不振を乗り越え、SF初ポールの阪口晴南が記者会見でぶつけた想い。「苦戦しているドライバーに『もうダメなんじゃないか』と思わないで」
2024年のスーパーフォーミュラ第1戦でポールポジションを獲得した阪口晴南。記者会見では、チームメイトと比べて後れを取っているドライバーに対し、その資質に関して早計な評価をしないでほしいと自身の思いを訴えた。
鈴鹿サーキットで行なわれたスーパーフォーミュラ第1戦でポールポジションを獲得したのは、VERTEX PARTNERS CERUMO・INGINGの阪口晴南だった。事前の下馬評が決して高くなかった“ダークホース”のポール獲得に、関係者も驚かされた。
「2コーナーを曲がったら38(号車がトップ)と見えて、『晴南に抜かれるってことは相当下だ』と失礼ながら思っていました(太田格之進/DOCOMO TEAM DANDELION RACING)」
「僕も38が(自身より上の順位にいるのが)見えて『俺10位くらいかな』と思いました(野尻智紀/TEAM MUGEN)」
予選2番手、3番手のドライバーがそう冗談めかして語るように、これまでの阪口はスーパーGTでは際立った速さを見せながらも、スーパーフォーミュラではポールポジション争いに絡めないレースが続いていた。フル参戦デビューの2021年こそ2度2位に入ったが、以降の2シーズンは表彰台に絡めず、ランキングも中位〜下位に沈んだ。その一方でチームメイトの坪井翔は2023年シーズンに表彰台3回を記録してランキング4位と、大きく差をつけられる形となっていた。
しかし今回の予選で阪口は、Q1を3番手で通過すると、Q2に向けては施した変更が功を奏し、見事最速タイムをマーク。フル参戦4年目で初のポールを手にした。
ポール獲得の鍵となったセッティング変更について多くを語らなかった阪口だが、フロント周りに変更を施したとのこと。阪口としてはQ1と同じ方向性のセットとすることを希望していたが、パフォーマンスエンジニアの岡島慎太郎エンジニアの提案もあり、変更に踏み切ったという。
「マシンバランスの面ではオーバーステアを抱えていましたが、阪口選手は『このままQ2に行けばオーバーは解消されるのではないか』とのことでした。しかし、ポールを狙うならパフォーマンスも上げながらバランスを合わせ込むのが必要だと思ったので、そういったセットアップを(トラックエンジニアの)渡邊信太郎エンジニアに提案しました」と語るのは岡島エンジニア。昨年まではTGM Grand Prixに所属していたが、今季から同じく他チームから移籍してきた渡邊エンジニアと共に阪口を担当している。
そういったエンジニアの機転もあり、嬉しい初ポールを獲得した阪口。予選後の記者会見が終わろうとしていた頃、阪口が「あと一個いいですか?」と切り出し、次のように語った。
「僕はこれまで2年くらい苦しいレースが続いて、(会見場で)皆さんの前で話すことがなかったのですが、例えばチームメイトに対して遅れているからとか、すごく低迷しているからといって、そのドライバーだけの問題ではないこともあります。もちろん、ドライバーの問題という場合もありますが」
「皆さん、後方で苦戦しているドライバーに対して『もうダメなんじゃないかと』とは絶対に思わないでいただきたいです。ここにいるドライバーは皆素晴らしいドライバーばかりですし、チャンスを掴めばすぐに上位に顔を出せる選手なので、そういった点は期待をしていただきたいです」
この発言に、会見場は拍手に包まれた。会見後のミックスゾーンで阪口は「負けている時にそれを言うと、負け惜しみみたいになってしまうので言えませんでしたが、今回は前のポジションで終われたので、言おうと思いました」と、発言の背景を明かした。
レーシングカーという精密機械を使うモータースポーツは、ドライバーの実力以外の様々な要因が結果を左右することも多い。ミリ単位、コンマ数ミリ単位のマシン調整でパフォーマンスを追求しているスーパーフォーミュラなら、なおさらのことだ。スーパーフォーミュラは今季から「ヒューマンモータースポーツ」というスローガンを打ち出し、純粋にドライバーの腕を競うカテゴリーであることをアピールしているが、それでも”道具”の影響が及ぶことは避けられない。
しかしながら、ドライバーの能力というのはリザルトだけで一元的に語られてしまいがちなことも確か。そういった風潮に苦しんだ阪口だったからこそ、出てきた言葉なのだろう。
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