベルを上げることができると思う。フリー走行でスローダウンしていれば、F1のようにピットと話す時間はあると思う」

「だから僕としては、それは興味深いね。僕らのレースのDNAを変えるようなことは無いと思う」

 

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