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次はSF連覇へ……F1を経験しても“まだ終わらない”山本尚貴の挑戦

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次はSF連覇へ……F1を経験しても“まだ終わらない”山本尚貴の挑戦
執筆:
2019/10/23 10:03

F1日本GPのフリー走行1回目に、トロロッソ・ホンダから出走した山本尚貴。90分という限られたセッションの中で経験し、手に入れたものを引っさげ、今度は新たな“挑戦”に立ち向かおうとしている……。

 5年ぶりに日本人ドライバーがF1の舞台に登場し、大きな歓声に包まれた日本GPのフリー走行1回目から、早2週間が経とうとしている。

 その舞台で主役となった山本尚貴は、早くも次の任務を達成するために、準備を進めている。

F1挑戦の裏にあった“葛藤”

 FP1では幼少の頃から夢見てきたのF1の舞台に立つことができ「最高の時間だった」と感慨深い表情をみせていた山本だったが、その一方で彼はひとつの“葛藤”と戦っていた。主戦場であるスーパーフォーミュラとスーパーGTで結果が出ていなかったのだ。

 昨年、史上4人目となる国内トップカテゴリー二冠達成という偉業を成し遂げた山本。それを実現したのも、事前に準備をし、セッションのことや与えられた仕事を完遂することだけに集中、そしてそれを成し遂げる……。山本が築き上げてきたスタイルが存分に発揮されての結果だった。

 今シーズンも序盤戦は王者らしい速さをみせ、特にスーパーフォーミュラではチームを移籍したにもかかわらず、序盤の3戦で表彰台を獲得するという安定した強さをみせていた。ここまでは“さすがチャンピオン”というパフォーマンスだったが、その“オーラ”はシーズン中盤になって薄らいでいった。特に今回のFP1の話が本格化した夏以降は、本人も両立を試みたものの、意識のほとんどがF1に向いてしまい、国内レースに集中し切れていない様子が明らかだった。

「スーパーフォーミュラとスーパーGTに対して今まで通りの力を注げたかというと……正直、その時間を削がないといけない部分も出てきました。それは自分としても辛かったですし、なおさら今年は成績が良くなかった部分もあって、チームに対しても申し訳なかったです」

「仮にF1を挑戦していなかったらSFとGTで結果が良かったかというと、それも正直分かりません。何があってもその時の結果だし、後になって言うことはいくらでもできます。何が影響していたかのかを言うのは難しいです」

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ドライバーとしてさらに進化するための“決断”と“覚悟”

 現在31歳という山本がF1に初めて挑戦することは決して簡単なことではない。しかし彼は様々なリスクを理解し、さらに家族に会えない日々が増えるのを承知の上で、それでも“F1に挑戦したい”という道を選んだ。

 それは自分が幼少の頃から夢見てきた憧れの舞台にただ挑戦したいという想いだけでなく、日本人ドライバーが再びF1の門を叩くことで、これからF1を目指す若手ドライバーの道筋を作ることにもなる。

 ただ、山本は「あくまで今回の挑戦は自分のため」と語った。レーシングドライバーとして、自分自身がさらに成長・進化をしていきたいと強く思っているからだ。だからこそ、中途半端で終わらせたくないーー。

 その想いと努力が、彼自身を突き動かし、それこそFP1が始まる直前までピエール・ガスリーをはじめスタッフたちとコミュニケーションをとるなど、初の走行に向けて少しでも有益な情報を集めようとしていた。

 そうした事前準備が90分間のセッションで存分に発揮され、『初のF1公式セッションでノーミスのパフォーマンス』、『タイヤのコンパウンドは違えど、チームメイトと0.1秒差』という結果につながった。久しぶりに“山本尚貴らしい走り”を、この日本GPのフリー走行1回目で感じることができた。

努力した結果、勝ち取った“信頼”

 それだけでなく、山本の努力と熱意にトロロッソも反応した。

「こうして90分を走り切ってポテンシャルもチームメイトに見劣りしないものを見せることができたと思いますが、それからエンジニアやチームの僕に対する見る目が変わったのか、逆に向こうからコミュニケーションをとってくれるようになりました。それは嬉しかったです」

「どの選手権であっても、どの国でレースをしても、やっぱり結果が大事だなと改めて思いました。やっぱり複雑なシステムになっていて『F1は特殊だ』と言われますが、最終的にはやっぱり人と人なんだなと改めて感じました」

 山本尚貴というドライバーは非常に芯が強そうに見えて、実は誰よりも周りのことに気を配り、周囲の反応を気にする繊細な一面も持っている。だからこそ、失敗が許されない90分間のセッションに向けて、誰も経験したことがないような計り知れないプレッシャーと闘ってきたことは容易に想像できる。

 それでも、それをF1日本GPという日本のファンや関係者がたくさん見守る舞台で成し遂げられたことが、彼にとって大きな自信に繋がったようだった。

 セッション後、山本に話を訊く機会があったのだが、そこでの表情からは“新しい何か”を手に入れられたという自信にも似た何かを感じ取ることができた。

「こうして自分が(F1に)乗って、クルマを操ってみて、改めてF1ドライバーの凄さというのがよく分かりました。自分もこれから努力をさらにし続けなければいけないなということを改めて教えられた1日でした」

「将来的なことも大事ですが、今の僕の年齢で、このタイミングで感じることができたというのは非常に良かったことだなと思います」

「そして今回改めて気付かせてくれたのは、どんな選手権であっても、どんなマシンであっても、やっぱり努力して準備したことは裏切らないということでした」

 努力して準備してきたことは裏切らないーー。

 今まで山本が国内レースでも貫いてきたスタイルが、FP1という限られた舞台ではあるものの、世界に通用した。それを再確認できたことが、彼にとっての大きな収穫のひとつとなったことだろう。その“自信”こそが、今後の彼の強さに繋がっていくような気がする。

 日本GPでの走行を終えた彼の表情を見て、筆者はそう感じた。

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山本尚貴の真価が試されるSF最終戦

 そして、そこで得られたモノを早速発揮できる機会がある。山本が立ち向かうべき次なる任務「スーパーフォーミュラの連覇をかけた最終決戦」だ。

 F1の世界を実際に経験したこと、今まで体験したことのない景色を見たことによって“得たモノ”を、山本が初めて実戦で試す舞台となるのだ。

 今シーズン、山本はチーム移籍を決断。その際、さらに飛躍をするために長年在籍したTEAM MUGENを離れ、新天地のDOCOMO TEAM DANDELION RACINGへ向かうことを決めたと語っていた。

 新しい環境で勝ち星を重ねるなど結果を出していくことで、またひとつドライバーとしての価値を上げられるーー。今回のF1挑戦も「レーシングドライバーとしてさらに高みを目指すことで、自身の価値を上げたい」そんな想いも込められているようだった。

 昨年、死闘を繰り広げたニック・キャシディ、期待の新人アレックス・パロウ、そして山本と同じく世界へ羽ばたこうとしている山下健太を相手にすることになる。おそらく日本のファンや関係者は“SFの現王者”、そして“ニッポンのエース”の名にふさわしい戦いぶりを期待し、今まで以上に山本の一挙手一投足に注目することだろう。

 国内2大カテゴリーの王者という立場で、さらなる高みを目指し、F1日本GPでFP1出走を実現した山本尚貴。彼の“挑戦し続けた2019シーズン”の、ひとつの集大成が発揮されるレースウィークになりそうだ。

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この記事について

シリーズ F1 , スーパーフォーミュラ
ドライバー 山本 尚貴
執筆者 吉田知弘