スーパーフォーミュラ

ダンパー共通化の噂に揺れるSFパドック……車両セッティングを司る“超重要”アイテムの変革にエンジニアの意見も様々「面白くない」「腕の見せどころ」

スーパーフォーミュラでは、来季からダンパーが共通アイテム化されるのではないかという噂がパドックを駆け巡っている。この動きがなぜ関係者間で大きな話題となっているのか? 調べてみた。

戎井健一郎 田中 健一

編集: 2023/08/24 10:46

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SF23 front bulkhead

 最近、スーパーフォーミュラのパドックを騒がせている話題がある。それが、近い将来(おそらく来シーズン)にダンパーが共通アイテム化されるのではないかという噂だ。

 なぜダンパー共通化が関係者間で大きな話題となっているのか? それは、ダンパーが現在のスーパーフォーミュラの“クルマづくり”における極めて重要な開発領域となっているからだ。

 ダンパーは簡単に言えば、サスペンションの動きを制御するための装置だ。

 車両は、路面の凹凸などからくる入力を、タイヤ→ホイール→サスペンションという順番で吸収する。そのサスペンションにはスプリング(コイルスプリングであったりトーションバースプリングであったりする)が設けられていて、これによってその入力を吸収するわけだ。

 このスプリングは平たく言えばバネ。通常のコイル状のバネを想像していただくとわかりやすいと思うが、バネは入力を受けると縮んでその力を吸収するが、それに反発して伸びる動きに転じる。ただその後は伸び縮みを繰り返すことになってしまい、放っておけばマシンは“跳ねっぱなし”になってしまう。そのバネの動きを収束させ、“跳ねっぱなし”の状態を抑えるために抵抗を与えるのがダンパーの役割だ。

 レーシングカーのグリップを最大限に引き出し、適切な車高を維持して安定したダウンフォースを発生させるためには、車両が進行方向に対して前後に傾くピッチングや左右に傾くローリングなど、車体の姿勢を制御するのが必要不可欠。そのためにダンパーは極めて重要なパーツだと言え、そのセッティングはマシンのパフォーマンスを大きく左右する。

 とあるチームのエンジニアは「そこが酷いセットアップなら本当に酷いマシンになってしまうし、逆に良いセットアップなら本当に速く走れる。その感度が非常に大きいんです」と話す。

 そんな“超重要アイテム”であるダンパーは現状、チームによって様々なメーカーのものが使用されている。ダンパーの減衰力の設定が同じだったとしても、メーカーが違えばドライバーのフィーリングは異なるとのこと。その中でチームは「自分たちのやりたいことができるダンパー」を追い求め、メーカーにオーダーメイド品を特注したり、改造をしたり、中には内製もしているチームもあるという。実はインディカーシリーズやフォーミュラEも、スーパーフォーミュラ同様に車体はワンメイクだが、ダンパーはチーム独自に開発が行なわれている。

 そんなダンパー開発を規制するという動きに関しては、コストの削減を理由に以前から様々な案が話し合われているという。一部のチームが使う先進的なダンパーを規制するという案、現在使用するダンパーの開発を凍結するという案……それらが二転三転した結果、現在は来季から共通ダンパーが導入される方向で話が進んでいると言われる。ワンメイク供給となるメーカーについては、まだ確定していないようだ。

 この動きに関しては、関係者間でもその立場によってかなり意見が分かれている。匿名で取材に応えてくれたエンジニアのコメントのうち、一部を紹介する。

SF23のフロントサスペンション。斜めにモノコックに接続された”プッシュロッド”の先にスプリング(トーションバー)とダンパーが繋がれている。

SF23のフロントサスペンション。斜めにモノコックに接続された”プッシュロッド”の先にスプリング(トーションバー)とダンパーが繋がれている。

Photo by: Masahide Kamio

■エンジニア間でも意見は割れる

 まずは、先述の通り「ダンパー設定の感度は非常に大きい」と語っていたエンジニアにダンパー共通化に関する私見を聞くと、「腕の見せどころなんじゃないか」と語る。彼のチームは現在、ダンパーにかかるコストの大きさには苦しんでいるということで、共通化については概ね好意的であった。

「(ダンパーに関して)なんとなく感覚で『こうしたら良くなりました』の積み重ねでやっていると、出来ないことが増えた時に対応できませんが、理屈が全て分かっていれば対応できると思います。コンペティションとして新たなものが始まる、と考えれば良いのだと思います」

「(コスト削減により)お客さんが楽しめる方向にリソースが回ればと思います。やっぱりウチも半端じゃない数のダンパーを持っていて、お金がかかるんですよ。オーバーホールも海外に持って行って……それが自分たちの給料にも跳ね返ってきている状況ですが、でもやらざるを得ない」

「コストがかからないような範囲でやれるとしたら、(ダンパーの自由化は)やって欲しいです。でも今のダンパーはお金がかかり過ぎだと思います。やっぱり、コストをかければできることも存在しますから」

 一方別のチームのエンジニアは「一言で言えば、面白くないですね」と不満げだ。試行錯誤を繰り返してマシンを少しでも速くするというエンジニアリングの魅力が損なわれるためだ。

「僕たちはダンパーを長い間使い回していますが、その中で毎年新しい発見があります。ダンパーとしての理想を追い求めて、それほどお金はかからないものの、細かい部分をブラッシュアップして、改造しています」

「そういったダンパー個体としての性能アップなどの開発を楽しくやっていたのですが、それがなくなってしまいます。減衰力の設定はできるにしても、ただベストな減衰力を求めるだけになってしまいます。そうなってくると差別化もできないですし、どのチームも似たような減衰力で走ると思うので、大体(数値が)決まっちゃうと思います。だから面白くないです」

 また彼は、共通化の理由として挙げられているコスト削減という観点について、共通化によって新たにダンパーを一式買い換える方がコストがかかるのではないかと指摘する。

 ダンパーには左右それぞれのサスペンションに繋げられるコーナーダンパーと、左右のサスペンションを繋いでピッチングを制御するサードダンパーの3本がある。それが車体の前後1セットずつ搭載されているため、1台あたり6本が搭載されている。マシン1台あたりのダンパーにかかる費用は数百万円と言われており、2台体制のチームならもちろん2倍の費用がかかることになる。しかも、練習走行の時間が非常に少ない現在のスーパーフォーミュラでは、迅速にセッティング変更を行なうために、各チームが仕様違いのダンパーを複数セット持ち込むのが当たり前となっている。そうなると、仮に共通ダンパーを導入することになれば、各チームで一千万円を超える初期投資が必要なのではないかと指摘する声もある。

 ダンパーはそもそもモノコックやカウルの下に格納されており、ファンからは“見えない”。見えない部分にお金をかけるべきではないという意見と、エンジニアリングの領域が狭まることでスーパーフォーミュラのシリーズとしての価値が下がってしまうのではないかという意見、そしてそもそも、本当にコスト削減になるのかという意見……。白熱するレースの裏では、スーパーフォーミュラの将来に関する様々な思惑が渦巻いている。

 

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