激走するドライバーのすごさがよく分かる! バトル中は“カメラカー”を設定せよ|アプリ『SFgo』でもっと楽しむスーパーフォーミュラ
2023年の正式ローンチに向けて、スーパーフォーミュラが開発しているデジタルプラットフォーム『SFgo』。2022年のスーパーフォーミュラもてぎ戦を振り返りながら、その楽しみ方を探る。
写真:: Masahide Kamio
スーパーフォーミュラは『SUPER FORMULA NEXT50(ネクストゴー)』プロジェクトの一環として、デジタルプラットフォーム『SFgo』を開発している。
このSFgoはレースの公式映像に加えて、全ドライバーのオンボード映像やテレメトリーデータなどをライブとアーカイブの両方で楽しめるアプリケーション。中継映像では捉えきれなかったアクシデントやバトルの一部始終を車載映像を通して確認することができ、その際には各車のオーバーテイクシステムの残量やタイヤ温度、スロットル開度なども見られる。これを使えば、スーパーフォーミュラ観戦の形が大きく変わるはずだ。
2023年に正式ローンチ予定の同アプリは、既に一部の“開発サポーター”や関係者向けにリリースされているが、今回はモビリティリゾートもてぎで行なわれた第7戦・第8戦を振り返りつつ、自動車評論家の両角岳彦氏の解説と共にSFgoの楽しみ方を探っていく。
■雨のフォーミュラレース、ドライバーってこんなに大変
スタート直前に雨脚が強まり、終始ウエットコンディションでのレースとなった第7戦は、ポールポジションからスタートした山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)がそのまま逃げ切り移籍後初勝利を飾ったが、SFgoのオンボード映像を見ると、雨の中でレースを戦うドライバーがいかに過酷な状況に置かれているかがよく分かる。
上の比較写真は、5番グリッドからスタートした牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)と山本の車載映像。セーフティカー先導中に100km/h前後で走行している際の牧野のオンボードカメラ(連続写真1枚目)では、前方を走る車両がハッキリと見えているが、レーススタートが切られてレーシングスピードに到達すると(連続写真2枚目)、先行車の水煙で前方の視界は真っ白。テールランプすら見えていない状況だ。
また、90度コーナーに突入する先頭の山本と牧野を比較すると、その違いは一目瞭然。山本はクリアな視界でコーナーに突入できているのに対して(連続写真3枚目)、牧野の視界はご覧の通りだ(連続写真4枚目)。
「自分のタイヤからもこれだけ多くの飛沫が上がっている訳です。今までもオンボード映像を通して『見にくそうだな』と思うことはあったと思いますが、SFgoは全車のオンボードが見えるので、同じシークエンスで前と後ろとを比較すると、(トップと)2、3台後ろにいる人とでこれだけ視界に差があり、雨ではトップが明らかに有利だということがよく分かりますよね(両角氏)」
雨の中でのドライビングの大変さを物語るシーンとしてもうひとつ、平川亮(carenex TEAM IMPUL)のスピンアウトがある。
平川は最終ビクトリーコーナー手前のゆるい左カーブでターンインをしようとした直後にコントロールを失いスピン。バイザーにトラブルが起きていたことで、視界がさらに悪かったことも一因と言われている。
オンボード映像ではスピンに至るまでの一部始終が確認できるが、これを見た両角氏は「平川は可哀想だった」と分析する。
「セカンドアンダーブリッジを抜けた先の浅いコーナーで少し舵角が入り、ターンインを始めようとしています(連続写真2枚目)。ウエットの時は始動を早くしないといけないことを平川はよく理解している訳ですが、次の瞬間、手が逆にいっていますよね(連続写真3枚目)。ターンインをしようとした瞬間に後ろが流れてしまい、スナップ・オーバーステアが出ている訳です。これはドライバーとしては対処のしようがないです」
「水煙の上がり方を見ると、アウト側(右)からの方が飛沫が多いですよね(連続写真2枚目)。つまり、この瞬間に右リヤタイヤがアクアプレーニングを起こしている可能性が高いんです。アクアプレーニングと言うと、雨の日に直線を走っていて車全体が滑るというイメージで語られることが多いですが、実は1輪ずつで起こったりします。後輪がグリップを失ってスリップしてしまうと、いくらカウンターステアを打っても、スピンモードを止めることはできません」
続いての写真は、レース終盤の関口雄飛(carenex TEAM IMPUL)とジュリアーノ・アレジ(Kuo VANTELIN TEAM TOM’S)のバトルを捉えたもの。アレジ視点から見れば前を走る関口の姿がほとんど見えないようなシーンもあり、このような状況下で接近したバトルができるのがお互いに信頼、信用があるからこそだと両角氏は語る。
「レーシングドライバーという仕事はやりたくないなと思わされます(笑)。写真1枚目は白い霧の中にいるように見えますが、左側にいる19号車(関口)の前輪がかすかに見えています。この視界でバトルしているんです。改めて連続写真で『こんな視界でよくこんなことをやっているな』と思いながら見ると面白いですよね」
「飛沫の中でも、お互いに『俺がいること分かっているよね』という信頼関係がないと走れないですよね。箱車だと多少接触しても『こんなものか』という程度で済みますが、フォーミュラだとタイヤ同士が当たってしまうと車両が飛び上がってしまいます。連続写真4枚目のアレジも軽く接触していますが、もう一歩後ろでタイヤが当たっていたら飛んでいたでしょう。駆動している後輪にフリーに回ってる前輪が乗っかると必ず飛んでしまいます。つまり(関口の後輪に対して)前に当たっても飛ばないとアレジはわかってるんですよ。関口の後輪と(後ろから)重なりそうな時はやっぱり避けています」
ウエットコンディションの第7戦はオーバーテイクが少なかったこともあり、比較的淡々とレースが進んでいったように見えた。しかし全車のオンボード映像が見られるSFgoでは、ウエットコンディションでのレースがいかにドライバーにとって大変でスリリングなものかを肌で感じ取ることができるのだ。
■各車の思惑が交錯するスタート。“カメラカー”を設定してバトルを楽しもう
第7戦の翌日に行なわれた第8戦は、一転してドライコンディションでのレースとなった。関口、平川のcarenex TEAM IMPUL勢がワンツーフィニッシュを飾ったこのレースでは、各車のバトルに焦点を当てて振り返ってみよう。
まずはスタートシーン。ここではフロントロウの2番グリッドから発進したサッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)の蹴り出しが悪く、3番グリッドの野尻智紀(TEAM MUGEN)の先行を許すことになるが、その一連の動きは6番グリッドの平川の車載映像で見ると分かりやすい。
「SFgoの見方として、『ここの戦いを見たい』と思ったら、その競り合いのすぐ後ろにいるクルマのカメラを使うこと。そこに“カメラカー”がいると思えばいいんです(両角氏)」
「平川が1速から2速に入ってフル加速する中で、明らかに野尻が右を向いています。これはサッシャの出足が鈍いのを見て、サッシャの前を潰しにいっているんです。この時山下健太(KONDO RACING/4番グリッド)は逆に1コーナーに向かってアウト側に進路を変えています。サッシャのスタートミスによって、3号車(山下)、1号車(野尻)のイン・アウトが交差して入れ替わるという運動が起きている訳です。ちなみに、もてぎは1コーナーまでの距離が近いと言われますが、平川は1コーナー手前で4速200km/h近くまで出ていますね」
また両角氏は、スタート時の平川のテレメトリーデータからローンチコントロールが作動していることも分かるとして、少しマニアックな視点から解説した。
「1速に入れている時、転がり出さないようにブレーキを少し踏んでいますね(連続写真1枚目)。実はこの時はブレーキを踏んだままアクセル全開で、クラッチを握っている状態です(※写真のスロットル開度が100%でないのは、電子制御によってアクセルペダルを踏み込んだ状態でもスロットル開度をコントロールしているため)。そしてエンジンは8200回転前後で回り続けていて、この状態でローンチモードに入っています」
「エンジンとして一番トルクが出ている状態でクラッチをオンにしたいので、いわゆる“半クラッチ状態”でのアクセル操作はクルマ側がやってくれるというイメージです」
続いても平川のカメラから。これはレース終盤にピットインしてフレッシュタイヤに交換した平川が、前を走る関口と牧野を追いかけているシーンだ。
まず残り4周で牧野を攻略して2番手に。この際平川はフレッシュタイヤの強みを活かして瞬く間に牧野に接近し、5コーナーへのブレーキングに入る手前からオーバーテイクを成功させている。「5コーナーへの加速の時点で決着が付いていますね。フレッシュタイヤは(横方向だけでなく)加速方向のグリップも高いということがこれで分かります」と両角氏。
そして次の相手はチームメイトの関口。最終ラップの時点でオーバーテイクシステム(OTS)を56秒残していた平川は、4コーナー立ち上がりからOTSを作動し、最後のスパートをかけた。対する関口は5コーナー立ち上がりの時点でOTSが残り0秒となり苦しい状況。ふたりは最後のオーバーテイクポイントとも言える90度コーナーで交錯することになる。
ライバルとの駆け引きを演出するため、ロールバー周辺のOTSランプは作動から時間差で光るようになっている。しかしSFgoであれば、OTSが作動した瞬間がどこなのか、現時点で何秒分残っているかなどがピンポイントで分かるという点も面白い。
このように、SFgoは2台によるバトルをお互いの立場から見ることもでき、前述のように集団でのバトルの場合は注目すべき車両の後方に“カメラカー”を設定して状況を俯瞰することもできる。レース後のアーカイブにアクセスして、リアルタイムでは注目できていなかった箇所に目を向けることも可能だ。SFgoで提供される全車オンボードやテレメトリーデータを駆使すれば、工夫次第ではレース展開ごとに様々な楽しみ方ができそうだ。
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