華奢な女性ドライバーは不利? Jujuの実父・野田英樹氏がSF重量規則について持論述べる「レース業界全体が考えていくべき」……チーム代表は“サンプル”の少なさに言及
今季からスーパーフォーミュラに参戦するJujuの父である野田英樹氏は、現在の同シリーズの最低重量に関する規則は果たして女性ドライバーにとって公平なのかどうか、検証する必要があると考えている。
今シーズン、TGM Grand Prixからスーパーフォーミュラに参戦するJuju(野田樹潤)。18歳になったばかりの女性ドライバーが日本人女性としては初めて国内トップフォーミュラに挑戦するということで、大きな注目を集めている。2月15日の日本大学での記者会見も、多くの報道陣が集まり華々しく行なわれた。
その会見の中でJujuが、司会者から「スーパーフォーミュラのレギュレーションは女性には不利と聞いている」と水を向けられる一幕があった。それに対してJujuは確かにそう感じる部分があるとしつつ、「その環境の中で私ができることは、ベストを尽くして最大限のパフォーマンスを発揮し、『女性はモータースポーツで通用できない』というステレオタイプを払拭すること」だと語った。
そのレギュレーションについて追って詳しく補足したのが、Jujuの実父でありNODA RACINGの監督、TGM Grand Prixにはアドバイザーとして関わることになる野田英樹氏だ。
英樹氏は娘のハードなトレーニングを間近で見てきたからこそ、男女にはフィジカル面で埋めがたい差があることを痛感しているという。そんな性差がある中で、英樹氏が「果たしてイコールなのかどうか」と投げかけるのが、車両の最低重量規則だ。
JAFモータースポーツのサイトには、2023年版ではあるがJAF国内競技車両のレース車両規定が公開されている。これによると、スーパーフォーミュラ車両の重量は「677kg未満であってはならない」とされている。つまり、最低重量が677kgと定められている、ということになる。
そして、ここにおいての「車両重量」とは、車体のみの重量ではなく、そこに乗り込むドライバーと、ドライバーが装備するヘルメットなどを含めた重量を指す。それはすなわち、仮にドライバーが乗っても最低重量をクリアできない場合は、車両にバラスト(おもり)を積んで対処する必要があるということだ。
関係者への取材によると、現行車両『SF23』単体の重量はチームや車両ごとにバラつきがあるものの、600kg〜615kgの範囲ではないかとのこと。例えば600kgの車両に装備品含め70kgのドライバーが乗るとした場合、最低重量に対する不足分7kgはバラストで補わないといけない。
英樹氏は、現行のレギュレーションではJujuが約25kgのバラストを積まないといけないと説明。男性に対して体格や筋肉量で劣る女性ドライバーが、男性と同じ条件でこのようなウエイトを積んで走ることがイコールと言えるのか、考える必要があると述べた。
野田英樹氏
Photo by: Motorsport.com / Japan
「Jujuが日々トレーニングしている姿を間近で見ていますが、もし彼女が男性であれだけの努力をしていたら、身体つきは違うと思います。現実的に、女性があれだけの努力をしても男性と同じだけの筋力はつかない。これが男女の差だと思います」
「重量の面で言えば、彼女は体重が軽いです。今のレギュレーションは体重約75kgのドライバーに合わせて最低重量が決まっています。言ってみれば75kgあるドライバーはそれだけの筋力がある。彼女は50kgちょっとしかないので、約25kgのウエイトを積まないといけません。この25kgのウエイトは、75kgのドライバーであれば筋力で補うことができますが、彼女は筋力がないにもかかわらず鉛を積んで走らないといけないんです」
「これが果たしてイコールなのかどうか、考えないといけないポイントじゃないかと思います。日本では競馬などで若干そういう(性差に対応する規則が作られる)傾向がありますが、日本のレース界も女性が活躍する時代になったからこそ、新たな課題として業界全体で考えていかないといけないと思います」
その一方で、体重の軽いドライバーがバラストを多く積むということはメリットが多いと指摘する声もある。
前述の車両規定には、バラストは「その取り付けを目的とした位置」に「取り外しに工具を必要とするような方法」で固定される限り使用が許されると記されている。搭載位置にそれ以上の明確な規定はないようだが、シャシーメーカーであるダラーラのユーザーズマニュアルにはバラスト搭載位置としてキール(フロア前端付近。シートに座ったドライバーの脚の下あたり)とシート下が推奨されているという。
したがって、バラストを都合の良いように自由自在に振り分けるわけにはいかないようで、その中で25kgもの大量のバラストを積むことは搭載場所の振り分け的に未知の領域だとする声もある。一方でシート下などに重量物を置けることで低重心化ができるという点は、確かなメリットと言えそうだ。
このように最低重量のレギュレーションについては複数の見方や意見があるが、スーパーフォーミュラを主催する日本レースプロモーションに対して具体的に意見を述べたり提案をする予定はあるかと英樹氏に問うと、「Jujuの父親である私がひとりでそういったことをするのはどうなのかという思いもあるし、ポジションとしては微妙なところ。ただ女性が今後活躍する上で、今のレギュレーションが本当に正しいのかという検証をする必要がある、という話をすべきなのかなと思います。ただ今予定があるかと言われればそうではありません」との回答だった。
■現状のレース界は女性ドライバーの「サンプルが少ない」状態
これについて、TGM Grand Prixを率いる池田和広代表にも見解を聞いた。
池田代表は無類の競馬好き。乗るものが競走馬とレーシングカーという違いはあれど、競馬とモータースポーツは共に、男性と女性が同じフィールドで競い合う競技だ。そして競馬では、基本的に女性騎手の負担重量を2kg軽減するという制度がある。
競馬では一般的に重量1kgに対して1馬身の差がつくと言われているが、「それ(減量制度)で実際に女性の勝率が伸びているかと言われたら、そこまで効果は出ていないのかもしれない」とのこと。ただそのように、男女混合の競技で女性に対するハンデを設ける競技も実際に存在する。
Photo by: Motorsport.com / Japan
池田代表も、スーパーフォーミュラにおいては体重が軽くその分バラストを積める方が基本的には有利だと語った。ただその一方で、英樹氏が言うように同じ体重でも男女で筋力差がある場合はその限りではないだろうとも認める。
そして女性ドライバーを取り巻く現在のレギュレーションが公平かを判断するには、“サンプル数”が圧倒的に足りていないと述べた。これは英樹氏の言う「検証が必要」という主張とも一致している部分があるように感じられる。
「もちろん男女差は圧倒的にあると思います。ただ、モータースポーツというクルマを使うスポーツにおいて、どのくらいの差があるのかは証明できていないと思います。なぜかというと、競技人口で女性の方が圧倒的に少ないからです」
「もし女性ドライバーが男性と同じくらいの数いればサンプルは取りやすいですが、今のように男性と女性が10:1くらいの人数比での比較となると、(「男性と女性の比較」ではなく)『Juju選手との比較』になってしまいます。そこで(レギュレーションを調整した場合)、ガタイの良い、筋力のある外国人の女性ドライバーが来た時に、今度は全然楽勝だったということになってしまう可能性もある。でも、サンプルが少ないからそれもなんとも言えません」
「そのサンプルが少ないのは、女性にとって何か壁になるものがあったからだと思いますし、だからこそパイを増やしていく努力は我々もしないといけないと思います。そしてレギュレーションを調整するべきなのか? (男女で)どのくらいの差があるのか? それらを数字や理論付けで解明するのが大事だと思います」
「モータースポーツでは、同じ筋力差であれば(体重が)軽くてその分ウエイトを積む方が有利になります。しかし筋力差などによっては、(女性が)不利になる可能性がある。ただそのバランスが分からないので、解明する必要があると思います」
英樹氏のこのような発言を巡っては既に報道もされており、SNSを中心に様々な意見が飛び交っている状況だが、池田代表は「野田さんがこうやって自身で発言することで、それがみんなを動かすことに繋がっていくと思います。言う人がいるから考えが生まれて、色んな人の意見が出てくる。そういう意味でも、女性アスリートの新しいページを作っていくことは大事なんじゃないかと思います」と述べた。
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